スタートライン
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(鳥飼視点)
「っ…、」
必死に声を押し殺しながら、鳥飼は二度目の自慰に勤しんでいた。
立ったまま壁に寄りかかり、反り返った逸物を誰に憚ることもなく追い上げていく。
墓場まで持っていくつもりだった等々力への恋情を、ついに明かしてしまった。
口先三寸の取り繕いでは、彼に己の処理をさせないということに納得してもらえなかっただろう。
…という考えもあったが、それ以上にあの光のような男がこの程度で態度を変えることはないという、確信にも似た思いがあったからだった。
以前膝枕をしてもらった際に、等々力は触れ合いに対して敏感に反応する様子を見せていた。ならばと思い、今回は押し倒してわざと煽るように行為を強行したのだ。
こちらがある程度の痴態を見せれば、多少の羞恥心には折り合いをつけてくれるだろうという、相手の優しさを利用した汚いやり方ではあるが結果オーライだ。
…ただ、想像を遥かに超える可愛さとエロさに充てられて、情けなくも一度落ち着けたはずの息子が漲ってしまったのは想定外だったわけだが。
「く……っ」
目を閉じれば、つい今しがた脳裏に焼き付けた愛しい男の善がる姿がありありと瞼の裏に浮かぶ。
俺の手で、小さく震えながら甘ったるい声を溢して、劣情に飲み込まれていく。離せと言いつつも抵抗する力は弱々しくて、快感と戸惑いに挟まれている様はいじらしくて堪らなかった。
あのまま服の中に手を滑り込ませたら、どんな反応をしたのだろう。
胸に触れたら。愛を囁いたら。キスをしたら。…中に、入ったら。
あいつの熱くて滑らかな感触が、この手に残っている。同じ手で己の逸物に触れるだけで、もう胸がいっぱいでどうにかなりそうだ。
精の波が押し寄せ、トイレに向き直って白濁を吐き出す。
間違いなくそれは射精であるのに、すっきりしたとは言えなかった。それを大きく上回る興奮が腹いっぱいにひしめき合っているようだ。
とにかく深く呼吸をして気持ちを落ち着かせ、隣に備え付けられている水道で鳥飼は顔を洗った。
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(等々力視点)
しばらくして、鳥飼がトイレから出てきた。
「羽李」
「あー…急に色々言って、悪かったな。その…」
言い訳じみた口調で口籠もりながら頬を指先で掻く鳥飼に、等々力は立ち上がって真っ向から相対する。
目を背けずに、向き合いたいという意志を態度で示す。
「俺も、お前のことが好きだ」
「っ……」
「俺とてお前に色々してやりたいし、色々されたいと思う。現に、触られても気持ち良くて、嫌ではなかった。ただ…、」
不安げに、鳥飼の黒い瞳が揺れる。
違う。そんな顔をさせたいわけじゃない。早く…早く想いを言葉に乗せなくては。
焦って傷つけてしまわないように、小さく息を吐いてから、羞恥心をおして本音を語る。
「だ、抱かれるというのは……よくわからない。どうしたらいいのかも、本当に俺でいいのかも。…だから、心の準備ができるまで、待ってくれないか」
「…そんなの……期待するじゃん…。そういうことだよな…?俺の早合点じゃないよな?」
「ああ。…俺も、その、羽李に気持ち良くなってほしいし、そんなお前を見てみたい。だが行為のほうは…まだ…」
誤解させないように、素直に心の声を伝えていく。
彼を見て色気を感じていたのは。
心が乱れることがあったのは。
感じている顔を見たいと思ったのは。
触れられても不快どころか快感を拾っていたのは。
俺自身が、羽李に恋愛感情を抱いていたからだ。
それに気付かせてくれたことに、素直に感謝したい。
唐突に、正面から思いきり鳥飼に抱き竦められた。
締め付けるような強さに、背がしなる。
「…やばい。嬉しすぎてどうにかなりそう」
「少し、苦しいな…」
苦笑して言うと、鳥飼は大きく深い溜め息をひとつ落としてから、そっと身体を離して、指先でこちらの唇に触れてきた。
「…いいか?」
「え、あ、…う、…き、訊くなっ」
しどろもどろになりながらも、ぎゅっときつく目を瞑る。
小さく笑うような気配がしたかと思うと、ひどく優しい、触れるだけの口付けが唇に落とされた。
呆気なく離れていった感触にもう終わりかと目をひらくと、顔を赤らめながらも幸せそうに笑う鳥飼が目の前にいて。
「ははっ、緊張しすぎだろ」
「…お互い様じゃないか」
肩の力が抜けて、等々力も吹き出すように笑った。
少しずつ、心とともに関係は変化していく。
そのペースは人それぞれで、歩幅を合わせるのは難しいから。
ときには立ち止まって、振り返って、手を引いて。
そうして二人が同じラインに並び立ったとき、また一緒に一歩を踏み出していけたら良い。
「まあ…その、……よろしくな」
「ん」
気恥ずかしい空気に、擽ったい気持ちになる。
二人は互いに軽く拳をつくり、こつん、とぶつけ合った。
fin.



