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No.017
No.017
novelistID. 5253
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うきくじら

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 ……



 ………



 ……目を開いた。

 僕の瞳に映し出されたのは深い空の青とその下にどこまでもどこまでも広がる白い雲。雲の海だった。

 その海にも塩水の海で言うところの水平線が見える。
 太陽のまぶしい光はあたたかく僕をつつみこんでいた。

 ――ここはどこだ?

 僕が寝そべったまま、目を半開きにして、まだはっきりしない意識の中そんなことを考え始めたそのとき、


 ブオォォーーーーーーーーーーーーーッ!


 突然大きな音が鳴って僕を覚醒させた。
 その音をともに飛び起きた僕に降り注ぐ水。なめてみるとしょっぱい水。
 この音の正体を僕はよく知っていた。
 おもわず僕は叫ぶ。

「潮吹きだ!」

 大きな音とともにそいつの鼻…噴気孔から勢いよく海水が飛び出す。そいつの噴気孔、でっかい鼻の穴を目の前にしながら僕は気がついた。僕はこの鼻の穴の主の上に乗っかっているのだ。
 飛行船のようなフォルムのその巨体は僕が知るうちで、いや、現在知られているポケモンのうちでもっとも大きいもので、一般的な大きさは全長14メートルと言われる。14メートルもあっちゃ「ポケット」モンスターじゃないだろうと、いうツッコミもしばしばさされるところであるがそれはまぁ置いておこう。そいつの名はうきくじらポケモン、ホエルオー。
 ホエルオーの頭の上で、僕は今まさに目覚めたのだ。
 ホエルオーは僕が頭の上に乗っていることを気にすることもなく、いや、むしろ僕が落ちないように気遣っているのか、ゆっくりとゆっくりと、けれど確実に雲の海を進んでいく。





●うきくじら●




「それにしてもお前でっかいなぁ!」

 僕はその大きさに感嘆の声を上げた。
 ホエルオーは大きい、その大きさは誰もが認めるところだが、ぼくが言いたいのはそんなことじゃない。
 僕が乗っているこいつの大きさは、今まで見てきたどんなホエルオーとくらべても別格だった。通常の1.5倍…いや、2倍はあるだろうか…?

「1メートルってこれくらいだよな」

 僕は足を開いてその歩幅をメジャー替わりにした。そして、ホエルオーの頭から尾の付け根まで歩ける範囲で歩いてみて長さを測ることを試みた。

「1、2、3メートル…」

「13,14、15メートル…」

「26、27、28メートル…」

 歩けなかった範囲を入れれば30メートルはあるか…?

「……すごい! こんなに大きなホエルオーはカスタニ博士だって見たことがないに違いない!」

 僕は興奮して叫んだ。

 カスタニ博士というのは、僕の住んでる島で主にホエルコ・ホエルオーを研究している博士で、この道ウン十年のベテランだ。博士がこいつを見たら大声でこう叫ぶに違いない。

『すばらしい! 私がいままで見た中で最長のホエルオーだよ!』

 僕は小さいころから博士の武勇伝を聞いて育ったクチで、時々博士の研究の手伝いをしている。気がついたらすっかり博士のあれやこれやを叩き込まれてしまっていた。
 僕が数字にこだわるのはこういう理由からだ。科学者ってのは数字を気にする人種なんだ。


 空の航海で僕にやれることは何もなかった。唯一ある仕事といえば落ちないようにしているということ。
 あんまり暇なので全長以外にも目測で測ってみて、ポケットに入っていた小さなフィールドノートに短い鉛筆でそれをメモした。これも科学者のクセである。

 一番最初にはこう記した。

『雲の海を行くホエルオー、全長約30メートル』






 ――――


 ――――


 雲がつくる水平線。
 あたたかく包み込む太陽の光。

 僕の瞳には相変わらずさっきと変わらない風景が映っている。
 深い空の青とその下にどこまでもどこまでも広がる白い雲。

 ――――雲の海。

 おおきなホエルオーは相変わらずゆっくりと、ゆっくりと進む。
 けれど、確実にどこかに進んでいる。
 こいつには目的地が見えているのだろうか。

「なぁ、おれ達どこに行こうとしているんだ?」

 ホエルオーは答えない。
 否、答えられない。
 時々、潮を噴き上げるだけだった。


 ブォォオー

 ブォォオオオー


 大きな噴気孔から盛大に潮が吹き上がる。
 吹き上げられた水の粒子が太陽に照らされてキラキラと光る。

「それってお前なりに答えてるつもりなのか?」

 ホエルオーは答えなかった。僕を乗せて雲の海をただ黙々と進む。
 雲の海の中に浮かぶ、小さな無人島。そこに一人のちっぽけな人間がひざをかかえている。もしどこか遠くから僕達のことを見ているものがいるなら、僕達はそういう風に見えたかもしれない。
 雲の海はこんなにきれいで太陽だってこんなに暖かいのに、なぜかさびしい。
 そしてどういうわけだろう、事実、僕はだんだん心細くなってきた。

「おれ、どうしてここにいるんだろう?」

 心細くなってきたのと同時進行でそんな疑問がふつふつと湧いてきた。
 いや、むしろなぜ今まで疑問に思わなかったのか。

 ホエルオーが雲の海を泳いでいる? 空に浮かんでいる?

 ホエルオーは海水の海に浮かんでいるものじゃないのか?
 それとも知られていないだけで空に浮かぶ種類もいるのか?

 そうだとして、どうして僕がそれに乗っている?


 気がついたらすでに雲の海の中、僕はホエルオーに乗っていた。

 その前は?
 その前は何をしていた?



 ――――思い出せない。




「ここはどこなんだ?」

 僕の不安は頂点に達した。その時、


 ブオォォオオオーーー!

 ブオーーー!

 ブオォォオオオォーーー!


 いくつもの潮吹きの音が響くと同時に、僕と僕を乗せたホエルオーを囲む雲の中から無数の潮が吹き出した。
 そしてそれに答えるように僕を乗せたホエルオーが最大級の潮を噴き上げた。


ブオーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 大量の海水が降り注ぐ。
 それを待っていたかのように雲の中から潮を噴き上げていたものたちが浮かび上がって、その姿を現した。
 それはたくさんのホエルオーだった。ホエルオーたちが僕達を囲んでいる。そのあちらこちらから潮が噴き上がる。
 僕が乗っているホエルオーもそれに答えるように何度も、何度も潮を噴き上げる。まるでひさしぶりの再開を喜ぶように。
 たびかさなる潮吹きで僕の服はびしょびしょになった。

「こいつら、お前を迎えに来たのかい?」

 僕はまた僕を乗せているホエルオーに話しかけた。
 ホエルオーは小さく潮を噴き上げた。

 ――そうだ。

 そう言っているように思えた。

 挨拶にいったん区切りがついたのか潮吹きの数が減り始める。
それと同時にホエルオー達の巨体が雲から離れはじめた。雲に半分隠れていた身体が徐々にその姿を見せ始める。
 そしてどんどん、どんどん上昇していく。

 ――こっちだよ、はやくおいで。

 そう言っているようだった。

 ホエルオーの巨体がひとつ、またひとつ浮かんでゆく。飛行船の上昇って見たことないんだが、こんな感じじゃないだろうか。
作品名:うきくじら 作家名:No.017