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初陣

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 投降に応じたのはごく一部だった。やむを得ず火矢と火の紋章を使用し、焼け残った森を更に焼き尽くす。火から逃れるようにして出てきた敵は、弓矢と騎馬兵、重槍兵の突撃によって踏み倒され、突き殺された。
 すべての戦闘が終わった頃にはもう日も傾いて、野原が夕焼けなのか血の跡によるものなのかわからないほどに赤く染まった後だった。
 味方の被害は小規模の戦闘だったにもかかわらず、死者100名を超えた。そのほとんどは、ロイの無謀な突撃によって巻き込まれた兵士達だった。
 凱旋を終えて、本来の姿に戻ったロイは、一人湖の側に座り込み、朱に染まった湖を見つめていた。
「お疲れ様」
 不意に背後から声がかかる。
 見なくてもそれが誰なのか、わかった。
 金色の青年は、静かにロイの隣に腰を下ろした。
「やっと、わかった」
 ぽつりとロイは呟いた。何が、とは傍らの青年は聞かない。その沈黙に甘えるまま、ロイはぽつりぽつりと独り言のように語りだす。
「自分のせいで誰かが死ぬのが、こんなに怖いもんだって、思わなかった……。しかもさ、オレが失敗するとそれはオレの責任じゃなくって、アイツの責任になるんだ。自分だけじゃなくって、他の奴らの分までアイツは背負わなきゃならない。オレとたいして変わんないってのに、アイツはずっと、この重さ、背負ってきたんだ……。そして、これからも、あいつは背負っていかなくちゃいけない……」
 肩を引かれた。力強い腕が、ロイの肩を支える。気がつくといつの間にか、とめどなく頬を涙が流れていた。
「王子が重荷を背負うのはもう仕方がない。でも、背負わせる荷物なんて、少なければ少ないほどいいんだ。だからオレたちは、王子の負担を少しでも軽くしようとがんばらなくっちゃならない」
 ああそうだ。言葉にすることが出来なくて、ただしきりにロイは頷いた。
 ファルーシュにあんな思いはさせたくない。あんな苦しみ、味あわせたくない。あいつはオレよりもずっと優しいから。そんな優しいあいつに、何故あんな苦痛を味あわせることができる。
「でもね、ロイ君。オレたちは王子の重荷を減らすことはできるかもしれない。けど、王子の重荷を理解することは、たぶん出来ないんだよ。王子の重荷を理解するためには、王子と同じ立場に立たなきゃならない。でも、俺達がそうなるわけにはいかない」
 カイルの眼差しがロイを見つめる。
「それができるのって、ロイ君なんじゃないかな」
 一瞬、ロイは目を瞬かせた。カイルがなーんてね、とおどけたように笑う。
 そこまでは考えてもいなくって、戸惑った。けれど、カイルはもう行こうかなーといつもの調子でへらへらと笑う。
 でも、もしカイルの言うとおりなら、カイルが先日怒りを露にした理由がなんとなくわかる気がした。
「王子さんの重荷を理解する、か……」
 王子と貧民街出身の自分が、まさか同じことで悩むことになるなんて思いもしなかった。けれど、そうなのかもしれない。自分は、ファルーシュの影で、ファルーシュの一部に近いのかもしれない。だったら、ほんの少しでも、あいつの心の理解者に、なれるのかも知れない。
「なれれば、いいな……」
 ぽつりとロイは呟いた。そんなとき。
「あー、こんなとこにいたんだロイ、カイル!」
 遠くから、ファルーシュが駆けてきた。手を振って弾ませる声に、もう悲しみの色はない。
 勢いよくロイは立ち上がった。
「腹減った! 王子さん、メシ行くぞ!!」
「ぇ!?」
 駆け寄るファルーシュの肩をひったくるようにして抱き寄せて、ロイは突き進む。いきなりのことでわけもわからず困惑するファルーシュが、ロイに引きずられていく。その後ろから、カイルも楽しげに付き従った。
「がんばってくださいねー」
「え? う、うん??」
 なんのエールなのかわからないまま、ファルーシュは頷く。その向こうで、ロイは不敵な笑みで応えた。
 日の沈んだ夜の闇の中、空には幾千万の星が瞬き始める。その星の下、にぎやかな宴が始まった。ファルーシュの傍らにはロイの姿。まるで鏡のような二人の姿が、周りの者たちにはいつもより近く感じられた気がした。
 
 

作品名:初陣 作家名:日々夜