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靴に恋した人魚

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 初めてイギリスがアメリカと体を重ねたのは、世界会議が終わった夜のこと。開催国がイタリアだったこと、そしてアメリカのお目当ての相手がかつての戦友達と先約を交わしていたために、アメリカは簡単にイギリスとの食事を了承した。
 二人だったからボトルを開けることも出来たし、それを取っ掛かりにバーへと足を運ぶことも実に簡単だった。やがて飲み過ぎて宛がわれたホテルに帰ることも困難になる程に酔い、近くに在った安っぽいホテルに入ることにした。本当に、寝ることだけを考えて造られたようなホテル。其処のベッドに腰掛けて、イギリスはアメリカに言ったのだ。残念だったな、折角ホテルに来たのに、その相手が大好きな日本とじゃなくて……と。
 不意打ちだったからか、アルコールが入っていたからか、アメリカの反応は実に顕著だった。驚愕に目を見開き、次いで図星を指された怒りでイギリスを睨み付けさえした。
 単純な奴。イギリスはあまりにも簡単なアメリカの反応に、笑いを堪えることが出来なかった。それが、アメリカの怒りをより一層煽ることも知っていた。
 『日本が欲しいなら、無理矢理手に入れれば良いだろ。それとも、日本に感化されて力の使い方も忘れたのか?』
 見下し、せせら笑う。こんなに面白いことはないと、そうアメリカに見えるように。
 胸倉を掴まれ、ベッドに押し倒され、乱暴に衣服が剥ぎ取られても、イギリスは抵抗なんてしなかった。する必要も無かったし、形ばかりの抵抗など、そもそも出来るはずもなかった。
 ――だって、もしかしたら縋ってしまうかも知れない。
 そんな失敗を犯して、この計画を台無しにしてしまうわけにはいかなかった。だから、あくまでも飄々として、余裕ぶって。そんな勇気はお前には無いだろう、と笑う。
 アメリカが口を開いたのは、そんな、イギリスが必死にシーツを握り締めている時で。

『彼は……日本は、そんな風にして良い相手じゃないんだ』

 酒臭さも忘れるような、静かで悲痛な声だった。まるで血を吐くような。
 泣き出しそうな顔をしているアメリカを、イギリスはただ呆然と見上げた。酔いなんてものは、先程の台詞で一気に醒めてしまっていた。
『君には、一生分からないだろうね、きっと』
 そう言ったアメリカの表情は、悲しみにも、苦しみにも染められていて。
 何が。そうイギリスの口は動いたが、しかし喉は動くことを止めていた。
『日本が俺に良くしてくれるのは、同盟国だからだ。そして、俺が?アメリカ合衆国?だからだ。彼はいつも、会議で俺の意志に賛同する。俺がアポ無しで訊ねて行ったって、無下に扱ったことは一度も無い。――俺が?アメリカ合衆国?だからだ!!』
 乱暴に釦が外されたことで露になったイギリスの胸に、アメリカが顔を埋める。さながら赦しを乞うように。
『言えない……言えるわけがないんだ、日本に好きだなんて。結果なんて分かりきってるっ』
 アメリカの目から涙が溢れて、イギリスの肌を濡らす。其処からじわりじわりと、イギリスの胸に絶望が広がった。
 何という、ことだろう。アメリカの想いが此処まで切なく苦しいものだなんて、イギリスは想像もしなかった。
 体ではなく、心が欲しい。同じ想いを返して欲しい。
 手が出せない程、アメリカが日本を愛していただなんて、イギリスは知らなかった。認めたくなかった。
 ――絶対に。
 だからイギリスはアメリカを臆病者だと小馬鹿にして笑い、単なる性欲をさも尊いものに置き換えるアメリカの卑怯さを罵った。
 独立以来、決して弱味を見せず、対等であろうとした相手からのそんな態度に、アメリカが我慢出来るわけがない。
 それは、酷い行為だった。思い遣りなど一欠片も無く、ただ力を見せ付けるような、そんな行為。結局イギリスは、遂に一度も達することなく気を失った。
 けれど、それでも。
 イギリスは、嬉しかったのだ。
 翌朝目を覚ましたイギリスは、痣が残り、痛みを訴える自らの体を抱き締めて、心からの喜びに浸った。漸く願いが叶ったと。長年夢にまで見たものが、手に入ったのだと。
 ――アメリカが頭を下げる、そんな姿を目にするまでは。
 アメリカは誠実な男だった。己の行為を酒の所為にすることもなく、イギリスを置き去りにすることもなかった。勿論、記憶を失ったフリをすることさえ。
『許せることじゃないだろうし、許されようとも思ってない。でも、俺に償えることがあるなら言って欲しい』
 何でもする。そう口走らないだけの冷静さはあるようで、それがイギリスには残念であり、しかし最も安心したことだった。そんなことを言われたら、一体どんな反応をするのか、イギリス自身想像も出来なかったからだ。
 降って湧いた幸運に喜びを露にしたかも知れないし、馬鹿にするなと激怒したかも知れない。あまりの虚しさに笑い出すことだって十分に考えられた。
 しかし、そうはならなかった。だからイギリスは、冷静に事に対処しなければならなかった。元よりイギリスの望み通りで、だからアメリカが気に病む必要など無いのだと、そんなことを悟られるわけにはいかないのだから。
 そうしてイギリスがアメリカに求めたのは、我ながら無茶としか言えないものだった。アレが欲しい、なんて可愛いらしい要求では到底なかった。『国』の一存で決定出来るものでもなかった。
 アメリカは、一体何処までその誠実さとやらを見せてくれるだろう。どれだけ昨夜の行為を悔やんでいるだろう。
 イギリスにしてみれば、それはとても軽い気持ちで要求したこと。アメリカに受け入れられるだなんて、最初から思っていなかった。
 それなのに、アメリカはイギリスの要求を受け入れた。直ぐには無理だ、少しだけ待ってくれ。そう言って。
 それから一月後、部下が提出した報告書を読んで、イギリスは愕然とした。あの朝アメリカに突き付けた要求が、過不足無く叶えられていた。
 イギリスはその報告書を衝動のままに引き裂き、大声で笑いながら泣いた。
 ――なんて愚かなんだろう!!
 けれどそうして嘲り、罵った相手が、自分自身なのかアメリカなのかは、イギリス自身にも分からなかった。

作品名:靴に恋した人魚 作家名:yupo