Lijepa nasa domovino
<不安>
大雨が降っている。
道はぬかるんでいる。なんでわざわざ「あいつら」はここを選んだのか。
第一、この国は時に険しい石灰岩の山が連なっているかと思えば、突然平野になったり、海に出れば、無数の島があって、どこに敵が潜伏しているかなんてわかりゃしない。
まったくやりにくいことこの上ない。
しかし、ハンガリーのエリザベータが拘束され、イタリアのフェリシアーノとロヴィーノも捕まった、そんな知らせを聞いて飛び出さないわけには行かなかった。
第一あのエリザベータが捕まるなんてただ事ではないのだ。それに、弟の部隊が相当の被害にあっている。相手は一人ではない。確か、相手は六人だが、一人は俺たちの側についているはずで、五人のはずで、こんなに苦戦していたなんて思っても見なかったのだが。
何年か前弟が一枚の写真を見せてくれた。
「兄さん、新しい国を「作った」」
「はあ?これまたどんな風の吹き回しかね?お前が、国を作る。どういうこ・・・・おお!なんだこいつ!えらい美・・・」
そこには一人の軍服を着た若い将校が写っていた。髪の毛が長めの、少しばかりフェリシアーノに似た奴。
「こいつ・・・なに?男?女?」
「それは、判然とはしないのだが。とにかくわれわれドイツ帝国の協力者だ。クロアチア独立国という。彼らには、ソビエトとの戦争もそうだが、特にあのセルビア人の掃討にあたってもらうことにした。セルビアを押さえれば、油田もあるし鉱物資源も多い。資源の少ないわが国にとっては大いなる力になると思うのだが。」
「ま、まあ・・・そうだな・・・。でも、大丈夫か?ここの国は俺らと比べて民族間の関係が複雑なんだぜ。オーストリアとハンガリーが分かれたのも、第一次世界大戦がおっぱじまったのも、こいつらからなんだぜ。そこに深入りすると危ないぞ。それと・・・」
「ん?何が心配なんだ?兄さん」
「い、いや・・・、なんでもない」
このクロアチア独立国のきれいさにどぎまぎしたが、それより、こいつには見覚えがあるのだ。
そこの国は大昔、オーストリアの傭兵として自分とやりあったやつだなんて口が裂けてもいえなかった。
七年戦争のとき前ばかり気にしていたら突然フリッツ親父が「撃たれた!」と言って、馬から落ちた。前にはエリザベータがいつもの武器を持っていたものだから「このバーカ」なんて言っていたら、後ろからすさまじい銃弾の雨が降ってきたのだ。
「行け!つぶせ!皆殺しだ!」
首に巻いた長いスカーフをなびかせそいつは次々と撃ちまくっていた。そして俺の前にやってくると、にやりと笑って、剣を振りかざす。
あのときエリザベータが間に入らなかったらどうなっていたか。
そいつは怒り狂って「何で止めるんだ!戦争ってそういうものか!やらせろ!」って。
そういう奴がルッツのもとで・・・・やっていけるのか?逆にルッツがやられることにならないか、心配になってきた。なぜなら平気で、そのときの状況で寝返ることもある。
オーストリアの支配下にいながら敵国のフランスに傭兵に行ってしまう、そんな国だから。もっともそれは、ローデリヒの倹約が招いたことなんだが。
<対峙>
「お前さんか?ドイツ野郎が「兄さん」って言っていた奴は・・・。ふっ!俺と同じような髪の色していやがる。なんだ?兄貴はすぐ白髪になるんかねえ・・・。」
暗い雨にもかかわらず、そいつの深い青色の瞳はぎらついていた。自分よりはるかに大きい背。銀髪というよりつやのない白髪頭。しかし、その瞳に宿ったものは体の底から沸き起こる光だ。命の炎とはこのことを言うのだろうか。自分としては、もう、「終わったような」国だからそういう光はもう過去のものになってしまったのだが・・・。
ふと、そいつの足元を見る。見覚えのある大きな体が横たわっている。
え・・・・まさか・・・おい!おい!マジかよ!
