想いを形に
バレンタインシーズンの祖国の視察を終え、グランたちと艇に戻ってきたガウェインは、小さな紙袋を手に目的の部屋に足を向けた。
不在かもしれないと思いつつノックをするが、中から声が返ってきてこっそり安堵する。
時期が時期だけに、何か約束があってもおかしくない。なんといってもこいつは相当な人たらしなのだ。
「俺だ。入るぞ」
鍵はかかっておらず、ガウェインはノブを回してそのまま踏み入る。
部屋の奥のベッドの上。壁に背を預ける形で胡座をかき、ゆったりと読書に耽っていたネツァワルピリが顔を上げ、そこでぴたりと固まった。
こちらを凝視してくる相手の様子に、己の格好を思い出す。
イベントに賑わう街の雰囲気を崩してしまわないようにと、フロレンスに贈られた正装。
鏡の前に立てば自分自身ですら誰だかわからないような仕上がりになっているのだ、突然訪室されたら驚くのも無理はないだろう。
…というか、もしかしてあまり似合っていないのか?
団長たちは特におかしなことは言っていなかったが、気を遣ってくれていたのかもしれない。
「……あ、あまりじろじろ見るな」
「…これはすまぬ。あまりに美しかった故、見惚れてしまった。帰ったばかりか?」
俯いて目を逸らすと、ネツァワルピリが感嘆混じりにそう言って訊ねてくる。
確かに上等な仕立てだ。王宮騎士さながらといったところか。
そんな大層なものを着られるほどの器でもないと思うと、なんだか急に居心地が悪くなってくる。
気まずさを押し隠してガウェインはずんずんと相手との距離を詰めると、ベッドの上にちょこんと紙袋を置いた。
「…ついさっき戻った。これだけ貴様に渡そうと思ってな。もう着替えてくる」
「ガウェイン殿」
早々に踵を返して退室しようとするが、呼び止められて無視をするほどこの男への情は薄くない。
立ち止まって振り返ると、読みかけだった本を閉じて適当に横に置き、ネツァワルピリはこちらに向けて空いた両手を軽くひらいてみせた。
まるでおいでと言わんばかりの仕草に、ぐっと気恥ずかしさが込み上げてくる。
ガウェインは逡巡するように目を泳がせたが、おずおずと戻って膝からベッドに上がった。のろのろとネツァワルピリの厚い肩に手を置いて、膝をどこに突くべきかと迷っていると腰を引き寄せられ、結局足をひらいて相手の腰を跨ぐ形で尻の左右に突く。
「…誠、美しい」
恍惚とした表情で見上げてくるネツァワルピリ。必死に逸らしていた視線を絡め取られ、ガウェインは身体がじわじわと熱を帯びていくことを自覚する。
「……服が、と…ちゃんと言え…」
どぎまぎしつつ渋面で釘を刺すが、ネツァワルピリは一度こちらの全身に視線を流してすぐ、また顔を見つめてきた。
「確かに服自体も上等なものであるが、これらはお主でなければ釣り合わぬ」
とん、と胸の辺りにネツァワルピリの中指が服越しに触れるだけで、ガウェインの身体がぴくりと震える。
動きを意識させるかのように、殊更ゆっくりとその指が胸から腹へと降下していく。
その間も互いの視線は交錯したままで、ガウェインは薄くひらいた唇から熱い吐息をそっと逃した。
「髪型も、少し変えたのだな…。何をしてもよく似合う」
向けられる眼差しに込められた雄の炎が、色濃く露わになっていくのがわかる。
ネツァワルピリの指は腹まで下りてきたが止まることはなく、更に足の付け根を目指しているようだった。どこまでいくのか、何をしようとしているのか、不安と期待が入り混じって呼吸が上擦る。
「我を、尽く虜にする」
「っ…」
「…罪深い御仁よな」
足の付け根に到達したかと思えば、指先は今度はつつ、と内腿に入り込もうとしてくる。
否、指自体は真下に降りてきているだけだ。足を広げているこの姿勢では、直線的な動きで指を下げられるとどうしても大腿部に差し掛かったあたりで内側に向かうことになる。
ガウェインは相手の肩を掴む手にぎゅっと力を入れ、甘く疼きはじめる下腹部を律した。
服の上からなぞられているだけなのに、肌が敏感になり刺激として快感を拾い上げてしまう。
「く…っ」
まずい。
膝立ちをしているこの姿勢では、ちょうど胡座をかいて座るネツァワルピリの胸の下あたりに股間がくる。
どう足掻いても逸物が勃ち上がりかけていることは丸わかりで、申し訳程度に屈んでみるがなんの取り繕いにもならなかった。
そんな中ネツァワルピリが身を沈めて低い姿勢になって、控えめに主張するその山に。
ふに、と唇を触れさせた。
「お、いっ…」
予想だにしない行動に、びくっと腰が引けてしまう。
しかし僅かに空いた距離も、すぐに引き寄せられて。
ネツァワルピリは頭を傾けて、その膨らみを横から喰んできた。
あぐあぐと唇だけで与えられる刺激がもどかしくて、焦りとともに甘い吐息が漏れてしまう。
「あっ…ふ、」
彼の長い髪が、さらりと肩から滑り落ちていく様が色っぽい。視覚情報は最早破廉恥のオンパレードだ
そして下まで降りきっていたネツァワルピリの指先は、今度は手のひら全体でこちらの大腿部を撫で上げてきて、尻の形を確かめるように這わされていたりする。
服の上からの愛撫が物足りなくて、気がつけば腰を自ら相手のほうへと突き出していることを自覚して、ガウェインは一気に赤面した。
与えられる快感に焦燥ばかりが募っていく。
こんなかっちりした服装のまま、それも乱されることなく着たままイかされるなど堪ったものではない。
…しかし気持ちいい。抗いようのない気持ち良さだ。
無意識にこぼれ落ちていく湿った息遣いと声に苦々しく歯噛みしていると、視界の端に紙袋が映った。それは、この部屋に訪れた理由の品。
「ま、待て、それをっ…」
ガウェインの制止に、ネツァワルピリの伏せていた双眸が見上げてくる。
朝焼けのような、綺麗な赤い瞳。
また熱っぽい視線に囚われてはまずいと思い、慌てて顔を背けて相手の肩をぐいと押しやった。
ネツァワルピリは特に抵抗もなく、おとなしく引き下がってこちらの様子を見守ってくれる。
なんだか一人で真っ赤になって煽られて、居心地が悪くて仕方ない。



