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靴に恋した人魚

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 そうして一度綺麗に清算され、闇に葬られた関係が、何故今日まで続いているのかと言えば、それこそイギリスの努力の賜物に他ならなかった。
 アメリカはイギリスに行為を強いたことにも酷くショックを受けているようだったが、イギリスが元とは言え『兄』であることにも多大なショックを受けていた。個人の意思か国民の意思かは知らないが、アメリカは中々に敬虔な清教徒だったからだ。
 同性愛に関しては、長年の日本への恋心で何とか乗り越えたらしいが、近親相姦はそう簡単に割り切れるものではないらしい。事実アメリカは、あの夜以降イギリスと酒を飲みに行くことはなくなった。
 これが他国ならば、それも当然のことだと考えたかも知れない。イギリスの酒癖の悪さは有名だし、酔って口にすることと言えばアメリカに関することばかり。とてもではないが、アメリカにとって楽しい酒の席とは到底言えないだろう。素面の状態でさえあの構いっぷりなのに、その上酒が入った時のウザったさなど、推して図るべきだ……と。
 勿論真実は違う。その推測が正しいものだとしたら、アメリカがイギリスとの食事を避けたり、休日にイギリスの屋敷を訪れる回数が目に見えて減った理由にはなりえない。
 このまま全てを無かったことにするつもりなど更々無いイギリスにとって、この徹底したアメリカの避けっぷりは少々予想外ではあった。しかし、アメリカがイギリスを避け続けることなど本来不可能なのだ。
「――甘いな」
 情一つで変えられていなかった携帯の番号を選択し、イギリスは笑う。それは、アメリカが知る筈のない笑みだった。

 太陽が出ている。ただそれだけで、その場は明るく健全な空気に包まれた。アメリカに出会ったばかりの頃、イギリスは思ったものだ。アメリカの瞳は晴天を切り取り、髪は陽光を紡いで創られたに違いないと。それは、『新大陸』にとても良く似合っていた。
「なぁ、アメリカ。俺なら全然構わないんだからな?」
 どれだけ年月が過ぎても変わらない、いつまでも澄んだ瞳を除き込み、イギリスは優しい声で言った。もう随分と前に眼鏡を取り払われてしまったアメリカの瞳が、動揺したように揺れる。
「違う、俺は……」
「一体何を怖がってる? 俺とお前は本来血なんか繋がってないし、俺は男でそもそも人間じゃないんだから、幾らヤったところで子供なんて絶対に出来ない」
「そう言うことじゃ、なくて……」
「――日本の代わりだと、思えば良いだろ」
 その台詞をスラリと口に出来たことに、イギリスは心底安堵した。気付かれては、いけないのだから。
「利用すれば良い。俺もお前を利用する」
 こんなの、ただの性欲処理だろ。
 そう、軽薄に笑って。全然大したことはないのだと、態度で示す。どうか上手く騙されてくれよと、心の中で祈りながら。
「受け止めてやるよ。全部――全部」
 行き場の無い思いを、全て。アメリカが、堪えきれなくなったなら。
 決して、その想いが自分に向けられることはないと分かっていても。
「……イギリス」
 弱弱しく呼ばれた名前だけで、アメリカの中で最後の砦が崩れたのがイギリスには分かった。
 アメリカが、頑なにイギリスを避け続けていた、本当の理由。それは、逃げ道を作りたくなかったから。イギリスに、弱味を見せたくなかったから。
 ずっと一人きりで走って来たアメリカは、今更誰かに対して『甘える』という行為が出来ない。それは恥ずかしいと言うよりは、恐れているようにイギリスには見えた。
 ――優しくされると、弱くなる。守られると、戦えなくなる。
 イギリスは笑った。遠い昔の日のように、アメリカを慈しむような笑顔で。
「ごめん……」
「何謝ってんだよ。セックスはギブ・アンド・テイク。俺にだってちゃんと利益があるんだ、気にすんな」
「でも……っ」
 これ以上躊躇いの言葉を聞きたくなくて唇を塞ぎ、これ以上苦しむ顔を見たくなくて強く目を瞑った。若いアメリカは、確実に快楽に流されてくれるだろう。
「俺なら大丈夫だ」
 千年という年月を生きて来て、数え切れない程の嘘を吐いた。二枚舌外交と、そう揶揄されたことも、それ程遠い過去ではない。
 それでも、イギリスは思う。こんな気持ちは知らなかったと。
 自分の気持ちを偽ることが、自分に嘘を吐くことが、こんなに辛く苦しいものだったなんて。
 けれどイギリスは、この先幾らでも嘘を重ねていくだろう。それがどんなに辛くても。
 ――そうすること以外に、アメリカの心に触れられないというのなら。
作品名:靴に恋した人魚 作家名:yupo