Lijepa nasa domovino
口付けしながら上着のボタンをまさぐり、一つ一つはずしてゆく。胸に手を滑り込ませ、敏感な部分を探し当てると、執拗に攻め続ける。
正視に耐えない光景が、繰り広げられている。ギルベルトの目から涙がとめどなく流れ落ちる。
ルートヴィッヒは愛する兄に対するこの上ない侮辱であると思ったが、体が言うことを聞かない。
ここまで、自分を痛めつけたのは・・・・兄を辱めるために、この光景を見せるためにここまでしたのか、と思うくらいだった。
そして、マキシミリアンはギルベルトにささやいた。
「俺よう・・・。本当は、お前のことが好きなんだよ。好きで好きでたまらなかったんだよ。あこがれていたんだ。お前が、弟・・・・ドイツを作ったとき、本当にうらやましかった。だからいつかはお前のように兄弟集めて国作ろうと思っていたんだよ。な、わかるか・・・。」
そういいながら、首筋を丹念に舐め上げる。
「ひっ・・・!やめ・・ああっ!ふあ!」ギルベルトは思わずマキシミリアンの腕から逃れようとしたが、体中がどういうわけだか痺れ、自由が利かない。
「さすがプロイセンだ。極上の男・・・いや、国だな。それが、こんな風になるなんて最高だな。お前、すごく可愛いぜ。あえぎ声なんか素敵じゃないか。こんな国に愛されて育った弟か・・・・。そいつも極上なんだろうな。まあ、それはアンテが仕込まれたろうから、そっちは彼女から教えてもらおう・・。」
マキシミリアンが、頃合いよし、と見たところで、今度はズボンに手をかけ、十分に興奮していきり立った、ギルベルトのものを出そうとしたときだった。
そのときだった。
「馬鹿やろおおおおおお!!!!!!!」
押さえつけていた兄弟を振り切って、アンテがマキシミリアンに体当たりした。
あまりの強さに、マキシミリアンの大きな体が飛ばされた。再び血が止まらなくなったがこの際どうでもいい。
「兄さん!もう!いい加減にしろ!もういいじゃないか!」
「アンテ・・・俺は、お前がやられたことをやっているだけなんですが。お前、女だけどさ。」
「そういうことじゃない。そういうことがお前のやり方なのか!」
「ああ、そうだが。」
「そいつの体で、この地を汚すのか?」
「え・・・?」
「私たちの美しい祖国をこれ以上、汚すのか!やめてくれ・・・。もういい。このユーゴスラヴィアの名誉のために・・やめてくれ・・・。」
「お前・・・・」
「もう一度言う!ユーゴスラビアの、私たちの美しい祖国の名誉のために、やめてくれ!」
Liepa nasa domovino・・・・・・・・
「・・・・それが、聞きたかったんだよ・・。アンテ。お前は事あるごとに「クロアチアが」を連呼していたが、はじめて「ユーゴ」という言葉を聞いた。そうだ。俺たちはユーゴスラビアなんだ。お前がその言葉を言うのを待っていたんだ。それまで、長かったなあ・・・。余計なことまでしちまったぜ・・・」
「に、兄さん・・・」
アンテの目は下を向いたままだった。
言わされた・・・。でも、こうでもしなければ・・・ルートヴィッヒが・・・。壊れる・・。ごめん・・・本当にごめんなさい・・・。
<別離>
すると、突然拍手が聞こえてきた。
全員がその方向を見る。
「いや~、いい物を見せてもらったよ。ご苦労だったねえ、マキシミリアン」
「イヴァン!おめえ、いつの間に!」
この蒸し暑い雨の中、首にマフラーを巻いた大柄な青年がやってきた。
ソ連からわざわざ駆けつけたという感じでもなく、通りすがりのような顔をしていたのが、マキシミリアンにはまた気に食わなかった。いつかこのマフラーを取ってやりたいと常々おもっているのだが。もし、取れなかったら、締め上げるだけだとも思っていた。
余計な奴が来たもんだぜ・・・。何する気だ・・?
「さて、このドイツとプロイセンは、どうしようかねえ」イヴァンが言う。
「悪いが、イヴァン、この二人の処遇は俺たちだけでも、ましてやてめえの一存では決められねえ。とにかく、俺たちとすれば、このユーゴスラヴィアからドイツに出て行ってもらえればいいだけの話だ。イギリスが、この二人の処遇について話し合いたいと言っているので、とりあえず、そっちに任せることにする。国際法上のルールは守らねばならないからな。それはわかっているだろうな。」
「おや、おや、君の口からそんな言葉が出るなんて思ってもみなかったね。散々負け続けてきたから逆に、ルールには詳しくなったみたいだね」
「へ!今さらだぜ」
「ふふふ、君はいつもかわいいねえ。ところで、君たちは、僕の仲間に入るの?」
「さあな。風任せってところで。でも、考え方近いからな。新しい世界作ろうぜ。」
「うん。そうだね。じゃ、この二人どうする?」
「とりあえず、ドイツ国内に移送する。俺と、ツルナ・ゴラが一緒についてゆくよ。お前も行くんだろう?」
「うん。行くよ。一緒に行こうか」
倒れたギルベルトとルートヴィッヒを移送のためのトラックに載せると、一路、ユーゴスラビアからドイツに向けて出発した。
そして、そのトラックの中で、
イヴァンはこう思っていた。
「どうせ、君たちも僕のものになるんだよね・・・」
マキシミリアンはこう思っていた
「俺たちは、俺たち。誰の言うことも、誰の「神話」も信じねえぞ・・・こいつだって・・・」
(了)
作品名:Lijepa nasa domovino 作家名:フジシロマユミ