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休日のコーヒー

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鬼國隊の信念は、桃太郎の完全抹消。

とはいえ、365日戦いに身をやつしているわけではない。
寧ろ情報収集にこそ時間をかけており、襲撃は準備を整えてからで大抵一瞬。長くて一日といったところだ。

転々と各地を流れていく中で桃太郎の部隊を潰してまわっている為、野宿や仮の宿で夜を過ごすことが多い鬼國隊ではあるが、一応アジトは存在する。
襲撃先近辺に桃太郎の情報がなければ、一度骨を休めるためにも戻ってくるのだった。

アジトといっても、何も機密事項などが隠されているわけでもない。表向きは古雑貨を販売していて、外観の規模は駄菓子屋程度のこぢんまりとした店だ。

棚には細々とした商品がひしめき合っているが、その半分ほどは手先が器用な海月が趣味でつくったものだったりする。
レジカウンターの奥のドアには休憩スペースとは名ばかりの在庫置き場があって、そこには地下に続く跳ね上げ扉が隠されている。階段を降りていけば、ちょっとした事務所を兼ねた居住空間となっていた。


「はー…。人間、たまには文明に触れないとな」


どこか解放されたような脱力した声がして、キッチンで湯を沸かしていた等々力颯は後方を振り向いた。

部屋の中央にはテーブルがあり、それをコの字型に囲うようにソファが設置されている。
鳥飼羽李が、ベッド代わりにして横になり寛いでいた。
寛ぐというか、完全にだらけている。まるでソファと一体化したがっているような密着具合だ。

普段はこちらを見守ってくれるような立ち位置である男の緩みきった一面に、等々力はくすりと笑みを溢した。


「コーヒー、飲むだろう?」

「おう、さんきゅー」


返答を聞く前からカップをふたつ用意していた等々力は、そこにインスタントコーヒーの粉末を入れていく。

このリビングダイニングキッチンは、壁沿いにパソコンデスクが
置かれている。調べものや簡単な会議をする際にも使用していた。
そしてこの部屋の更に地下には、寝室として使っているものがいくつか横広がりに存在している。現在は八名である鬼國隊のメンバーだが、活動内容柄人数は変動する。
複数人で相部屋として使用しており、調査から外れている隊員は現在自室で休んでいるなり外出するなり、各々の時間を過ごしていた。

下にいる連中にも淹れてやろうかと逡巡した等々力だったが、飲みたければ勝手に上がってくるだろうと思い手を止める。
湯沸かし器が熱を上げて、小さな音とともに蒸気を噴き出していく様を眺めていると、間延びした声がかけられた。


「なぁ颯ー」

「ん?」


背中で応じつつ、シュンシュンと忙しくなってきた沸騰音に、そろそろかと湯沸かし器に手を置く。


「たまには二人でどっか行かねえ?」

「二人で?」

「そ」


意外な提案に、等々力は顔を振り向かせる。
ソファに寝そべっていた鳥飼は、背もたれに腕を引っ掛けるようにして顎から上をこちらに覗かせていた。

その姿勢から鑑みても、今日はやる気ゼロで極力無駄な労力を消費することは避けて、のんべんだらりと過ごしたいと全身で訴えているようだった。


「出かけるのは構わないが、お前そこから動けるのか?」

「んー…、お前が行くって言ったら立てる」

「そうか。行く」

「よっし。…どこ行く?」

「立たないじゃないか」


気合が入ったのは口だけで、逆に背もたれからずり落ちるように腕も頭も消えていった男に、等々力は苦笑する。

かちっと小気味良い音がして、湯沸かし器が沸騰完了の合図を寄越した為視線を手元に戻し、ふたつのマグカップにそれぞれ湯を注いだ。
立ち上る芳ばしい香りに鼻腔を擽られ、肺いっぱいにそれを吸い込むように深く深呼吸する。

淹れた人の特権とばかりにコーヒーの香りを散々堪能したあと、等々力は片手にそれぞれカップを持ちリビングのテーブルへと運んだ。


「…疲れているんじゃないか?」


鳥飼が中央のソファに足まで上げて寝転がっているので、頭側に位置するソファに腰を下ろして控えめに訊ねる。

鳥飼羽李という男は基本的に自由だ。
しかし、リーダーである己が不甲斐ないばかりに、彼にはあらゆる面でサポートしてもらっている。
目標や行き先を決めるのは自分だが、そこに至るまでの必要なあれこれは隊員たちに頼りきりだ。特に鳥飼は、明確に副将という立場を任せているわけではないが、自他ともに認めるナンバーツーである。精神的な負担も大きいだろう。

そんな彼の振る舞いは常識を弁えたもので、体裁を抜きにして整理整頓が得意な綺麗好きで、人としてしっかりしている。
ここまで気が抜けた姿を見せるというのは珍しい。


仰向けになっていた鳥飼は、気遣わしげに訊ねた等々力をじっと見つめて、小さく嘆息した。


「……疲れ、か。…疲れてんのかもな」


そうぼやいて目を伏せる鳥飼の様子に、等々力は唇を一文字に引き結ぶ。

…これは思っている以上に重症なのではないだろうか。
俺の力が及ばないばかりに、羽李が相当参っている。
弱っているこいつが、弱っているながらに出かけたいと言っているのだ。つまり気分転換を求めている。

コーヒーを一口啜り、等々力は顎に指をかけてしばし考える。


「……」

「…颯、膝貸して」

「いくらでも貸そう!……いや、どういうことだ?」


鷹揚に快諾してから、意味を考えて小首を傾げた。

鳥飼はずりずりとソファの上を匍匐前進するかのように這って移動し、直角に伸びる等々力のソファにまで移動すると、言葉通り膝を借りた。

つまり、膝枕というやつだ。

己の大腿部に乗せられた鳥飼の頭を見下ろしたまま、等々力は思考を停止させる。
無言で固まっていると、鳥飼が不意に閉じていた瞼を押し上げて視線をこちらに向けてきた。
目が合うなり、はにかんで笑いかけてくる。


「…かてぇな」

「……、…すまん」


作品名:休日のコーヒー 作家名:緋鴉