回想……そして今……
仙界大戦で宝貝生物に寄生されていた崑崙の仙道達が、
スープーパパによって回復してもらい、続々と崑崙山に戻ってきた。
そして、その中には崑崙の教主である元始天尊も混じっていた。
「竜吉公主よ、実に言いにくい事なのじゃが………。」
「そうか、やはりあやつはもう………。」
「すまぬ竜吉公主………全てはわしが二百年前に招いた過ちじゃった………。」
「…………過ぎた事を今更悔いても仕方あるまい…………。」
「………のう、もし王奕が本当に生きておって、わしらに会いに来たらどうする?」
「………今更壊れてしまったあやつに会ったところで何になる。
もう、あの頃の王奕はどこにもおりはせぬよ。私達の心の中にしか………。」
「しかし、本当は心のどこかで期待しておるのだろう?あの頃の王奕がどこかにまだいると。」
「……死んだ者が『もし生きていたら』なんて考えても、空しくなるだけから止めよう。」
回想……そして今……
二百年ほど前……一人の崑崙の道士が私の元によく訪れていた。
「公主!」
彼の名は王奕。元始天尊の一番弟子で、将来崑崙をしょって立つ人物である。
元始天尊の一番弟子というくらいだから、彼には類稀なる才能がある。
そのうち、実力も私や私の異母弟である燃燈を上回る程になるだろう。
そして、彼はだれよりも自分の師である元始天尊を慕っている。
それはいつも彼の側にいる私には良くわかる。
「王奕か、今日は何の用じゃ?」
「ちょっと来いよ。あんたにいい物を見せてやりてーんだ。」
彼はいつも屈託のない笑顔で私に話しかける。
「その手に何を持っておるのじゃ?」
「ほら、梅香だ。あんた欲しがってただろ?」
「…この梅香……何時何処で手に入れたのじゃ……?」
「元始天尊様に玉虚宮へ呼ばれた時さ。
あのジーサンがちょっと目を離した隙にコイツをがめたってわけだよ。」
「おぬし…相変わらず悪ガキじゃのう…。」
「うるせーな、たまには羽目をはずしてーんだよ。」
なんだかんだ言っても、こやつはまだ子どもなのだな。
悪戯好きだが、何かに頼らなければ生きて行けない未熟なコドモ…。
その夜、王奕が夜中に私の元へ会いに来た。
「?どうしたのじゃ王奕。こんな夜中に…?」
「………主…公主…………。」
彼は、赤くてともすれば涙がこぼれてしまいそうな目をしていた。
「……俺…さっきとても嫌な夢を見たんだ………。」
「夢?」
「俺が誰もいない暗くて狭い空間の中に一人ぽつんといて……向こうから妖怪が手招きして来たんだ……。
『ココカラ出シテヤル………オ前ニ力ヲ与エテヤル………』と言って俺を誘惑しながら………。
そして誘いに乗った俺はその妖怪の腕を取ってしまい…俺も妖怪になってしまう……とても怖い夢……。」
声を震わせながら王奕は私に涙のわけを話した。
「心配するでない。誰がおぬしをそんな場所に閉じ込めようか。
それに、仮におぬしが一人になったとしても私がお主を助けに行くよ。」
そう言うと、彼の目に笑顔が戻ってきた。
そして私は王奕の涙を拭いて、彼の部屋まで送っていった。
ある日、崑崙山に二人の客人が訪れた。
「元始天尊!」
「!おぬしは…。」
一人は通天教主、そしてもう一人は王奕とあまり年齢が変わらないくらいの少年だ。
この少年こそ、通天教主の息子・楊ゼンだ。
「おぬしらだけでここへ来たのか!?今、妖怪と人間は不仲だというのに…。」
千五百年ほど前に趙公明が崑崙に乗りこんだ為に、崑崙と金鰲の関係は悪化し、
それ以来双方の交易は途絶えてしまっている。
「…………話がある。」
彼らが崑崙山に訪れたわけは、
金鰲島の幹部であった一人の仙女が崑崙も金鰲も我が物にしようと企んでいるからだ。
これ以上対立が続くと、そこを彼女に付けこまれるのは必至。
だから彼は崑崙と金鰲の間に不可侵条約を結ぶ為に金鰲島からやてきたのだ。
仙人界のトップクラスの者達の間で交わされる密談。
その話し合いには私と王奕も参加した。
そして、何時間もの話し合いの末、崑崙と金鰲の間に不可侵条約は結ばれた。
しかし、その条件とは楊ゼンと王奕を交換する事。
すなわち崑崙と金鰲から一人ずつ生贄を出す事なのだ。
「元始天尊、あなたは何を考えておられる!
