飲まない理由
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赤ら顔となったガウェインを、いつ無理矢理連れて行こうかと散々悩んでいたネツァワルピリだったが、なんだかんだで楽しそうに飲んでいる彼を見ていたらそれも無粋に思えて。
結局カウンターに突っ伏してしまう状態になってから、肩を貸す形で撤退した。
かろうじて足に力は入っているが、完全に千鳥足である。
くたっと垂れた金色の頭が歩くたびに揺れている。
「ガウェイン殿、起きておるか、ガウェイン殿」
「……おきてる」
くぐもった声が短く返ってくるのみで、半ば引き摺られながらなんとか廊下を運ばれていくガウェイン。
いっそ抱え上げてしまったほうが楽だが、嫌がるだろうか。今は抗議をしてくるような元気な状態でもないし、担いでも怒られはしないと思う。
「失礼する」
ネツァワルピリはそう断るなり、ガウェインの腕を肩から外す。
俵担ぎにしてしまうと腹部が圧迫されて嘔吐しかねないため、横抱きにした。
多少なりとも抵抗があるかと内心構えていたが、ガウェインは逆にするりとこちらの首に両腕をまわしてきて、頬を肩口に擦り付けてくる。
体温が高く、互いの服越しであっても相手の身体の熱さがわかる。
「…おとしたらころす」
「肝に銘じよう」
出てくる言葉は物騒極まりないが、呂律の回っていない話し方が愛おしくてそっと笑みを落とした。
夜のグランサイファーは、昼間の活気が嘘のように静まり返る。
辺りを満たすのは動力の駆動音のみで、賑やかな空気も好きだがこれはこれで気持ちが落ち着いて好きだった。
二人とも同じ属性で騎空団への参入も同じくらいの時期だったことから、部屋の場所は隣り合わせだ。
ガウェインの部屋に到着し、肘でドアノブを開けて中に入る。
テーブルや棚の上の小物などに身体を引っ掛けてしまわないよう注意を払いつつ、部屋の奥にあるベッドの前まで歩いてそっとガウェインの身体を下ろした。
尻がつき、足を下ろして膝下に入れていた手を引き抜いた直後、首にまわされていた相手の腕にぐんっと力が入った。脱力してぶら下がっていただけの頭がむくりと起き上がると、唐突に唇を重ねられて思わず目を見開く。
しかし口付けは一瞬で、ちゅ、と触れ合ったかと思うと力尽きたのかガウェインの腕は首から解け、頭がかくんと反り返った。
「ガ、ガウェイン殿っ…」
あまりの反り具合に、首がもげるのではとぞっとして声をかける。
剥き出しになった白い喉に吸い寄せられる視線を引っ剥がして、ネツァワルピリは相手の肩を抱いていた腕をベッドに下ろし、首の関節を慎重にもとに戻した。
そのまま腕をガウェインの身体の下から抜こうとしたとき。
「…どこにいく」
気怠げな声とともに、シャツの腹のあたりが下に引っ張られた。視線を落とすと、ガウェインが指先をこちらのシャツの裾に引っ掛けていて。
「飲み過ぎたようだ。もう寝たほうが良い」
「……俺がねたら、おまえは?」
「無論、自分の部屋に戻るつもりであるが…」
「だったらねない。ここにいろ」
酒気がまわって、ただでさえ垂れ目がちな双眸が輪をかけてとろんとしている。浅葱色の澄んだ瞳は熱っぽく潤み、白い肌は朱を刷いていて扇情的だ。
そんな色気散漫な状態でわがままを口にしてくる男が可愛らしくて堪らない。
ネツァワルピリは目を細めて微笑み、手のひらを相手の額に当てがい前髪をさらりと掻き上げる。
低い体温が心地良いのか、猫のように目を閉じて身を委ねるガウェインの姿に、抑え込んでいた欲が鎌首をもたげるのがわかった。
「ガウェイン殿、あまり無理を口にしてはならぬ。今のお主と共にいれば、我は何をするかわからぬぞ」
「…何かすればいい」
「揶揄うでない。酔い潰れた者を組み敷くような下衆に成り下りたくはないでな」
「……だろうな。」
ぽつりと呟くと、ガウェインは一度大きく息を吸って、まるで溜め息のように深く息を吐いた。
「だから…、お前と酒はのまなかったんだ」
「…?それは…どういう?」
酔っ払いの迷言かとも思ったが、意図が掴めずネツァワルピリが訊ねると、ガウェインはうっすらと瞼を押し上げてこちらを見上げてくる。
「…俺がよったら、……お前、てを出してこないだろ」
「……」
「俺は…、」
額に乗せられていたネツァワルピリの片手を両手で大儀そうに掴み、ガウェインが自身の顔の下へとそれを移動させていく。口を覆い隠すような位置まで下ろしたかと思うと、
こちらを見つめながら。
べろりと。
手のひらを。
舐め上げられた。
「いつだって、お前に触れられたいとおもってる」
「ッ!」
腹の中にひしめいていたムラムラとした劣情が膨れ上がると同時に、ぎりぎり保っていた理性が瓦解し始めた。
反射的に舐められた手を相手の口から頬へとぐいとずらして、上体を愛しい男に重ねるように沈める。
深く唇を合わせて、性急に舌を捻じ込み相手のそれを引き摺り出した。



