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風の隣

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迷いなくこちらに差し出される等々力の手を取りたい欲に後ろ髪を引かれつつ、鳥飼は嘆息気味に切り返した。


「…いや、黒鳥で行こうぜ」


目的地も決まる前から、なんで徒歩で行く気満々なんだろうこいつらは。


「では、どこに行きますか?」

「遊べるとこがええなー」

「買い出しもあるし、大きい街がいいかな」

「やっぱ海だろ!」

「温泉とか行きたくない?」

「男がいなきゃどこでもいい」


思い思いの希望を口にする隊員たちを見て、等々力は満足そうににかっと笑った。


「楽しそうで何よりだな!」

「んじゃあ…海の近くで温泉がある街ってことで」


鳥飼がまとめると、「そういうことになるな!」と頷く等々力。
あとは適当に黒鳥を飛ばして、ここから近くて該当する街を探せば良い。ナビは乙原か蛭沼さんにお願いしよう。

手袋を外して鳥飼が自らの親指に歯を立てると、等々力が真面目な顔でこちらに向き直った。


「鳥飼、俺と手を繋ぐのは嫌か?」

「っ!?」

がりっと思いきり皮膚に歯が食い込み、鋭い痛みが走る。思いの外深く切ってしまった。
しかしそんなことに構っている場合ではなく、鳥飼は勢い良く等々力のほうへと顔を向けた。

「な、なんで!!」

「い、いや。…そうではないなら、街に着いたら頼もうかと思ってな」


我ながら必死な形相だったと思う。
並のことでは動じない等々力が、わずかにたじろぐようにぎこちない微笑を浮かべている。

頼むって、何を?手を繋ぐことを?

……。
いやいやいやいや、大の男が手を繋いで街中を歩くとか。
俺は願ったり叶ったりだけど、世間的にはなしだろう。

子供じゃあるまいし、と鳥飼が平静を装って切り返そうとしたとき、蛭沼が「確かに」と頷いた。


「貴方は手でも繋いでおかないと、どこに行くかわかりませんからね。頼みましたよ、鳥飼くん」

「そ……え、いや蛭沼さん…?」


戸惑うこちらに蛭沼がぱちっと両目を瞑ってみせる。…これ、もしかしてウインクのつもりなのだろうか。
しかしさすがに無理があるだろうとツッコミを入れようとした鳥飼を遮って、乙原が何か合点したように割り込んできた。


「あーそうだよね。大将すぐ迷子になるし、鳥飼さんちゃんと捕まえといてよね」


器用なこいつは華麗なウインクをしっかり決めてきやがった。

…バレている。少なくともこの二人には。
恥ずかしさを通り越して愕然としつつ、鳥飼はこれ以上は何も言うまいと心を無にした。
下手に取り繕っても墓穴を掘るだけだろうし、この二人に口で勝てるとは到底思えない。
加えてほかの隊員にまでバレたら立つ瀬がない。


「…了解。大将のことは任せろ」


半ば諦観の念を込めて嘆息し、踵を返して工場から出るなり、親指から滴る血液で黒鳥を生み出す。
八名が乗れるとなるとかなりの大きさとなるが、まあ夜だし人目につくことはないだろう。

中の連中に声をかけて各々黒鳥の背に乗ってもらう。
最後に残ったのは等々力だったが、先程のやりとりを気にしているのか、彼に似合わず気まずそうに目を泳がせていて。


「大将!」

こちらから手を伸ばすと、等々力は差し出された手を見上げつつおずおずと自身の手を重ねようとしてくる。
鳥飼は遠慮がちに伸びてきたその手を思いきり掴み、ぐいと引き寄せた。

「ちゃんと繋いでてやるから、俺から離れるんじゃねえぞ!」

「…お、応とも!」


投げかける言葉一つで嬉しそうに弾ける笑顔を見せる等々力。

手繋いでやるってだけでそんなに幸せそうに笑うなよ。あー可愛い。

ぐっと胸を鷲掴みにされる感覚に息を詰まらせながら、顔には出さないように全神経を駆使し、相手の身体を引っ張り上げて背を支えてやる。
その直後、はっと我に返った等々力が、先に乗り込んでいたほかの隊員たちと鳥飼の間にその身を割り込ませるような立ち位置を取り、焦った面持ちで隊員を庇うかのように腕を開いた。


「みんな気をつけろ!鳥飼の色男オーラだ!下がれ!」

「うるせえよ!誰にもわかんねえよ!」


二人のやり取りに周囲も声を上げて笑い、中にはありもしないオーラとやらにやられたフリをする奴までいて。
賑やかな面々を乗せたまま黒鳥が羽ばたく。


等々力に対して抱いているこの気持ちは、敬愛や親愛も含まれているが、やっぱり行き着く先は恋情なのだ。
桃太郎と敵対している以上、自分たち鬼はいつどこで死ぬかわからない。
想いを腹に溜め込んだまま墓まで持っていくつもりでいたが、お節介でお人好しの、仲間想いな連中に囲まれていてはいずれ本人にも伝わってしまいそうで。

…まあ、そのときはそのときか。
これまでは不安と心配しかなかったが、今回頼もしい味方ができた。

心に生まれた小さな余裕を自覚し、己の想い人をそっと見遣る。
乗り物に弱いそいつは、今まさに嘔吐を堪えている真っ最中だった。


「……絶対吐くなよ」

「ん!」


相変わらずな我らが大将に、鳥飼は小さく笑う。
黒鳥は、漆黒の夜空に溶け込んでいった。


fin.
作品名:風の隣 作家名:緋鴉