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「どこも行かねえよ。ちょっと手洗ってくるだけ」


そう言って二人分の精液にまみれた手を振ってみせると、合点したようにぱっと手を離す等々力。
申し訳なさそうに目を泳がせている姿が微笑ましい。

白い肢体が弛緩している様は、なんとも淫らで目に毒だ。
ずっと見ていたいと後ろ髪を引かれる中視線を引っ剥がし、鳥飼は軽く手を拭くと最低限の身なりを整えて一度部屋を出た。

洗面所で手を洗い、湯で絞ったタオルを持って部屋に戻るなり、大儀そうに身体を起こした等々力の足元から拭いてやる。


「そ、そのくらい自分でやる」

「俺がやりたいの」


タオルを引ったくろうとする相手の手を掻い潜り、鳥飼は丁寧にその伸びやかな身体を拭いていく。腹や背中を清めてから、最後に足の付け根周辺を拭き上げた。


「なあ、ここ、そんな気持ち良いの?」


骨盤のあたりを指で示すと、等々力は難しそうに小首を傾げる。


「…気持ち良い…かどうかはよくわからない。擽ったいんだ」


あんなに喘いでいたくせによくわからないとは…
いや、しかしそれは今は置いておくとして。


「…颯、もう一回言って」

「?…擽ったい」

「違う、気持ち良いって」

「……気持ち良い」

「もう一回」

「……、…き、気持ち良い」


ああ…耳が幸せだ。
ちょっと引かれている気はするが、構うものか。

余韻に浸っていると、「だが」と等々力が言葉を続けた。


「あまり強く押されると、さすがに痛みがある」

「了解。加減しながら、気持ち良い塩梅を探せばいいんだな?」

「いや、できればあまり触らないでもらったほうが有難い」


婉曲した物言いだが、しっかり意思を伝えてくるあたりはさすが我らが大将だ。

わかったよと軽く応じつつ、鳥飼は己への課題として力加減と乳首へのアプローチを掲げたのだった。

今回、拒絶や制止に対して我ながら真摯に対応できていたと思う。
結果的に泣かせてしまったが、この前のように気絶させるほどの無理は強いていないし、突っ走りたい気持ちも抑えることができたのではないだろうか。
だからこそ新たな性感帯の開発も一時見合わせているわけで。…まあ二箇所のうち一箇所だけはある程度好きにさせてもらったが、それだって最後だけだ。相当我慢した。

等々力はここ最近、睡眠をとるようになってから能力の制御の加減が上手くなったと言っていた。
戦闘面ではないにしろ、加減が上手くなっているのは自分も同様なのでは、と鳥飼は思う。本能に理性が抗う感覚というものを、ここまで危機的に感じ取ることになろうとは予想もしていなかったが。


「羽李、このあと風呂に行かないか?」


うんうんとひとり反省会をしていると、唐突に等々力がそんな提案をしてきた。
時刻を確認すると、陽は沈み夕飯時となる時分。銭湯の混み具合はそれほどでもないと思われる。
しかし、問題はそこではない。


「うちのシャワーじゃなくて?」

「ああ。のんびり湯に浸かりたい気分だ」


単純に今思いついただけといった口調の等々力が、屈託なく笑いかけてくる。

…この笑顔に弱いという自覚が、鳥飼にはあった。


「んー、まあ……頑張るよ」

「?…何を頑張るんだ?」


等々力はきょとんと問い返してくるが、こちらにとっては一緒に風呂だなんて一大イベントだ。思春期の中学生でもなし、この程度で動揺するようでは男が廃る。

裸の付き合いなど、こいつと出会ってからというもの何度もしてきたというのに、重度の片思いだった頃より心を通わせ合った今のほうが耐え難い。
心の在り様と同じく、息子の情緒も加減というものを学ばなくては。


「…颯、いざとなったらあれを頼む」

「!」

皆まだ言わずとも等々力は察してくれたようで、力強く頷いた。

「相わかった。絶好調な俺に任せておけ」

「……」


正直心配しかないが、このくらい自分自身にプレッシャーをかけておけば間違いは早々起こるまい。
鳥飼は、来たるべき試練に向けて気合を入れ直した。


fin.
作品名:加減、出来ます。 作家名:緋鴉