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女王と影武者

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「避けてロイーーー!!」
 つんざくようなファルーシュの悲鳴が王宮に響き渡った。
 はっとその声に我に返ると、眼前に迫るは鋭く砥がれたミアキス愛用の小太刀。
「し、真剣白刃取りぃ〜〜〜っっ!!!?」
 とっさにばしっと両手で刃を挟み込み、ぐいっとその刃を主から奪い取る。
「おぅぇ〜〜!? っぁぁぁ〜〜〜〜〜!!」
 あまりにあっさりと、その刃は主の手を離れて、思わず勢いあまってロイは後ろへひっくり返る。ごちっと、先ほどファルーシュの後頭部から響いたような鈍い音がロイの後ろ頭から響き、彼は身もだえ転げまわった。
「あ。……ロイ、大丈夫?」
 いくら大理石はやわらかい、とはいえ、石に違いは無いのだから、相当痛いだろうな、とかファルーシュも先ほどの自分の状態を思い出し、それでもやはり床に転げまわるロイについつい笑いがこぼれてしまうのは仕方ないのだが。
 きっと、目の端にうっすら涙を浮かべながらロイはファルーシュをにらみつけた。
「笑ってんじゃねぇよ! いってぇんだよ!! つか、いきなり何しやが……」
 ファルーシュよりもひとまずロイにいきなり切りかかってきた小太刀の主と、ファルーシュから視線を90度横にずらしかけて、ロイは手元の感触にはたと気づく。
 からん、と軽い音を立てて床に転がったのは、先ほどロイに向けられた小太刀。が、しかし。いくら小太刀は他の刀剣よりも軽いとはいえ、あまりにもその音が軽すぎた。
「……」
 ロイはその小太刀だと思われるものを再度摘み上げた。
 すると、いきなりぽきっとそれは折れてしまったのである。更によくよく見てみれば、刃の形はしているし、綺麗に磨がれてはいるものの、肌に滑らせてもまったく切れない。
「え、えっ!?」
 思わずファルーシュも仰天した。
「やったな、ミアキス!」
「姫様、演技おじょうずでしたよぉ」
「何、演技などする必要も無かったわ」
 視線をリムスレーアとミアキスに転じれば、二人ともしめたとばかりにはしゃいでいた。
「もしかして……僕たちのほうが、からかわれた……?」
 ようやく状況が飲み込めたらしいファルーシュが、がっくりと肩を落とす。本気で本物の刃物がリムスレーアに渡ったのだと焦ったのに。
「演技なら、演技って僕にぐらいは言っておいてよ……」
「すまぬのじゃ、兄上。何せ、兄上の影武者が来ておると聞いてな、いてもたってもいられなんだのじゃ」
 と、うなだれる兄に、申し訳なさそうながらも、至極楽しそうで、朗らかなリムスレーアの笑み。ちょっとはらはらしたけど、こんなリムの笑顔を見れるんだからまあいいか、とついつい顔が緩む。
「て、お前らは良くても、オレは良くねぇよっ!」
 ごつっと、先ほど床に打ち付けた後頭部に、おもちゃの剣の残骸が投げつけられ、ファルーシュは悶えた。
「! 兄上! おのれ、兄上に何をするのじゃ下郎!!」
「げ……」
 大切な兄上を傷つけられたリムスレーアの鋭い眼差しが、ロイを捕らえる。そのリムスレーアに下郎呼ばわりされ、ロイの頬はひくついた。
「下郎とはなんだ! オレには、れっきとした名前があるんだよ、ロイっていうな! そもそも、そっちが俺らをだましたんだろうが!」
「ふん、兄上の名を騙り、山賊などという浅ましいことをしておった者がよぉ言うわ! おのれのようなものを下郎と言わずしてなんと言うというのじゃ? それに兄上も兄上じゃ、何ゆえに、このような卑しいものを影武者などにしたのか、わらわには理解できぬ!」
