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「ひ、びっくりさせんなよ…」

「何故だ羽李!お前は俺に触れたくせに、俺には触れられたくないということか!」

「はぁ?な、なんでそうなる…」

「それとも俺にはできないと!そう思っているのか!」

「そういうわけじゃ…」

「しかも今度はここではしないと言う!どういうことだ!」

「ちょ、お前声がでかい…」

「俺にはもう見られることすら嫌か!」

「違うって。二回も見たく」

「聞いているのか!」

「お前だよ!!」

何故か鳥飼は質問には答えず、不自然な前屈みで股間を庇いながらずんずんとこちらに詰め寄ってくる。

「声落とせよ!隣に聞こえるだろうが!」


人差し指を口元に立てて、必死の形相で訴えてくる相手の様子にそれもそうかと大きく頷き、等々力は声量を落とした。
腕を組んで、少しだけ上背のある鳥飼をまっすぐ見据える。


「俺にされるのは気持ちが悪いか」

「……。……颯、よく聞け」

「うん」


ようやく答えてくれる気になったのか、鳥飼は深呼吸をしてからゆっくり口をひらいた。
その顔はどこか覚悟を決めたように、真剣そのものだ。…前傾姿勢だが。


「…さっきは勢いで言ったけど、言いなおす。…俺は、お前が好きだ。」

それは、確かにさっきも言っていた。その後すぐになかったことにしようとしていたが、言及する余裕がなかっただけではっきり覚えている。

「だからお前に触れたいし、触れられたい」

「なら…!」


一歩前に出る等々力を、鳥飼は片手を上げて制し、言葉を続ける。


「俺の言う好きは、それだけじゃない。喜ばせたいし、困らせたいし、全部挙げればお前に引かれるものだってある。」

そんなことを言うなら俺だって、と等々力は思った。
そばにいたいし、いてほしい。羽李が喜んでくれれば俺だって嬉しい。ツラいときは寄り添いたい。

が、鳥飼はまるで住む世界が違うとでも言うかのように、腕で距離を保ったままだ。見方を変えれば拒絶しているようにも見える。
そして、苦しげに眉根を寄せて、気まずそうに吐露した。


「お前に抜いてもらったら……止められなくなる」

「…止められない?」

「……抱きたくなる」

「……、」

…抱きたくなる…?
鳥飼の言葉を脳裏で反芻させる。

抱く、というのはやはり性行為を意味しているのだろうか。
そういう気持ちをあの鳥飼が男に向けていたということにも驚きだが、それ以上に。

「お前…、俺のこと抱けるのか?」


胸や尻が豊かでもなければ、肌も触り心地は滑らかとは言いがたい。なんの取り柄もないこの身体は、人に愛されるようなつくりをしていないと思う。
女性の柔軟な包容力や優しい声、可愛らしい顔立ち等、性的興奮を煽る要素はひとつも持ち合わせていない。

純粋に疑問に思って訊ねるが、鳥飼は視線を横に流して渋面で呟いた。


「…正直、今すぐにでも。……じゃなきゃ、こうならねぇよ」

「……俺もなったぞ」

「と、とにかく!俺に手ぇ出されたくなかったらそこで大人しく待ってろ!」


一方的にそう言うと、今度こそ鳥飼は一人トイレへと篭ったのだった。

ぽつんと取り残された等々力は、腕を組んだまま、ぼすっとベッドに尻を沈ませて座る。


頭の中を巡るのは、最初に押し倒されたときのこと。
抱き締めるようにしつつ、縋るようにこちらの名前を呼んで自慰に没頭していた彼は、俺を抱きたいと思いながら果てたのだろうか。
俺の息子に躊躇いなく触れ、『俺の手でイってくれ』と懇願してきた彼は、やはり俺を抱きたいと思いながらしていたのだろうか。
……そして今、一人で閉じこもって二度目の自慰を施しながら、俺を抱きたいと、そう思っているのだろうか。


「……」


まずい。ものすごく恥ずかしい。
このあとどんな顔をすれば良いのか。

暴露する前の鳥飼の表情を思い出し、彼も相当な覚悟をもってあのデリケートな話題を切り出したのだろうことが窺える。
恋愛対象として、好意を寄せてくれている。
これまでまったくそんな素振りは見せてこなかった為、にわかには信じられないが、茶化したりなかったことにするというのは礼節に欠けるだろう。

こちらも、その誠意に応えるべきだ。
等々力はそっと目を閉じ、己の頭の中を整理した。


作品名:スタートライン 作家名:緋鴉