クリスマスの齟齬
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それからは酷かった。
結局座った姿勢のネツァワルピリにしがみついて、情けなくも半泣きで何度も達したのはガウェイン自身だった。
がくがくと揺さぶられて、泣いて絶頂を迎えて。なんだかいつもより激しかったような気さえする。
いつも自分ばかりが意味不明なほど気持ち良くなって、恥ずかしい痴態を晒していることに思うところがあったガウェインは、情事の際には余裕をかましているネツァワルピリに一泡吹かせたくて、お仕置きと称して立場を逆転させてみたかったわけなのだが。
「…せっかく機が巡ってきたと思ったのに…お前はずるい」
シーツにくるまってベッドにうつ伏せになり、呪詛の如くぼやいてやる。
その隣で筋肉質な身体を惜しげもなく露出させて横になっているネツァワルピリは、なんともいえない様子で苦笑を漏らした。
「そうは言うがな…、我とて気が触れそうなほどの快感を得ている故、余裕などありはしないのだ」
「触れそうなほど、だろ?こっちは触れまくって失神することだってあるんだぞ」
「それはガウェイン殿に素質があるからで…」
「やかましい。俺が腹上死したら末代まで呪ってやる」
「ふむ…。男の誉れであるな」
いくら言ったところで暖簾に腕押し。
この男には嫌味というものが通用しない。おおらかで、懐が深く、包容力に富んでいるおかげで、ちょっとやそっとでは微塵も動じないのだ。
悔しくもあり、そんな彼が自分を選んでいることが誇らしくもあり、複雑な心境を溜め息に落とし込む。
ふと、視界の端にネツァワルピリの傷だらけの手首が見て取れて、ガウェインは控えめに訊ねた。
「…痛むか?」
「む?…ああ、これか。どうということはない」
手を持ち上げてみせてネツァワルピリは笑うが、痛くないはずがない。
ベルトの縁で擦り切れ、肉のようなものが覗いている部分まであるのだ。そのときは気付かなかったが出血もそれなりにしていて、きちんと処置をしないとなんだか大変なことになりそうな雰囲気すらある。
まさか力づくで引きちぎるとは思わなかったが、ベルトでの拘束は少しやり過ぎてしまったかと後悔せずにはいられない。
傷をつけてしまった代わりというわけではないが、ガウェインはそうだと思い立ってむくりと上体を起こした。
「おい、さっきのピアス、もらってやるから貴様があけろ」
「ま、誠か!」
ネツァワルピリが弾かれたように顔を上げ、椅子にかけてあったコートを引っ掴むとそのポケットから何やらケースのようなものと小瓶を取り出す。
「準備に抜かりはない!いざ!」
威勢良くそう言って瞳を輝かせる相手に、少しばかりたじろいでしまう。
「…なんだ、それは」
「無論、消毒液と針である」
当然の如くネツァワルピリは答えると、ケースをあけて中から針と四角い石のようなものを出して見せてくる。
言うまでもなく、初ピアスである。恐怖というほど痛みに気後れはないが、間違いなくあるであろう衝撃にどうしても緊張してしまう。
「…一瞬で…終わるんだろうな?」
「躊躇えば二度打ちとなることもあろうが、そこは我を信じてほしい」
にこりと微笑んでくるこいつは、なんといってもベルトを引きちぎった火力ゴリラだ。腕力と思い切りの良さに難はないだろうが、細かい作業を任せていいものかという一抹の不安は拭えない。
何せバフなどなくとも、自力のアビリティだけで土ボスのHPなぞごりごり削る馬鹿力だ。巷では脳筋風ゴリラと呼ばれていたことをふと思い出した。
ガウェインは意を決して、ベッドの上で胡座をかいてどっしりと座り直した。
「…わかった。いつでも良いぞ」
その日の晩。
ガウェインの耳朶には、無事に小粒のエメラルドと羽があしらわれたピアスがついた。
翌日、依頼後にグランサイファーに戻って揺れるそのピアスを団員たちに見られると、尽く誰からの贈り物か言い当てられることになって。
更にネツァワルピリの手首にくっきりと残った痛々しい拘束の痕は、噂好きな女性陣の美味しいネタにされることになるのだが。
じんじんと痛む耳が気になって仕方ないガウェインには、未だ知る由のないことなのだった。
「あ。そういえば、プレゼント用意しなかったな」
「良い良い。我はガウェイン殿がいれば十分である」
「張り合いのない奴め……ん、そうだ」
「む?」
後日、ガウェインからネツァワルピリに、遅めのクリスマスプレゼントが届いた。
それはベヒーモスの皮でできたベルトで、さすがにこれなら素手で千切れることはないだろうと、冗談とも本気ともつかないコメントが添えられていたという。
fin.



