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クリスマスの齟齬

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寒さにより大気は張り詰め、青い空が益々澄み渡る季節。
一年の終わりが近付くと、どこもかしこも慌ただしくなってくる。

太客を掴もうと店先で景気良く声を張り上げる者、溜め込んでしまった仕事を来年に持ち越さないよう躍起になる者、安くなった目玉商品を狙って我先にと財布を片手に走る者、最後に大きな依頼を受けようと張り切る者。

様々な人間模様が描かれているが、それらは煌びやかなイルミネーションに彩られて、なんだか幸せに浮ついているようにも見える。
街中で立ち止まってぐるりと見渡してみれば、必ずどこかしらに飾り付けられたもみの木や、赤い洋服に立派な髭を蓄えた陽気な人影が目に入るというものだ。

そう、数日後に聖夜を控えた今、空の世界はクリスマスムード一色なのだ。


ガウェインが無意識についた溜め息は、白い水蒸気となって、すぐに霧散した。


「え、何それ。リア充の溜め息じゃないよ。」

隣でサンタ服を着てチラシを配っていたグランが、引き気味な表情でこちらに横目を投げてきた。

臆面なくリア充などという言葉を使ってくる少年に、しかしガウェインは言い返すこともできずにぐっと居心地悪そうに口を閉じ、手にしていた手持ち看板を握り締める。

「そんな気まずそうなトナカイいないって。ほらガウェイン、笑顔笑顔!」

「う、うるさい!大体なんで俺がこんなものを着なきゃならんのだ!」


口角を上げて見本を見せてくるグランにガウェインが噛み付くと、首に下がった小さな鐘が乾いた音を立てて鳴った。

サンタのグラン、トナカイのガウェイン。
そんな二人は依頼で受けたケーキ屋の呼び込みをしているのだった。
もちろん依頼を引き受けたのは自分たちだけではなく、依頼主のケーキ屋で販売の手伝いをしている者や、別のポイントで呼び込みをしている者もいる。


クリスマスに豪華なケーキを購入し、パーティの主役に据える家庭は多い。
菓子店にとっては掻き入れ時であって、人員を惜しんでいる場合ではないらしい。
そこで騎空団にも依頼がまわってきて、最後にはお礼に新作ケーキの味見ができるという売り文句にルリアが釣られ、十名近い団員が同行することとなったのだ。


聖夜。
特に何かを信仰していなくても、恋人がいる者にとっては心躍る特別なイベントだろう。
ガウェインもそれは例外ではなく、顔や言葉にこそ出さなくともネツァワルピリからどんな誘いがくるだろうと内心そわそわしていた。

それなのに。


「…ねえ、最近ネツァと何かあったの?」


洞察力に長けるとはいえ、未成年の少年にこんな心配をされてしまうくらいには、めっきり二人でいることが減った。

グランの声からは揶揄うような色は感じられず、純粋に気にかけてくれているのであろうことが窺える。
ガウェインは目を伏せて、小さく吐き捨てるように呟いた。


「……知らん」


そう、本当に知らない。こちらが知りたいくらいだ。
以前は艇に居合わせれば大抵どちらかの部屋に入り浸っていたものだが、ここ一週間くらいだろうか。ネツァワルピリは自室にほとんど引き篭もっている。
あの表も裏もなければ右も左もないような、豪快で社交的な男が、だ。


「んー…体調でも悪いのかな」

「……」


グランの言葉に、ガウェインは沈黙する。

ただ部屋に篭っているだけなら、そうとも考えられる。
しかし、廊下から声をかければ快活な声が返ってくるし、食事も普段どおり摂っている。
数日前に食堂で顔を合わせた折に、いったい何をしているのか、どうして会いにこないのか、訊ねようとしたが結局形ばかりの矜持が邪魔をしてできなかった。


『ガウェイン殿!今日のスープは一段と美味であるぞ!』

『…そうか』

『では、我は失礼する!』


それだけ。それだけのやり取りだった。
別段変わった様子はない。が、それが逆に違和感を大きくする。
避けられているわけでもないのに、距離を取られているような。

いっそ部屋まで押しかけてみようかとも思った。
しかし、どうやら他の団員を連れ込んでいる様子なのだ。それも特定の人物ではない。
それらの意味するところがうっすらと見えてきてしまって、踏み出そうとする足を縫い止めていた。


…きっと、俺に飽きたのだろう。
想いを通わせあってからというもの何度も肌を重ねてきたが、あいつに何かしてやった記憶はない。
笑わせてくれるのも、包み込んでくれるのも、助けてくれるのも、いつもあいつの方だ。
与えられるばかりで、それに応えようとしたことがあっただろうか。
あいつの心が離れていくのも、当然の帰結といえる。

……。
ああ、胸が痛い。息が苦しい。

少し腕が立つだけで、無愛想で素直とは対極。
俺の代わりなんて掃いて捨てるほどいる。
それどころか、もっとあいつを喜ばせて、幸せにできる奴のほうが圧倒的に多いはずだ。


「…ガウェイン、大丈夫?」


低い位置から、気遣わしげな声をかけられてはっとした。大の大人が情けない。
戦闘ではないとはいえ、仮にも依頼中だ。引き受けたからにはしっかり熟さなくては。たとえそれが、トナカイの着ぐるみに包まれて看板を持つだけだとしても。


作品名:クリスマスの齟齬 作家名:緋鴉