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甲斐性と雨宿りしたら

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雲が重く垂れ込み、今にも雨が降り出しそうな夜。
高い湿度が全身に纏わり付くような不快感を誘ってくる藪の中、一体の鬼を斬り伏せた煉獄は、咄嗟に口元を隊服の袖で覆い隠し顔を顰めた。

頸を落とした鬼を見下ろすと、鬼は身体を崩して消えながらも草むらに埋もれつつ下卑た笑みを浮かべる。


「どうだ、オレの血鬼術は」

「往生際が悪いな。何をした」

「オレの吐く息には精神を左右させる力がある。あんたには堕落効果のものを何度吹きかけても効かなかったからな…最後に、逆に興奮させるものをお見舞いした」

「……」

「催淫効果もあるぞ。気分はど」


言い切る前に、鬼の頭部は突如落下してきた裸足に踏み砕かれて、そのまま塵となり霧散した。


「よう、杏寿郎」

「君か」


暗闇でも映える金色の瞳を見るまでもなく、猗窩座だった。足元で消滅した同胞には目をくれず、よっこいせと立ち上がる。
任務地は伝えていなかったはずだが、昼間に移動しているこちらをどのように追跡しているのやら。


「今夜はおしまいか?」

「うむ、君が踏んだ鬼で最後だ」


なかなか人の手が入りにくいだだっ広い薮に、三体の鬼が群れるでもなく個々に縄張りを持っていた。

連携を図ってくる様子もなかったが一、二体目の鬼を相手取っている最中、三体目の鬼が妙に木の上からこちらを窺っていると思ったら血鬼術をしかけていたらしい。
戦闘中、確かに倦怠感のようなものがあったが、湿度による不快指数の上昇によるものだろうと判断して気にもしていなかった。

しかし。
どくん、どくんと次第に大きく脈打ちはじめた鼓動は、確実に身体の異変を告げている。


「ん、やはり降ってきたな。」

猗窩座の言葉に煉獄が空を見上げると、鼻先にぽつりと小さな雨粒が落ちてきた。気づけば遥か遠くでは雷の音も聞こえてきている。
一滴零れ落ちてからは、限界まで膨れ上がった雨雲から、もう蓄えきれないとばかりにぱらぱらと細かい雨が降ってきた。

「行こう、杏寿郎。すぐに強くなるぞ」


一人でさっさと行ってしまっても構わないのに、わざわざこちらを促してくる鬼に小さく笑う。
上昇していく心拍数を気にしつつ、煉獄は猗窩座のあとに続いて走り出した。


雨足は瞬く間に激しくなってきた。粒も大きくなり、ばしばしと全身に容赦なく叩きつけてくる。
地面は落ち葉や泥で真っ黒にぬかるみ、跳ね返り飛び散ったそれらが足元に纏わり付く。

先程よりも近いところで雷鳴が唸り、数秒の間を置いてぱっと周囲が瞬いた。
雨の紗幕に視界がぼやける中、前方を駆ける鍛え抜かれた背中だけははっきりと見えていて。
離れないよう追随する速度に無理はないはずだ。しかし、妙に息が上がっている。この荒れた天候のせいだろうか。


確か薮を抜けた先には畑が広がっていて、更にその先に町があったはず。
それなりの距離はあるが、この速さで移動すれば町まで然程時間は要しないだろうと煉獄が考えていたとき。
猗窩座がぱっと振り返った。


「    、     !!」


足は止めずに、右前方を指差して何やら叫んでいるようだが如何せん雨音が激しすぎる。
葉や地面に雨粒が打ち付ける音に掻き消されて聞き取ることはできなかったが、不意に猗窩座が右に逸れた。

おそらくあの辺りから畑に切り替わるところだ。
要領を得ないままあとに続くと、豪雨でけぶった視界にぼんやりと小さな建物が見えてきた。
桃色の頭はどうやらそこに向かっているらしいことに気付き、なるほど雨宿りできそうな小屋があったのでそこに入ろうということだったのかと合点した。


先に到着した猗窩座が中を窺っている。
すぐそばに畑があることから、作業に必要なものを保管している物置小屋であろうことが推察できた。
雨宿りに使えるという合図だろうか。猗窩座は再びこちらを振り返り、片手を挙げると開戸の中へと消えていった。


少しして煉獄も小屋へと辿り着いたが、やはり不自然に息が上がっている。軽く流した程度で、鍛錬の走り込みにも満たない運動だったにも関わらず、肩で息をしていた。

…熱い。
走ったあとだからだろうか。…否、これは違う。発汗を促すような熱さではなく、身の内が熱い。
腹だ。下腹部。そこがじくじくと疼くように熱を溜め込んでいる。


猗窩座により開け放たれた開戸の横で、煉獄は中には入らず小屋を背にしてずるずるとしゃがみ込んだ。地面が近くなり、土を穿つ水音がばしゃばしゃと嫌に煩わしく感じる。

その小屋は見るからに粗末で、掘っ建て小屋もいいところといった有様だった。屋根はトタンで壁は申し訳程度の薄い縦長の木材を横並べに拵えただけという簡素な造り。
外観からでも中が狭いであろうことは容易に想像がつく。
近距離であの猗窩座を相手に異常を知られないよう誤魔化すことは、恐らく難しい。


「……ふー…、」


意識して呼吸を整えると幾分か落ち着いたものの、心拍数はやはり高いようだ。

雨にぐっしょり濡れた隊服は冷たくて、本来なら体温を急速に奪っていくはずなのに、その感覚も定かでないほど熱い。
膝を抱え込むようにして蹲り、腕の中に顔を埋める。
多少は軒下に屋根がせり出してはいるが、外にいる煉獄の頭や肩には不規則に雨が落ちてきていた。

このまま熱が引けるまでやり過ごすべきだろう。
しかしやり過ごすにしても、これがあの鬼の術なのだとしたら一体いつまで続くのか。朝日が昇るまでだろうか。


作品名:甲斐性と雨宿りしたら 作家名:緋鴉