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誰にも見せた事のない貴方の泣き顔がとても痛かった

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「……全く、なんで武田の忍を拾ってくるのじゃ! そいつは敵なのじゃよ。しかも綺麗に手当てまでして、のぉ…」
 酷く重たい頭を持ち上げれば、小柄な老人がけたたましく抗議していた。ざっと聞くだけでも原因が自分だと明らかで、逃げだそうとするのだが、逃げられる程に体力が回復していなかった。
「(寝てろ、ばか)」
 室内だからか鈍色の兜は脱いでいるが、ざっくばらんに切られた前髪からは瞳を見ることは出来なかった。昔、やっきになって見ようとしたなぁと懐かしい事を考えていた。
「なぁ、風魔。……真田の旦那に連絡いれさせてくれない?」
「(もう、した)」
 指で外を示されたので、窓に近付けば赤揃えの衣装が見えた。あぁ旦那だと思っていれば、こちらに気付いたのだろう、大音量で俺の名前を呼んでいた。
「あれがお主の上司なのか? 煩い奴じゃわい。外で叫ばれてもあれだから、風魔あやつを中に入れてやれ」
 北条がそうぼやけば、風魔は承知したといったように窓から飛び降りていった。さすが伝説の忍である。
「のう、武田の忍」
「……なに?」
「風魔はお主の事が好きなのか?」
 拾ってきたのが不思議だったようで、首を傾げられた。
「……さぁ、そうだったらいいんだけどね。あ、旦那だ」
 足音が聞こえたので振り返れば、襖を開け放った旦那が涙目ですり寄ってきた。煩いのが来たと北条は逃げるように部屋を後にするのを音で感じた。
「佐助、佐助……! 俺がどれだけ探したかわかっているか!? ううぅ……」
 泣いている所為か濁声をした旦那に対して、風魔が冷ややかな視線を送っているのに気付けば悟らせようと胸板を押したのだが効きやしなかった。
 べりっと風魔が引き離してくれたと思えば、俺に見えないのだがなにやら旦那に喋っているようで、大きな焦げ茶色の瞳を輝かせて聞き入っていた。
「ちょっと、ちょっと。俺様ほっといてなんの話をしているんだよ!」
「俺と風魔殿で、秘密の話をしてただけだから佐助は気にする事でないぞ」
ね、と旦那は風魔に対して首を傾げれば風魔も頷いていた。
「俺も混ぜてくれよ、風魔」
「(いや)」
 首を横に振られてしまって、なんだか独りぼっちになった気分を味わっていれば、旦那が俺の肩を叩いてくれた。
「はぁ……まぁ、いいや。旦那、帰ろう」
「(お前、歩けないだろう)」
 立ち上がる手前で風魔に釘を刺されて、うっと唸れば旦那が涙一杯の眼をしてきた。
「どうすればいいであるか?」
「(佐助は、俺が、運ぶ)」
「なら安心だな佐助!」
 それを肯定と受け取ったのか風魔は俺をひょいと持ち上げた。腕は背と膝裏に回されてしまい、この光景はもしや。
「姫抱きはやめて、風魔!」
「(怪我したお前が悪いんだ、ばか)」
 そう言われてしまうと抵抗する気さえ起きなくて、なるようになればいいと風魔へもたれ掛かってやった。