「ルッツ!」
泥まみれになって、倒れている。何で、何で、あいつがこんなところで・・・。
「おやおや、涙の再会かい?多分我が愛する兄弟「クロアチアのアンテ」のほうへ行こうとしたんだろう。その途中で捕まっちまった。野戦病院なんか攻撃するからだよ。一番弱いものを攻撃するなんて。人道的に許されんぞ。それに、こいつの目的は、あいつを奪還するんだよな。」
そういうと、マキシミリアンはルートヴィッヒの体を蹴飛ばす。
「に・・・・兄さん・・す、すまな・・い」
「て、てめえ!許せねえ!それより、お前、何者なんだ!」
「俺か?昔は「セルビア」今はユーゴスラビアを名乗る、マキシミリアン・カラジェノビッチだ!これからよっく覚えとけよ!お前の名前は分かっている。プロイセンのギルベルト・バイルシュミットだろう。待ってたぞ。喧嘩番長。やりたくてうずうずしていたぜ。あ、武器はなしでな。素手でやろうぜ。そっちのほうが面白い。」
こいつ・・・俺と同じ匂いがする・・。向こう気が強くて、兄弟思いで・・・。でもこの国は兄弟といっても、育てたとかそういうことではなくて、みな同じような感じで育ってきたはずで・・・、途中でいろいろな国に連れて行かれたりしていたから、兄弟と言うよりは・・・
ぼんやりギルベルトが考えているのをマキシミリアンは見逃さなかった。
「何やってんだ!さっさと始めろ!弟が・・・弟・・あれ?」
いつの間にか、ルートヴィッヒの姿がない。
すると誰かがルートヴィッヒを抱えて雨のあたらないところに引きずっているようだった。
「アンテ!てめっ!何やってるんだ!ここに及んで情けをかけるなんてやめろ!」
アンテと呼ばれた人物が声のほうに顔を向けた。
あの写真の人物だった・・・。
<邂逅>
「アンテ!何やってるんだ!そんなやつほっぽりだして、こっちに戻ってこい!」
大きな男を背負うのはかなり難儀なことなのに、それに戦闘服が泥で汚れてその後の始末に困ることぐらいわかっているのに、そんなことにお構いなしに、雨よけになりそうな木の根元まで泥まみれのルートヴィッヒを連れてゆくと、ゆっくりと横たえた。
「痛む?傷・・・・・。」アンテはルートヴィッヒに声をかける。マキシミリアンに聞こえないよう小声だ。
「・・・・す、すまない・・・。お前こそ、血が滲んでいるぞ。・・このときの借りは必ず・・。」
「返さなくてもいいわ・・・。あなたが生きているならそれで・・・。」
そしてマキシミリアンにこう言った
「けが人だ。それを真ん中にして喧嘩するのか?兄さんらしくない。やるんだったら、そっちの兄さんと正々堂々とやれ。彼を巻き込まないでほしい。」
「何ィ!「兄さん」だとお!一緒にいたらこいつの口真似までするのか!ここは、ここの言葉らしく「兄者」と言え!」
いきなりアンテのそばに近づくや否やその顔の横面を思い切りはたいた。勢いで水溜りへもんどりうって倒れる。ギルベルトは息を呑んだ。
しかし、アンテは、それにひるまずに続ける。さすが、はたかれてもはたかれても、マジャルと対等に渡り合ってきたことだけのことはある。
大雨が降っている。
道はぬかるんでいる。なんでわざわざ「あいつら」はここを選んだのか。
第一、この国は時に険しい石灰岩の山が連なっているかと思えば、突然平野になったり、海に出れば、無数の島があって、どこに敵が潜伏しているかなんてわかりゃしない。
まったくやりにくいことこの上ない。
しかし、ハンガリーのエリザベータが拘束され、イタリアのフェリシアーノとロヴィーノも捕まった、そんな知らせを聞いて飛び出さないわけには行かなかった。
第一あのエリザベータが捕まるなんてただ事ではないのだ。それに、弟の部隊が相当の被害にあっている。相手は一人ではない。確か、相手は六人だが、一人は俺たちの側についているはずで、五人のはずで、こんなに苦戦していたなんて思っても見なかったのだが。
何年か前弟が一枚の写真を見せてくれた。
「兄さん、新しい国を「作った」」
「はあ?これまたどんな風の吹き回しかね?お前が、国を作る。どういうこ・・・・おお!なんだこいつ!えらい美・・・」
そこには一人の軍服を着た若い将校が写っていた。髪の毛が長めの、少しばかりフェリシアーノに似た奴。
「こいつ・・・なに?男?女?」
「それは、判然とはしないのだが。とにかくわれわれドイツ帝国の協力者だ。クロアチア独立国という。彼らには、ソビエトとの戦争もそうだが、特にあのセルビア人の掃討にあたってもらうことにした。セルビアを押さえれば、油田もあるし鉱物資源も多い。資源の少ないわが国にとっては大いなる力になると思うのだが。」
「ま、まあ・・・そうだな・・・。でも、大丈夫か?ここの国は俺らと比べて民族間の関係が複雑なんだぜ。オーストリアとハンガリーが分かれたのも、第一次世界大戦がおっぱじまったのも、こいつらからなんだぜ。そこに深入りすると危ないぞ。それと・・・」
「ん?何が心配なんだ?兄さん」
「い、いや・・・、なんでもない」
