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五条悟が苦悩しながらも青春を謳歌し大団円を迎える話:黎明前編

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●プロローグ
 呪術廻戦0の時間軸、乙骨憂太との戦闘を終えて片腕を失い呪術高専から撤退しようとしている夏油傑。

 ──

 今際の際に思い出すことなんて、もう何もないと思っていた。

 今まで何度も死にかけてきたから、星漿体の護衛任務の時が一番ひどかったかな……なんて、今思うことじゃないか。

 私の服の中で冷たくなったものがあった。
 最近可愛がっていた毛の長い薄茶色の猫、彼女はまだ小さな子猫でとても愛嬌のある子だった。
 私が昔飼っていた子猫と毛並みも性格もよく似ていたな。まるで生まれ変わりみたいに……。

 そういえば悟も子供の頃に、猫を飼っていたと言っていた……確か黒いお姉さん猫で、いつも振り回されていたと懐かしそうに話してたっけ。

 ──君は気がつけば、いつもそばにいた。
 だからきっと、巻き添えになったのだろう。
 逃がそうとしたはずなのに、また勝手に私の服の中に潜り込んできて──。

 そして結局最期まで、私のそばにいた。
 私に懐かなければ、君はもっと長生き出来たかもしれないのに──申し訳ない気持ちで懐の子猫に触れる。
「私はきっと君と同じところには行けないね。友だちにひどいことをしたから……」

 近付いてくる気配に気付いて、私は長く息を吐いた。


⚫︎とある呪霊の報告書から抜粋
 人里離れた一軒家を根城にしており、高齢の認知症を患った女性と共に暮らしていた。当時、呪術師登録して間もない五条悟が遭遇、交戦した結果呪霊を祓うことに成功。その呪霊は数年前に双子を妊娠した妊婦を取り込んでおり、呪霊を祓うとその双子が年月相応に成長した姿で現れた。

⚫︎1
 俺が“あれ”を初めて認識したのはまだ幼い頃、認識できる範囲に突然現れた強い光に俺は興味を持って、世話係が何か言うのも聞かずにその強い光に近付いた。

 ──裏山の茂みをかき分けて進むと、強い光を纏った白い猫が一匹。俺を待っていたと言わんばかりの視線を向けてくる。
「お前はなんだ?」
 その白猫が異質なものであることはすぐにわかった。しかし問いかけても、その猫は細く目を細めるだけで何も口にしない。
「何か理由があってここに来たんだろ? 言えよ。言わないつもりか? それなら──」
 呪力を使って猫を引き寄せ驚かせようとした。
 しかし、猫は呆れたような視線を向けるだけで俺の呪力の方向を変えてしまう。
「──なっ!?」
『──まったく、呆れるわ。自己肯定感の塊。自信過剰な性格が鼻につくのよね』
「はぁ!? 失礼な奴だな!!」
 突然頭に流れ込んだ物言いに俺は怒りの声を上げる。いや、落ち着け。猫は脳内に直接話しかけたりしないものだ。
『そうね。その通り』
「!?」
 警戒するように黙り込む。その様子を白猫はどこか馬鹿にするような様子で笑って見ている。
「性格の悪い奴だな」
『そういう決め付けは良くないわ。物事を自分の物差しで決めつけてばかりいると損をするわよ』
 ──正論だ。特別な出自、特別な環境で育った俺は、人より優れているからこの猫がただの猫でないこともわかるし、俺とは違う物事の捉え方をしていることが容易に理解できた。
「俺を諭して、それになんの意味がある?」
『あなたの考え方を今から少し変えておけば、あなたの未来が変化するわ』
「未来?」
 わけがわからない。俺の未来を変えることが、この猫に何の影響があるというのか──。
『あなたがもう少し思慮深く、周囲にいる人の心にも寄り添えたなら。
 ──失いたくなかったものを、失わずにいられるかもしれない』
「ハッ──」
 思わず笑いが込み上げる。
「この俺が? 失いたくなかったものを、失わずにいられる? 俺は五条悟だぞ。望むものは何でも手に入れられる。地位も名誉も名声だって! 俺が失わずにいたいものなんて──」
 白猫が助走をつけて俺に飛び掛かってきていた。
 無下限呪術を纏わせたこの俺に、たかが猫の攻撃など届かない。はず、だったが──

 脳裏に浮かぶ懐かしく、切ない記憶。
『──悟』
 名前を呼ばれ、誰かに優しく頭を撫でられた記憶。

 ガツンと猫と俺の頭同士が強くぶつかって、俺は意識を失った。


「──て」
 頭に痛みを感じながら布団から起き上がる。見慣れた自室、だが違和感があった。見慣れない布団が敷かれており、同年齢ぐらいの子供が二人寝かせられていた。
「はぁ!?」
 俺の声に二人は同時に目を覚ます。同時に俺の脳内に二人を助けたという、存在しないはずの記憶が甦ってくる。
「お前ら──」
「にゃんにゃん!」
 ふわふわとした白っぽい金髪に青い目の方が、俺の布団の上にいた白猫を指さして言った。
「何を驚いた顔をしているの五条悟。確かに私たちはあなたに助けられたけど、勘違いしないでくれる?」
 ストレートな黒髪で青い目の方は、厳しそうな目つきをしている方が淡々と話しかけてくる。
「なんなんだお前らはー!!」

⚫︎2

 それが呪霊から生まれるような出自となった奇妙な双子。
 金髪の方、せいら
 黒髪の方、そよか
 との出会いだった。
「エロ同人の導入かよ」
 家入硝子は呆れたようなため息をついて、教室の机に突っ伏す。
「悟、頭大丈夫かい? 他意はないよ。猫に頭突きをされたと話していたから──」
 横で一緒に聞いていた夏油傑が控えめに声をかけてくる。唇の端が引き攣ってるのバレバレなんだよ!
「お前らなー、入学早々から九州分校に臨時で行ってた奴らがどんな奴か教えろって言うから話したのに、なんで俺のことdisってくるわけ? マジで理解に苦しむぜ」
「いや、あまりにも出来すぎた語り口だったから──」
 傑は口元を片手でおさえた。
「妄想乙ー」
「硝子ー!!」
「ともあれ二人が本当に実在するのか、悟の妄想なのかどうかは、ほどなくわかるわけだ。九州からの飛行機は無事に空港に到着、定刻だとするとそろそろこの教室に──」
 バーンと教室のドアが開いた。
「さーとるー! 帰ってきたよー!」
 ふわふわとした金髪をなびかせて、高専の制服を着たせいらが走ってきて俺に抱きつく。
「せいら、落ち着いて。悟が調子にのってしまうわ」
 黒髪ストレートの切れ長な瞳をしたそよかが足早に近付いてきてせいらを俺から引き剥がす。
「えー? ただの挨拶だよー? さとるだってなんとも思ってないよねぇ?」
「お、おぉ。別になんとも思ってねーし?」
「……童貞が」
 ぼそりと硝子がつぶやいた言葉を、俺の耳は拾ってしまい睨みつける。
「驚いたな」
 呆気にとられる傑。
「どうよ? 事実だっただろ?」
 せいらとそよかの間に立って二人の肩に腕を乗せ、俺はニヤリと笑う。
「へー。それじゃあ二人とも悟のこと好きなの?」
 硝子が聞くと、二人は俺を一瞥してから間髪入れずに答える。
「「全然」」
 傑と硝子は吹き出して笑い出した。