女王と影武者
真っ青な空の下に、白亜の宮殿がそびえ立つ。
中央の塔には再び取り戻された太陽の紋章が輝き、王宮を優しい春の日差しのような淡い光で包んでいた。
ソルファレナの太陽宮。
その壮麗さは、アルフェリア軍本拠地のレイクファレナ城とは比べ物にならないほど。
今までこんなファレナの中心部になどまったく用のなかったものたちは、軽々しく足を踏み入れることもためらわれるのか、入り口の前でそろって大口を開けて宮殿を見上げていた。
レインウォール出身の元山賊組も、例外ではない。
「うわぁ……」
「ひゃぁ〜〜……」
兄妹そろって城門の前でまずおののきながらのため息だ。
幸い太陽宮の入り口は広い。たとえ二人がそんな風に立ち止まってしまっても、慣れた面々は苦笑いをしながらその脇を通り過ぎていく。
しかし。
「おまえら、何ぼさっとしてんだよ! みっともねぇからさっさと進めっ!!」
突然あんぐりと口を開けた二人の頭の上に、続けざまに拳が降った。
ガンっ、ゴンっと、太陽宮の門前に、小気味のいい音が響き渡る。
その音に更にくすくすと笑い声がこぼれる中、殴られた二人はじんじんと痛む頭を押さえて、涙ながらに抗議の眼差しを拳の主に向けた。
「〜〜〜っっ 何するんだよロイ」
「うるせぇ! んな田舎人丸出しなことしてんじゃねぇよ! 恥ずかしいったらありゃしねぇっ」
顔を真っ赤にしてイライラと舌打するロイに、フェイロン、フェイレンの二人も周りの笑い声に気づいたのか、とたんに顔を赤くして縮こまった。
「いいか? ここはソルファレナだぞ? これ以上笑いものにされたくなかったら、おとなしくしてろ!」
加えて更にロイのお説教。ますます縮こまる二人だが、これ以上この場にとどまるのも余計笑いものにされるだけとあって、ロイはとにかく行くぞ、と急いで王宮の中に入ってしまおうとする。
それを慌てて兄妹は追いかけようとして、そこでふと奇妙なことに気がついた。
「ねえロイ、右手と右足が一緒に出てるよ」
フェイロンの指摘に、右手と右足をそろえて前に出したロイがそのままの姿勢で固まった。
「なんだ。ロイも緊張してギクシャクなんじゃん。よかった〜あたしたちだけじゃなくって〜」
一人、堂々としているものと思っていたロイも実は緊張していることを知り、兄妹はそろって胸をなでおろす。その影で、ロイが自分のプライドと緊張の度合いに一人葛藤していることなど露ほども知らないのか。
「〜〜〜っっ! おまえら人がせっかく!!」
「まあまあ、ロイ落ち着いて」
再び握り締められたロイの拳は、横から割って入った笑顔にやんわりとさえぎられる。
振り返ればそこに、ロイと同じ顔でにっこりと笑った王子の姿があった。
「止めるなよ、王子さんっ」
「止めるよ。なんで、君はそう喧嘩っぱやいのかなぁ……。言っとくけど、今日は君たちを遊びで太陽宮に呼び出したわけじゃないんだよ?」
穏やかな笑みが、厳しい統率者の顔に一瞬で変わった。
「今日は、リムが君たちに会ってねぎらいの言葉をかけたいって言うから、みんなに集まってもらったんだ。こんなところで喧嘩してもらうために集まってもらったわけじゃない。それとも……」
続く言葉の前に、再び笑顔の王子が現れる。しかし、その笑みは背後に闇をまとったような、思わず鳥肌が立ってしまうような冷気をまとった笑みだった。
「それとも、ぼくの妹をそんなに待たせたいわけ?」
「……いいえっ! 急いで参らせていただきますっ!!」
これ以上リムを待たせるつもりなら、どうなるかわかっているだろうねと暗に迫る王子の顔に、三人ともが真っ青になって慌てて太陽宮の中に駆け込んだ。宮殿の中で走るな! と誰かが叫んだのも聞こえないのか。
そんな三人の後姿を見送り、やれやれと王子はため息をつき、自分も謁見の間に足を向ける。遅いとかわいい妹に恐ろしい形相で迫られ、泣きつかれるのは、さすがに兄であるからこそ、ためらわれるのだった。
