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上司と部下

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日が一番高くなった頃、仕事を一区切り終えた二人組みの男達が

駅近くの馴染みのファーストフード店に入っていく。

「静雄、悪りぃ。席取っといてきてくれるか?」

「うす。」

「お前の分は何にするよ?」

「そっすね。てりやきとバニラシェイクでお願いします。」



「それだけじゃ栄養バランスわりぃからポテトも頼んどくぞ。」

「バランスっすか。・・・あー、それもそうっすね。じゃあポテト追加で。」



ドレッド頭の男がレジに並ぶとバーテン姿の男は席を取るために二階に上がっていく。

バーテン姿は遠目から見てもかなり目立つ格好で、もちろん店内でも遠慮の無い視線が突き刺さる。

だが本人は、視線を浴びていることをまったく気にしていない様子で店内を歩き回る。

派手なサングラスで目は隠されているが、その容姿自体もかなり整っており

そういった面でも目立っている様子だ。だが関わり合いを避けるように視線をすぐに戻す者もいる。

視線をはずした者の中には彼の正体に気づいた者もいるのだろう。

平和島静雄。

様々な感情が入り混じり、語られるその名は池袋界隈に轟いている。

皆一様に、進んで関わり合いにはなりたくないであろう、その人物は

今日も上司とファーストフード店で昼食を取るべく、こじんまりと席に座っていた。



「夜までに残りは4~5件ってところだな。今日は割りと順調なんじゃねーか?

静雄も今日はあんまり切れずに、一軒壁壊したくらいだしな。」

「そっすね。いつもあれ位素直に払ってくれるといいんすけどね。」

「いやまーな・・・。俺らのとこに回されてくんのは、一通りは通告っつーか忠告っつーか、

まぁとにかく話し合いの段階は通り過ぎたって連中だからな。

今日たまたまスムーズに行ったのも、静雄の名前聞いて相手が震え上がったおかげだ。

・・・静雄、お前最近更に有名になってねえか?」

素朴な疑問を口にすると、部下はシェイクを啜りながら答える。

「有名っつーのはよく分かんないっすけど。どっちかっつーと有名って言うのは

幽とかのことを言うんじゃないすかね。」

「いやお前・・・。そりゃそうだけど、そもそも比べるのが間違ってるぞそれ・・・。」

「まぁ、とにかく仕事やりやすいのはいいことっすね。」

会話の流れに何か釈然としないものを感じたが

「・・・そうだな。いいこった。」

ドレッドヘアの男、田中トムは大きくうなずくのだった。


食事を終え、そこからまた近場で支払いの滞っている顧客相手に

取立てを行う。

往々にして顧客が支払いをごねたり開き直ったりするため

その度に静雄が沸点を越え、傍にあった設置物を引きちぎり剥ぎ取って

顧客にぶつけるか、もしくは顧客そのものを投げ飛ばしたりするのだが

午前中に続いて残りの仕事も拍子抜けする位上手く行ってしまった。

顧客対応の時間よりも、移動にかけた時間の方が長い位だ。

あまりに順調に行った仕事にも関わらず、田中トムは何か嫌な予感を感じていた。


・・・こりゃあ、順調に行った分、この後何かしらデカいトラブルが待ち受けてます!

ってことじゃねえよな・・・。


田中トムの長所を挙げるなら、その中のひとつには危機察知能力が挙げられるだろう。

限りなくカタギではないギリギリの仕事を日々こなしているこの男は、

相手の心情の機微を察知し、自分に有利な方向へ転がしていくことには特質した

能力を有する。また、どこまでが安全でどこからが踏み込んではいけない領域なのかを

無意識のうちに察知している。

だからこそ感じ取ったその嫌な予感は、不幸にも的中することになる。



仕事が完了した旨を報告するために電話を会社に入れる。

しばらく通話したあと、やれやれといった様子で首を振りながらトムが携帯を切る。

「・・・静雄、一件追加だわ。・・・っかーーー!順調すぎんのも考えもんだなまったく。」

「全然大丈夫っすよ。どこすか。」

「いやそれがな。俺も行った事ない相手なんだわ。

結構使い込んでる客みたいでな。督促にも反応しねーし

ここんとこ連絡も付かなくて夜逃げでもしたんじゃねーかっつー話らしい。

まぁ、様子だけでも見といてくれってよ。」

あまり情報のない相手との交渉はトラブルの元だ。

トム自身あまり乗り気では無かったが行かないわけにもいかない。

渋々といった感じで歩き出す。






小汚い小さなアパートにたどり着くとインターホンを押す。

ドアからは何日分もの新聞がはみ出しており、部屋の電気も付いていないようだ。

初めて訪れる相手のため、ガスメーターを確認しても居留守かどうかは分からないだろう。

これで相手が出てこなければ、不在だったと報告して今度こそ

早めに切り上げようと考えていたトムだったのだが・・・。


キィ。


チェーンを掛けたままのドアが少しだけ開かれ

目の下が窪み頬の痩せ切った男が顔の半分だけを覗かせた。


「・・・何か用ですか・・・?」


何だ、居るんじゃねえかよ・・・。

「あぁ、ちょっといいかな。実は・・・。」

内心少し呆れながらいつも通り相手の利用しているサイトの名前を出す。

説明しながらもさりげなくドアの隙間に足のつま先を入れることを忘れない。


「聞き覚えあるでしょ?で、お兄さんの支払いが滞ってるってことで俺たちが回収にきたわけ。

何回も連絡来てたでしょ?突然の訪問で悪いんだけど、

払うもの払ってくれればすぐに退散するから。」


相変わらず僅かしか開かないドアの向こうの相手に向かってとつとつと説明する。

ドアから少し離れた場所、ちょうど死角となる位置に静雄が立っているが、相手には見えていないだろう。

もしここでごねれば静雄にドアを開けてもらうか、とトムが思案していると



「・・・ちょっと待っててください。手持ちあったかな。」

そう呟くと痩せぎすの男は部屋の奥へと引っ込んでいく。


・・・おいおい。今日はまったくどうなってやがんだ?

普段であれば、大半の客は知らぬ存ぜぬの一点張りか、開き直って踏み倒そうとするか

脅迫まがいの暴言を吐くかして追い返そうとするのがほとんどなのだ。

もちろんそこで静雄が活躍することになるのだが。


やや間があって声が届く。

「・・・すいません。全額あるか分からないですけど、今ある分なら払えます。

・・・ちょっと足どけてもらっていいですか?チェーン開けますから。」




何てこった。今日はあれだな。パーフェクトってやつだな。

トムは言われたとおり差し込んでいたつま先を引っ込める。

静かにドアが閉められると、チェーンの外される音が響いてくる。

ガチャガチャ・・・ガチャ・・・。





・・・こんなに早く終わらせるのも久しぶりだな。

今日の夕飯は静雄をサイモンとこにでも連れてってやっか・・・。

・・・それにしても何かコイツ・・・素直すぎねーか?

ジリッと何かが焼けるような感覚を覚える。

いつもであれば瞬時に理解する感覚。

それまでが余りにも順調に進んだせいで、少し、ほんの少しだけ生まれた油断。
作品名:上司と部下 作家名:えも野