「リム、それは……」
「ったく、聞いてりゃさっきから、卑しいだの、下郎だの! ああ、オレはどうせ身分は低いわ、王子さんの偽者だわ、そりゃ、それぐらい言われても仕方ねぇケドよ、ファレナの女王がこんな狭量でヒステリーなガキだとは思わなかったぜ」
「きょ、狭量……、ヒステリー……じゃと!? おのれ、よう言った! そこになおれ! やはりわらわが成敗してくれる!!」
「おう、やれるもんならやってみるがいいさ!」
「ロイ君、それ以上は私が……」
 にっこり、笑顔のミアキスの小太刀がロイに突きつけられる。思わずその鋭さに身を引いたロイの前に、突然、別の影が割って入った。向けられたミアキスの小太刀を穏やかに下げ、それからきつくロイとリムスレーアを見据える。
「二人とも、やめるんだ」
 ミアキスもロイも、そしてリムスレーアも、いつにないその人の厳しさにきょとりと目を丸くした。
「リム、いくらなんでも言いすぎだ。確かにロイは最初はぼくの偽者をしていた。でも、それを僕が認めたから影武者をやってもらってたんだ。その苦労は、並大抵のものじゃなかったと思う。それを労いこそすれ、そんな風に言うのは、いくらリムでも、僕が許さない」
 それからロイ、と、しゅんとするリムスレーアからロイに視線を移す。
「君も熱くなりすぎだよ。大人気ないと思わない?」
 苦笑いのような眼差しを向けられて、ロイはばつの悪そうに視線をそむけた。そんな様子に、ファルーシュはまたくすりと笑う。
「ぼくは、ふたりとも大好きなんだ。だから、二人には仲良くしてもらいたいと思う」
 にっこりと笑顔になって、ファルーシュはロイの手を、そしてリムスレーアの手を取った。
「だから、仲直り」
 ファルーシュの手に導かれ、ロイとリムスレーアの手が重なる。
 二人とも、ファルーシュを見、それからようやくお互いまともに視線を合わせた。
「王子さんが、言うなら、別に」
 と、ロイが仕方ないとばかりにため息をついたのと同時。ぷいっとリムスレーアはいきなり顔を背けた。
「わらわは、嫌じゃ。この無礼者が兄上に謝らぬ限り、わらわは認めぬ!」
 今度は無礼者。
 いい加減にしろとロイの拳が震えた。
「リム……」
「それができぬなら、おのれが兄上に謝るまでは、太陽宮から出さぬ!」
 ぴしゃりと言い放って、リムスレーアはロイの手を振りほどき、ずしずしファルーシュの部屋を出て行ってしまう。その後をミアキスが慌てて追いかけて。
 あまりの勢いに拳を握ったまま呆然としてしまったロイがはっと我に返ったときには、もうリムスレーアの姿は部屋の中から消えていた。
「太陽宮から出さない……って」
 ファルーシュも呆然としていた。
 その傍らで、ロイが今度は拳だけではなく全身を震わせながら。
「ふ、ふざけんじゃねぇ!! オレは今すぐこんな城出てってやる!!」
 絶叫は、太陽宮中に響いた。
「っ、はははは!」
 だが、その傍らで、いきなりいつもはおとなしい彼が腹を抱ええ笑っていた。しかも、目じりに涙まで浮かべて。
「何がおかしいんだこの野郎!!」
 行き場の無い拳が、ついついファルーシュへと向かいそうになる。
「まあまあ、ロイ、早まらないでよ。そんなことしたら、今度は一生太陽宮から出られなくなっちゃうよ」
 と、なだめるファルーシュに、ロイもやっと拳を収めた。
「ああ、もう、こうなったら、なんでもいい! さっさと謝って俺は帰る!」
 いきまくロイに、ファルーシュは苦笑い。どうしようかと困ったようにあちこちに視線を向けて。
「えーっと……じゃあ、リムと仲良くしてちょうだい? そしたら、許してあげるからさ」
「てめぇ、オレの話聞いてたのか」
作品名:女王と影武者 作家名:日々夜