中央の塔には再び取り戻された太陽の紋章が輝き、王宮を優しい春の日差しのような淡い光で包んでいた。
ソルファレナの太陽宮。
その壮麗さは、アルフェリア軍本拠地のレイクファレナ城とは比べ物にならないほど。
今までこんなファレナの中心部になどまったく用のなかったものたちは、軽々しく足を踏み入れることもためらわれるのか、入り口の前でそろって大口を開けて宮殿を見上げていた。
レインウォール出身の元山賊組も、例外ではない。
「うわぁ……」
「ひゃぁ〜〜……」
兄妹そろって城門の前でまずおののきながらのため息だ。
幸い太陽宮の入り口は広い。たとえ二人がそんな風に立ち止まってしまっても、慣れた面々は苦笑いをしながらその脇を通り過ぎていく。
しかし。
「おまえら、何ぼさっとしてんだよ! みっともねぇからさっさと進めっ!!」
突然あんぐりと口を開けた二人の頭の上に、続けざまに拳が降った。
ガンっ、ゴンっと、太陽宮の門前に、小気味のいい音が響き渡る。
その音に更にくすくすと笑い声がこぼれる中、殴られた二人はじんじんと痛む頭を押さえて、涙ながらに抗議の眼差しを拳の主に向けた。
「〜〜〜っっ 何するんだよロイ」
「うるせぇ! んな田舎人丸出しなことしてんじゃねぇよ! 恥ずかしいったらありゃしねぇっ」
顔を真っ赤にしてイライラと舌打するロイに、フェイロン、フェイレンの二人も周りの笑い声に気づいたのか、とたんに顔を赤くして縮こまった。
「いいか? ここはソルファレナだぞ? これ以上笑いものにされたくなかったら、おとなしくしてろ!」
加えて更にロイのお説教。ますます縮こまる二人だが、これ以上この場にとどまるのも余計笑いものにされるだけとあって、ロイはとにかく行くぞ、と急いで王宮の中に入ってしまおうとする。
それを慌てて兄妹は追いかけようとして、そこでふと奇妙なことに気がついた。
「ねえロイ、右手と右足が一緒に出てるよ」
フェイロンの指摘に、右手と右足をそろえて前に出したロイがそのままの姿勢で固まった。
「なんだ。ロイも緊張してギクシャクなんじゃん。よかった〜あたしたちだけじゃなくって〜」
一人、堂々としているものと思っていたロイも実は緊張していることを知り、兄妹はそろって胸をなでおろす。その影で、ロイが自分のプライドと緊張の度合いに一人葛藤していることなど露ほども知らないのか。
「〜〜〜っっ! おまえら人がせっかく!!」
「まあまあ、ロイ落ち着いて」
再び握り締められたロイの拳は、横から割って入った笑顔にやんわりとさえぎられる。
振り返ればそこに、ロイと同じ顔でにっこりと笑った王子の姿があった。
「止めるなよ、王子さんっ」
「止めるよ。なんで、君はそう喧嘩っぱやいのかなぁ……。言っとくけど、今日は君たちを遊びで太陽宮に呼び出したわけじゃないんだよ?」
穏やかな笑みが、厳しい統率者の顔に一瞬で変わった。
「今日は、リムが君たちに会ってねぎらいの言葉をかけたいって言うから、みんなに集まってもらったんだ。こんなところで喧嘩してもらうために集まってもらったわけじゃない。それとも……」
続く言葉の前に、再び笑顔の王子が現れる。しかし、その笑みは背後に闇をまとったような、思わず鳥肌が立ってしまうような冷気をまとった笑みだった。
「それとも、ぼくの妹をそんなに待たせたいわけ?」
「……いいえっ! 急いで参らせていただきますっ!!」
これ以上リムを待たせるつもりなら、どうなるかわかっているだろうねと暗に迫る王子の顔に、三人ともが真っ青になって慌てて太陽宮の中に駆け込んだ。宮殿の中で走るな! と誰かが叫んだのも聞こえないのか。
そんな三人の後姿を見送り、やれやれと王子はため息をつき、自分も謁見の間に足を向ける。遅いとかわいい妹に恐ろしい形相で迫られ、泣きつかれるのは、さすがに兄であるからこそ、ためらわれるのだった。