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死が二人を分かつ時まで

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今度結婚するらしいぜ、アメリカの奴。
 隣国の腐れ縁が言ったその台詞を、何とかイギリスが鼻で笑い飛ばすことが出来たのは、偏にその日がエイプリルフールだったからに他ならなかった。もしそれが真実だとしたら、独立された時以上の悲しみと苦しみを、イギリスは味わう羽目になっていたに違いない。
 そんなやり取りをフランスとしてから、初めての世界会議。何の因果か隣合わせになったアメリカに、取り敢えず何か話題を振って会話を取り付けようと思ったのが、そもそものきっかけだった。
「フランスから聞いたんだが、今度結婚するんだってな?」
 勿論、それは下らないフランスの嘘だとちゃんと見抜いた上での、作戦だった。過去の因縁か、はたまた性格の不一致か、毎度穏やかとは言えないアメリカとの関係を、どうにかして修正したかったのだ。笑い話になれば良し、万が一アメリカが腹を立てても、責任はフランスに行くという、我ながら何とも素晴らしい作戦だった。けれど、そう、どんなに完璧に思える計画を立てたとしても、それが百パーセント常に成功されるかと言えば……そうではない。事実は小説より奇なり、という言葉通り、世界は驚きとハプニングに満ち溢れている。
「何で知ってるんだい!? 本当に君達はこういう話題が好きだな」
「……え?」
「それにしても、一体何処で漏れたんだろう?」
 アメリカは心底不思議に首を傾げているが、生憎とイギリスはそれどころでは全然なかった。
「おま……結婚て、誰」
 誰が、誰と。
「君も知ってるだろう? ジェニーだよ」
 脳裏に、アメリカの秘書官の姿が瞬時に浮かぶ。波打つブロンド、完璧なスタイル、決して嫌味じゃない品の良さ。以前、通販番組で『アルフレッド』の恋人として出て来た時には色々な意味で驚いたが、成る程、あれは何も予算云々の関係ではなかったらしい。
 フランスの馬鹿野郎。本当なら本当だって言えよ。紛らわしい日にあんなこと言うんじゃねえ。内心イギリスはそう毒づいたが、勿論エイプリルフールとは他愛の無い嘘なら許される日であって、何が何でも嘘を吐かなければならない日ではない。しかし、内容が内容だったのだから、それが嘘だと判断してしまったところで、何ら責められる謂れは無いとも思う。尤も、自身の願望が判断を必ずしも鈍らせていないとは、イギリスも流石に胸を張って言うことは出来なかったが。
「本気、なのかよ……馬鹿げてるぞ」
 国が人と家庭を持つなんて、この千年イギリスは聞いたことも見たこともない。自称愛の国フランスだって、恋人以上のステージに上がろうとしたことはないのだ。それは当然、立場の違いというものがあるからで。どんなに相手を愛していても、国は国。恋人の優先順位など、限り無く低い。そして何より、国と人では、一生を添い遂げることなどまず不可能なのだ。一緒に年を取ることさえ出来ない。
 愛を下らないとは、イギリスは言わないし言えない。寧ろ素晴らしいものだとさえ思う。けれど、愛だけではどうにもならないことがあるのも、また確かだったから。
「結婚は人生の墓場だ、とでも言うつもりかい? それなら安心してくれよ。結婚するのは君じゃないからさ!!」
 確かにそうだ。結婚するのは自分じゃない。けれど、じゃあ、この気持ちは一体何だ?
 ――嘘吐き。俺のこと、好きだって言ったクセに。
 この、まるで裏切られたかのような、胸の痛みは。



 イギリスがアメリカから思いを告げられたのは、今から五十年程前のことだった。何てことのない、ありふれた休日の一コマだった筈だ。にも拘らず、その時のことを、イギリスは今でも鮮明に覚えている。紅茶の銘柄も、スコーンに添えたジャムも、朝一番に切って活けた花でさえ。それ程に、衝撃的な出来事だったのだ。正に天変地異と呼ぶに相応しいくらいに。
 初めは何かの冗談かと思った。エイプリルフールかとも思ったし、誰かに命令された罰ゲームなのかとも思った。とどのつまり、それが本気のものであるだなんて、イギリスは微塵も想像しなかったのである。かつて『弟』と読んだ存在に愛を囁かれるなんてことを、一体誰が考えるだろう? イギリスには、何ら責められる謂れは無いと言えた。
 しかしその後の行動については、非難されても致し方無いのかも知れない。イギリスはアメリカの告白を常識に当て嵌めて考えた末、冗談だということにした。
 ……冗談だろう?
 本気でそう思ったわけではない。どちらかと言えば、そうであって欲しい、という願望の方が強かった。実際、そう言った時のイギリスの顔は歪んでいた。
 ……冗談?
 アメリカが静かに呟いた。悲しさと虚しさが半々に入り交じったような表情で。それを見た時、イギリスは自分が最悪の間違いを犯したことに気付いたのだった。失言だったと。
 けれどもう、取り消せない。一度口にしてしまったのだから。
 イギリスは呆然と、アメリカが次に発する言葉を待った。
 アメリカが、一瞬目を閉じる。再びアメリカが目を開けた時、その瞳はありとあらゆる感情を詰め込んだような深さをしていた。
 ……君がそれを、望むなら。
 まるで雪が降るような静けさで言われた言葉を、声を、イギリスはこの半世紀、一度も忘れたことはなかった。

作品名:死が二人を分かつ時まで 作家名:yupo