あそこは基本的に人間は受け付けられない。
だから王奕があそこでどんな扱いを受ける事になるのかあなたにもわかっているだろう!?」
通天教主が帰った後、私は元始天尊を問い詰めた。
「しかたないのじゃよ、公主。このまま崑崙と金鰲がいがみ合ったままでは当然双方の勢力は当然弱まる。
そして、そこをあの忌まわしき妲己に付けこまれるのがオチじゃ。
だから崑崙の仙道三百人を守るには、これしかないのじゃよ…。」
「三百人の為にたった一人を犠牲にしようとおっしゃるのか!?」
元始天尊は何も答えずに、玉虚宮から去っていった。
私は最後に王奕と会いに行った。翌日が王奕との別れの日なのだから…。
「王奕………。」
「…………。」
王奕は涙で濡れている膝を震わせている。
「………公主、あんた前俺にこんな事を言ったよな?
たとえ俺が一人になったとしても、あんたが俺を迎えに来るって、あんたが俺を救ってくれるって言ったよな!?」
何か言わねばならない。しかし、下手に希望を持たせても王奕が後に受けるショックを大きくしてしまうだけだ。
「……あんたが………俺を…救ってくれるって………。」
私が頭の中で言う言葉を探している間にも、王奕は私の答えを求めている。
前に王奕が怖い夢を見て泣いていた時に、彼を元気付けてあげたあの時の答えを……。
「………おい、答えてくれよ。あの時と同じ事を言ってくれよ!………頼むからさぁ………。」
私には結局何も言うことが出来なかった。
そして翌日。
金鰲島からの使者がやって来た。
籠の中から彼らの棟梁の息子である楊ゼンが降りてきた。
そして入れ替わりに王奕が籠の中に乗る。
見知らぬ者達に自分が本来いるべきでない世界へと連れられて行く王奕。
私は後ろから彼らを見送る事しか出来なかった。
「……………王奕……………。」
私が王奕の事を思い出していた時、一つの凶報が届いた。
金鰲島に乗り込んでいた十人の十二仙のうち、道行天尊を除いた九仙が、聞仲の手によって全滅したとの事なのだ。
そしてその聞仲は今も崑崙山に進行中との事らしい。
この知らせを聞き、何人かの道士達が聞仲を倒しに向かおうとした。
私と元始天尊は彼らを止めたのだが、彼らは聞く耳を持たずに聞仲の元へ攻め入った。
数分後、封神台へ向かうたくさんの数の魂魄が目に映った。
そして、聞仲が玉虚宮に現れた。
聞仲には元始天尊があたり、私は残った道士達をガードすることになった。
殷に三百年仕え、殷を再興させる為に、人道に反する手段でなければどんな事でも行ってきた聞仲。
かたや崑崙の仙道全てを平等に愛し、人間界に新しい歴史の流れを起こそうとする元始天尊。
二人とも人間界を愛する気持ちは同じだが、その愛し方には決定的な違いがある。
そして、その考え方の違いが、この仙界大戦を勃発させたと言ってもあながち間違いではない。
目の前で二つのスーパー宝貝がぶつかりあう仙人界の頂上対決。
スープーパパによって回復してもらい、続々と崑崙山に戻ってきた。
そして、その中には崑崙の教主である元始天尊も混じっていた。
「竜吉公主よ、実に言いにくい事なのじゃが………。」
「そうか、やはりあやつはもう………。」
「すまぬ竜吉公主………全てはわしが二百年前に招いた過ちじゃった………。」
「…………過ぎた事を今更悔いても仕方あるまい…………。」
「………のう、もし王奕が本当に生きておって、わしらに会いに来たらどうする?」
「………今更壊れてしまったあやつに会ったところで何になる。
