女王と影武者
ずいっと迫るロイの顔の剣幕にファルーシュはたじろいだ。
「や、でも、このまま喧嘩したままじゃ、ね? それに、ロイだって女王に嫌われたままじゃ、なにかとよくないんじゃないかなーって……」
我ながら、苦しいいいわけだと思いながらも、ファルーシュはどうにかロイを説得しようとする。
「……。ああ、くそ! 仕方ねぇ! 仲直りすりゃいんだろ!」
そう言って、ロイはファルーシュを投げ捨てるような勢いで、足音を立てながら部屋を後にしていく。
ほっと、ファルーシュは胸をなでおろした。
でも、あの剣幕では本当に仲直りなんてできるのかどうか……。
不安の種は尽きない兄である。
「王子?」
ふと、そんなときにリオンが部屋の外から顔を覗かせ、その戸惑ったような表情にすべてを察して苦笑いを浮かべた。
「今、ロイ君がすごい剣幕で姫様を追いかけていきましたけれど……」
「大丈夫、いつものことだから。 まったく、リムの天邪鬼にも困ったものだよね。気に入る相手に限って最初は突っかかっちゃうんだから。そこがまたかわいいところではあるんだけど」
最後は兄馬鹿らしくでれっと鼻の下を伸ばして、ファルーシュは楽しげに語る。
そう、リムスレーアはいつもそうなのだ。ファルーシュのときも、リオンのときも、ミアキスのときも、最初は必ずつんけんで。きっと、今もそうなのだろう。
ロイには悪いが、こうなればファルーシュとしてはかわいい妹のため、一肌脱いでやらなければ。
「ロイ君も、姫様と仲良くなれるといいですね」
にっこりとリオンも笑う。
「しばらく、また太陽宮がにぎやかになりそうだけどね」
そしてまた苦笑。でも、にぎやかなのはいいことだ。せっかく戦争も終わったのだから、楽しく生きないと。
「ぼくたちも行こうか」
はいっと、リオンが明るく笑う。そうして二人して、ロイとリムスレーアを追いかけた。
数日後、太陽宮は前にも劣らずにぎやかになった。
いつの間にか、ロイとリムスレーアのやりとりもこの太陽宮の名物となりつつあった。
たまにカイルが帰ってくると、さらににぎやかさは増す。
このまま一生こんなにぎやかさが続けばいいのに、そう思うファルーシュだった。