早乙女さん家のラスボス系お姉ちゃん2
「話を変えますが…お前は私に初めて負けた日の事を覚えていますか?」
「!?あぁ…あの日だけは絶対に忘れねぇよ…」
「あの日……うちに帰った後、お母さんにそれとなく聞いてみたんです…」
「……何を?」
「“乱馬は私よりも弱い男に育っていたらどうするのか?”と」
「!!お袋…何て…言ってた?」
まどかはその時の母親の顔を思い出しているのか…少し沈んだ声音で話し始める。
「とても悲しそうな顔をしていました……武闘家として…男として強くなる為に送り出した息子が…何時も家で顔を合わせている娘の私よりも弱いのですから……」
「……」
「解りましたか?お前は私よりも弱くてはいけないのですよ……この10年以上…お母さんは何時もお前の事を心配していました…片時もね」
「姉ちゃんがいただろ…?」
「お母さんは…“子供が一人いればいい”なんて考える様な人じゃありません……私がいるかいないかなんて関係無いのです」
「……」
「私が手加減してわざとお母さんの前でお前に負けても…才能を放棄して…お前が私よりも強くなってもそれは違うでしょう?」
「あぁ…手加減されて勝つくれぇならボコボコにされた方がマシだ」
「乱馬……」
何時の間にか二人の会話を聞いていたあかねが心配そうに許婚を見ている。
「なので……私はお前を強くする為に徹底的にお前を追い込む事とします……人間は環境に適応しようとする事で成長する生物なのですから」
「なぁっ…!?」
「もしも……お前が私に勝つのを諦めたり、ある程度の年齢まで勝つ事が出来なかったら…」
「なっ…なれなかったら?」
「お前には男を捨てて貰います」
「へっ!?」
「えぇっ…!?」
「「「「「えぇっ!?」」」」」
まどかの言葉に何を言っているのか理解出来なかった周囲の面々はキョトンとしている。
「どっ、どういう意味だ!?男を捨てるって?」
「中国で腕試しをしている時に知ったのです」
まどかは中国で倒した武闘家集団の中に呪泉郷で溺れた者の姿をお湯を掛けても戻れなくする道具を持っている者達がいた事を教える。
「つまり…その姿になったお前を元に戻れなくする事が出来るのです」
「そっ…そんな事が…!?」
「マジか!?(…俺もPちゃんから元に戻れなくなるのか…)」
驚愕している乱馬達にラスボス系美少女は言葉を続ける。
「切腹するよりはマシでしょう?お母さんも女に戻れなくなったお前を見れば…考えも変えるでしょう」
「姉ちゃん……」
「まどかさん……」
まどかはその場にいる良牙をさり気なく見た後…あかねを見ながら言い放った。
「あかねさんも…他に相手が幾らでもいそうですし……お前が居なくなっても彼女次第で幾らでも幸せになれるでしょうね」
「なっ…!?」
「くっ……!?」
「……(…少し複雑な気分…)」
ラスボス系美少女は弟を見下ろしながら告げた……その姿は高いカリスマ性と威厳に満ちていた…傍目から見ていた乱馬の同級生は語っている。
「いいですか?四の五の言わずにやるのです…お父さんの言う“男の中の男”というのが…どういう男なのかは知りませんが……少なくとも私はどんな困難にも言い訳なんてしないで立ち向かう男こそがそういう者だと思っています」
「……あぁ!」
「それを私達に示しなさい」
「わかったよ!姉ちゃん!!」
こうして……『早乙女まどか』は弟の物語のラスボスとなったのであった。
【おまけ1】
「ハーブ様……大丈夫ですか?」
「あの女に負けたのが…よほど応えたんだな」
「まさか……女一人に俺達『麝香(ジャコウ)王朝』が叩きのめされるとはなぁ」
「あぁ…それにしてもあの女…美しかったな…めちゃくちゃ強かったし…」
麝香王朝の次期王位継承者『ハーブ』は部下の言葉を聞きながら自分を完膚無きまでに叩きのめした日本人女性の事を考えていた。
「……(何だ?この感じは…あの女の事が頭から離れん!?)」
麝香王朝は1400年以上続く男性のみの格闘集団である。呪泉郷で女性にした動物に子供を産ませるので、当然の様に異性との恋愛経験は無い。なので…ハーブは自分の感情が解らなかったのである。
『また来ます』
「!!」
「ハーブ様!?」
「どうしたんですか!?」
「今から修業をするぞ!!ライム!ミント!付き合え!!」
「「!?わっ…解りました!!」」
麝香王朝はラスボス系美少女との再戦の為に王朝全体が修業へと入ったのであった。
【おまけ2】
「なぁ?その状態で姉ちゃんと戦ったらどうなるんだ?」
「はっ!?」
丹田に『喜面流拳印術』を施された事で世界最強の男となった良牙は乱馬にそう尋ねられてハッと息を呑んだ。良牙は初対面から乱馬の姉であるまどかに逆らう事が出来なかった。なので…鬱憤晴らしを兼ねて彼女に勝負を挑む事としたのである。
「はぁ!」
「うぐぅ!?」
まどかは良牙の攻撃を避けると同時に彼の顔面に飛び膝蹴りを叩き込んで吹き飛ばされていた。喜面流拳印術の効果である自動反撃も見切られており、フェイントで反撃を誘発されて攻撃を叩き込まれたという感じである。
「この様な物に頼るとは…恥を知りなさい」
「はい…(泣)」
喜面流拳印術に解放されて喜んでいいのか…それでも勝てない事を悲しんで良いのか?判らない良牙であった。
【おまけ3】
これは中国から八宝齋を狙って牛の頭に雪男の体に鶴の翼と鰻の尻尾をした怪物に変身するイケメンが来訪しており、天道家の現れた男がちょうど降ってきた雨で変身しようとした時だった。
「何をする気です?
「ぐふっ?」
男の雰囲気に不審な気配を感じたまどかが男…パンスト太郎の胸の中心に右掌を当てると変身体質が無効化されたのである。
「女!何をした!?」
「やっぱり…呪泉郷に落ちた方ですか」
まどかはパンスト太郎が此方に敵意を持っている事を感じ取ると大人しくさせる為に闘気を指先に籠めて男の額を突いた。
「ぐふっ…!?」
パンスト太郎は気絶すると倒れ込んだのであった。まどかは男の体を受け止めるとパンスト太郎の体を担いで天道家へと入ったのであった。
「ご苦労様です」
「ありがとう」
すっかり…彼女の配下となった良牙がタオルをまどかに手渡すと同時にパンスト太郎の体を庭先に置いた。
「彼も呪泉郷に落ちた方みたいなので水に気を付けて下さい」
「分かりました」
「「「「……」」」」
呆然とした様子で見ていた乱馬達……その中で正気に戻った乱馬が良牙に尋ねた。
「おい!今の何だよ!?」
「何って…まどかさんが何か敵っぽい奴を倒しただけだろ?」
「何か…やってたろ!?」
「あぁ…奴の変身を無効化した事だろ?知らなかったのか?」
「えっ…どういう意味だい?」
良牙は前にまどかから聞いた話をライバルを始めとした天道家の面々に話し始めた。
「つまり…姉ちゃん、俺達の呪いが見えるって事か?」
「あぁ…集中して眼を凝らして見ると呪いが体を作り変える工程が見えるらしいぜ?」
「マジか?」
「現に俺の変身を阻止しては見せたぜ?」
「どうやったんだ?」
作品名:早乙女さん家のラスボス系お姉ちゃん2 作家名:ブロンズ・ハーミット