もう、あの頃の王奕はどこにもおりはせぬよ。私達の心の中にしか………。」
「しかし、本当は心のどこかで期待しておるのだろう?あの頃の王奕がどこかにまだいると。」
「……死んだ者が『もし生きていたら』なんて考えても、空しくなるだけから止めよう。」
回想……そして今……
二百年ほど前……一人の崑崙の道士が私の元によく訪れていた。
「公主!」
彼の名は王奕。元始天尊の一番弟子で、将来崑崙をしょって立つ人物である。
元始天尊の一番弟子というくらいだから、彼には類稀なる才能がある。
そのうち、実力も私や私の異母弟である燃燈を上回る程になるだろう。
そして、彼はだれよりも自分の師である元始天尊を慕っている。
それはいつも彼の側にいる私には良くわかる。
「王奕か、今日は何の用じゃ?」
「ちょっと来いよ。あんたにいい物を見せてやりてーんだ。」
彼はいつも屈託のない笑顔で私に話しかける。
「その手に何を持っておるのじゃ?」
「ほら、梅香だ。あんた欲しがってただろ?」
「…この梅香……何時何処で手に入れたのじゃ……?」
「元始天尊様に玉虚宮へ呼ばれた時さ。
あのジーサンがちょっと目を離した隙にコイツをがめたってわけだよ。」
「おぬし…相変わらず悪ガキじゃのう…。」
「うるせーな、たまには羽目をはずしてーんだよ。」
なんだかんだ言っても、こやつはまだ子どもなのだな。
悪戯好きだが、何かに頼らなければ生きて行けない未熟なコドモ…。
その夜、王奕が夜中に私の元へ会いに来た。
「?どうしたのじゃ王奕。こんな夜中に…?」
「………主…公主…………。」
彼は、赤くてともすれば涙がこぼれてしまいそうな目をしていた。
「……俺…さっきとても嫌な夢を見たんだ………。」
「夢?」
「俺が誰もいない暗くて狭い空間の中に一人ぽつんといて……向こうから妖怪が手招きして来たんだ……。
『ココカラ出シテヤル………オ前ニ力ヲ与エテヤル………』と言って俺を誘惑しながら………。
そして誘いに乗った俺はその妖怪の腕を取ってしまい…俺も妖怪になってしまう……とても怖い夢……。」
声を震わせながら王奕は私に涙のわけを話した。
「心配するでない。誰がおぬしをそんな場所に閉じ込めようか。
それに、仮におぬしが一人になったとしても私がお主を助けに行くよ。」
そう言うと、彼の目に笑顔が戻ってきた。
そして私は王奕の涙を拭いて、彼の部屋まで送っていった。
ある日、崑崙山に二人の客人が訪れた。
「元始天尊!」
「!おぬしは…。」
一人は通天教主、そしてもう一人は王奕とあまり年齢が変わらないくらいの少年だ。
この少年こそ、通天教主の息子・楊ゼンだ。
「おぬしらだけでここへ来たのか!?今、妖怪と人間は不仲だというのに…。」
千五百年ほど前に趙公明が崑崙に乗りこんだ為に、崑崙と金鰲の関係は悪化し、
それ以来双方の交易は途絶えてしまっている。
「…………話がある。」
彼らが崑崙山に訪れたわけは、
金鰲島の幹部であった一人の仙女が崑崙も金鰲も我が物にしようと企んでいるからだ。
これ以上対立が続くと、そこを彼女に付けこまれるのは必至。
だから彼は崑崙と金鰲の間に不可侵条約を結ぶ為に金鰲島からやてきたのだ。
仙人界のトップクラスの者達の間で交わされる密談。
その話し合いには私と王奕も参加した。
そして、何時間もの話し合いの末、崑崙と金鰲の間に不可侵条約は結ばれた。
しかし、その条件とは楊ゼンと王奕を交換する事。
すなわち崑崙と金鰲から一人ずつ生贄を出す事なのだ。
「元始天尊、あなたは何を考えておられる!
