ハロー・グッバイ
二人に会うことは出来なかった。それでも明日には戻されるらしい。その頃には、両親にも会えるだろうか。けれどもう、この家に家族全員が揃う日は永遠に来ない。
「アルフレッド……?」
冷えきったリビングのソファに、ちょこんと座る子供が居た。年の頃は、三歳。この子は将来、この日のことを一体どれだけ覚えているのだろうと、思った。
自分と同じ、アルフレッドという名を持つ子供はしかし、此方を全く認識していなかった。整った顔立ち故に、人形と思われても仕方が無い程、その瞳に感情は無い。
エメラルドのような瞳に、星の光を集めたような金髪。……懐かしくないと言えば、嘘になる。けれど兄の髪はこんなに指通りの良さそうなものではなかったし、柳眉と言っても差し障りない眉をしていなかった。これは、兄の妻から受け継いだものだ。
大丈夫。何の根拠も無しに思う。自分はきっと、この子をちゃんと愛することが出来るだろう。真っ当に、家族が家族を愛する愛し方で。
確かにこの子供は兄の忘れ形見だけれど、兄ではない。第一自分は、三歳児の兄など知らないのだ。まだ、自分は生まれていなかったのだから。
「アルフレッド……」
手を、伸ばす。
『聞いてくれアルフレッド、ビッグニュースだ! アリスに子供が出来た!!』
『男の子らしいんだ。だからさ、名前はアルフレッドにしようかと思って。良いだろ? お前みたいな良い子に育って欲しいんだ、俺』
神様。今まで沢山の嘘を吐いて来ました。傷付けたくなくて、傷付きたくなくて。
嘘の上に成り立っていた平穏を、彼は幸せに過ごせたでしょうか? そうであったら良いと思います。最後まで、『弟』を愛し、誇りに思ってくれていたのなら、それだけで。
――だからこれからは、贖罪の時間です。
今まで吐いた嘘の対価に、彼の願いを一つだけ。一つだけ叶えようと思います。これからの人生を、全て使って。
――完璧な、家族を。
彼が望み、思い描いた、しかし叶えられなくなってしまった、夢を。
「初めまして、アルフレッド。俺は君の、新しい家族だ」
そうすることで、彼が天国で笑ってくれると言うのなら。