このクロアチア独立国のきれいさにどぎまぎしたが、それより、こいつには見覚えがあるのだ。
そこの国は大昔、オーストリアの傭兵として自分とやりあったやつだなんて口が裂けてもいえなかった。
七年戦争のとき前ばかり気にしていたら突然フリッツ親父が「撃たれた!」と言って、馬から落ちた。前にはエリザベータがいつもの武器を持っていたものだから「このバーカ」なんて言っていたら、後ろからすさまじい銃弾の雨が降ってきたのだ。
「行け!つぶせ!皆殺しだ!」
首に巻いた長いスカーフをなびかせそいつは次々と撃ちまくっていた。そして俺の前にやってくると、にやりと笑って、剣を振りかざす。
あのときエリザベータが間に入らなかったらどうなっていたか。
そいつは怒り狂って「何で止めるんだ!戦争ってそういうものか!やらせろ!」って。
そういう奴がルッツのもとで・・・・やっていけるのか?逆にルッツがやられることにならないか、心配になってきた。なぜなら平気で、そのときの状況で寝返ることもある。
オーストリアの支配下にいながら敵国のフランスに傭兵に行ってしまう、そんな国だから。もっともそれは、ローデリヒの倹約が招いたことなんだが。
<対峙>
「お前さんか?ドイツ野郎が「兄さん」って言っていた奴は・・・。ふっ!俺と同じような髪の色していやがる。なんだ?兄貴はすぐ白髪になるんかねえ・・・。」
暗い雨にもかかわらず、そいつの深い青色の瞳はぎらついていた。自分よりはるかに大きい背。銀髪というよりつやのない白髪頭。しかし、その瞳に宿ったものは体の底から沸き起こる光だ。命の炎とはこのことを言うのだろうか。自分としては、もう、「終わったような」国だからそういう光はもう過去のものになってしまったのだが・・・。
ふと、そいつの足元を見る。見覚えのある大きな体が横たわっている。
え・・・・まさか・・・おい!おい!マジかよ!
「ルッツ!」
泥まみれになって、倒れている。何で、何で、あいつがこんなところで・・・。
「おやおや、涙の再会かい?多分我が愛する兄弟「クロアチアのアンテ」のほうへ行こうとしたんだろう。その途中で捕まっちまった。野戦病院なんか攻撃するからだよ。一番弱いものを攻撃するなんて。人道的に許されんぞ。それに、こいつの目的は、あいつを奪還するんだよな。」
そういうと、マキシミリアンはルートヴィッヒの体を蹴飛ばす。
「に・・・・兄さん・・す、すまな・・い」
「て、てめえ!許せねえ!それより、お前、何者なんだ!」
「俺か?昔は「セルビア」今はユーゴスラビアを名乗る、マキシミリアン・カラジェノビッチだ!これからよっく覚えとけよ!お前の名前は分かっている。プロイセンのギルベルト・バイルシュミットだろう。待ってたぞ。喧嘩番長。やりたくてうずうずしていたぜ。あ、武器はなしでな。素手でやろうぜ。そっちのほうが面白い。」
こいつ・・・俺と同じ匂いがする・・。向こう気が強くて、兄弟思いで・・・。でもこの国は兄弟といっても、育てたとかそういうことではなくて、みな同じような感じで育ってきたはずで・・・、途中でいろいろな国に連れて行かれたりしていたから、兄弟と言うよりは・・・
ぼんやりギルベルトが考えているのをマキシミリアンは見逃さなかった。
「何やってんだ!さっさと始めろ!弟が・・・弟・・あれ?」
いつの間にか、ルートヴィッヒの姿がない。
すると誰かがルートヴィッヒを抱えて雨のあたらないところに引きずっているようだった。
「アンテ!てめっ!何やってるんだ!ここに及んで情けをかけるなんてやめろ!」
アンテと呼ばれた人物が声のほうに顔を向けた。
あの写真の人物だった・・・。
<邂逅>
「アンテ!何やってるんだ!そんなやつほっぽりだして、こっちに戻ってこい!」
大きな男を背負うのはかなり難儀なことなのに、それに戦闘服が泥で汚れてその後の始末に困ることぐらいわかっているのに、そんなことにお構いなしに、雨よけになりそうな木の根元まで泥まみれのルートヴィッヒを連れてゆくと、ゆっくりと横たえた。
「痛む?傷・・・・・。」アンテはルートヴィッヒに声をかける。マキシミリアンに聞こえないよう小声だ。
「・・・・す、すまない・・・。お前こそ、血が滲んでいるぞ。・・このときの借りは必ず・・。」
「返さなくてもいいわ・・・。あなたが生きているならそれで・・・。」
そしてマキシミリアンにこう言った
「けが人だ。それを真ん中にして喧嘩するのか?兄さんらしくない。やるんだったら、そっちの兄さんと正々堂々とやれ。彼を巻き込まないでほしい。」
「何ィ!「兄さん」だとお!一緒にいたらこいつの口真似までするのか!ここは、ここの言葉らしく「兄者」と言え!」
いきなりアンテのそばに近づくや否やその顔の横面を思い切りはたいた。勢いで水溜りへもんどりうって倒れる。ギルベルトは息を呑んだ。
しかし、アンテは、それにひるまずに続ける。さすが、はたかれてもはたかれても、マジャルと対等に渡り合ってきたことだけのことはある。
作品名:Lijepa nasa domovino 作家名:フジシロマユミ