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高山 南寿
高山 南寿
novelistID. 71100
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もうひとつの、ぼくは明日……

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プロローグ



青年は電車に乗っていた。背が高く端正な顔立ちで、爽やかな印象を与える彼だったが、その目にはどこか憂いが宿っていた。電車は一両編成で客が疎らだった。青年は前方の左側ドア横の手すりにつかまって外を眺めていた。電車の窓に街並みが流れていく。その後ろをまだ低い日差しに照らされた山が連なってゆっくり過ぎていく。すれ違う下りの電車は二両編成で学生らしい若者が大勢乗っている。
青年は思っていた。
もともと風情のある景色ではないけれど、今の僕にはどんな景色も色褪せて灰色にしか見えない。昨日、愛した人と別れた。次に会える日には、もう僕たちは恋人同士ではないんだ。
青年は胸を押さえ、ため息をついた。そして窓の外を見た。
なぜこんな時に電車に乗っているのだろうか。一つの頼まれ事――手紙をある人物へ手渡すこと。時間と場所は指定されたが、相手が誰なのかは知らされていない。そもそも、なぜ手渡しなのだろう。いっそ、このまま引き返してしまいたい。……彼女は、どうしているだろうか。もう帰りたい。すぐに彼女のことを考えてしまう。僕の心は今も彼女のことでいっぱいだ。
『宝ヶ池、宝ヶ池です』
車内アナウンスが流れた。
青年は心の中で呟いた。
ああ、手紙を渡す約束の駅に着いたのか。
電車が減速し、ゆっくり駅に滑り込んでいく。ホームに、若い男女が向かい合って立っている。二人の横を数メートル通り過ぎて電車は止まった。
白いハーフコートを羽織ったロングボブの女が、手を振りながら後ろにさがっていく。こちらからは顔は見えない。
彼女と向かい合って立っている男はボサボサの髪に黒縁らしき眼鏡をかけており、どこか自分に似ている気がした。
既視感、というより何か違和感が湧き上がってくる。
まるでホームビデオに映る自分を見ているときのような、あの独特の感覚だ。
やがて、女がこちらに向き直り、ゆっくりと歩きだした。
ふわりと揺れる髪。
雪のような白い肌に、吸い込まれそうなほど大きなつぶらな瞳。
そして、思わず息をのむような華奢なスタイル。
それらが一瞬にして青年の視界を奪った。
「えっ……」
青年はそう言ったきり、身じろぎもできなくなっていた。
女はゆっくり電車の後部ドアから乗って、閉まったドアを背に立ち止まった。
電車が動き出すと、今乗って来たプラットホームのほうを一瞥(いちべつ)した。
目に涙があふれ出て頬を伝った。
そのまま膝から崩れ落ち、声を出して泣き始めた。
青年はようやく彼女のそばへ歩み寄り、片膝をついた。
そして、まるで言い慣れてるように、その名を呼んだ。
「愛(え)美(み)」
女はぼろぼろに泣いていたが顔を上げ、不意に現れた青年を上目づかいに見た。
女の目が見開いた。
そして、女は遠ざかる駅のホームを振り返った。
もう、ホームは見えない。
青年に向き直って言った。
「あなたは、誰……? ……高寿(たかとし)なわけ、ないよね?」
女――福寿(ふくじゅ)愛(え)美(み)は、涙を流したまま、目の前の青年を困惑した表情で見つめた。
「僕は、僕は……」
青年――南山(みなみやま)高寿(たかとし)は、福寿を見ながらこみ上げるものを抑えきれず、口ごもった。