あそこは基本的に人間は受け付けられない。
だから王奕があそこでどんな扱いを受ける事になるのかあなたにもわかっているだろう!?」
通天教主が帰った後、私は元始天尊を問い詰めた。
「しかたないのじゃよ、公主。このまま崑崙と金鰲がいがみ合ったままでは当然双方の勢力は当然弱まる。
そして、そこをあの忌まわしき妲己に付けこまれるのがオチじゃ。
だから崑崙の仙道三百人を守るには、これしかないのじゃよ…。」
「三百人の為にたった一人を犠牲にしようとおっしゃるのか!?」
元始天尊は何も答えずに、玉虚宮から去っていった。
私は最後に王奕と会いに行った。翌日が王奕との別れの日なのだから…。
「王奕………。」
「…………。」
王奕は涙で濡れている膝を震わせている。
「………公主、あんた前俺にこんな事を言ったよな?
たとえ俺が一人になったとしても、あんたが俺を迎えに来るって、あんたが俺を救ってくれるって言ったよな!?」
何か言わねばならない。しかし、下手に希望を持たせても王奕が後に受けるショックを大きくしてしまうだけだ。
「……あんたが………俺を…救ってくれるって………。」
私が頭の中で言う言葉を探している間にも、王奕は私の答えを求めている。
前に王奕が怖い夢を見て泣いていた時に、彼を元気付けてあげたあの時の答えを……。
「………おい、答えてくれよ。あの時と同じ事を言ってくれよ!………頼むからさぁ………。」
私には結局何も言うことが出来なかった。
そして翌日。
金鰲島からの使者がやって来た。
籠の中から彼らの棟梁の息子である楊ゼンが降りてきた。
そして入れ替わりに王奕が籠の中に乗る。
見知らぬ者達に自分が本来いるべきでない世界へと連れられて行く王奕。
私は後ろから彼らを見送る事しか出来なかった。
「……………王奕……………。」
私が王奕の事を思い出していた時、一つの凶報が届いた。
金鰲島に乗り込んでいた十人の十二仙のうち、道行天尊を除いた九仙が、聞仲の手によって全滅したとの事なのだ。
そしてその聞仲は今も崑崙山に進行中との事らしい。
この知らせを聞き、何人かの道士達が聞仲を倒しに向かおうとした。
私と元始天尊は彼らを止めたのだが、彼らは聞く耳を持たずに聞仲の元へ攻め入った。
数分後、封神台へ向かうたくさんの数の魂魄が目に映った。
そして、聞仲が玉虚宮に現れた。
聞仲には元始天尊があたり、私は残った道士達をガードすることになった。
殷に三百年仕え、殷を再興させる為に、人道に反する手段でなければどんな事でも行ってきた聞仲。
かたや崑崙の仙道全てを平等に愛し、人間界に新しい歴史の流れを起こそうとする元始天尊。
二人とも人間界を愛する気持ちは同じだが、その愛し方には決定的な違いがある。
そして、その考え方の違いが、この仙界大戦を勃発させたと言ってもあながち間違いではない。
目の前で二つのスーパー宝貝がぶつかりあう仙人界の頂上対決。
作品名:回想……そして今…… 作家名:さとし