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KM

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 正直、風邪を引いたのは自業自得だと思う。
 寝室の扉を開けたとたん広がった冷気の渦に、久保田はずれてもいない眼鏡を押し上げた。




 真夏の暑いさなか出かけたコンビニで、久保田は愛飲しているポカリを何となく5本カゴに入れた。すべて500ミリリットルのペットボトルだ。それだけ買うなら2リットルの物を一本買えばよさそうなものだが、コップに注いで飲むポカリは味が薄れる気がする。
 それにしても買いすぎだ、と時任に笑われそうだなとぼんやり思った。今日は特に気温の高い日だから、再度買いに出るのが面倒だと思ったせいかもしれない。


 マンションに戻り玄関に入ると、外の蒸した空気が遮断されるだけで大分暑さが薄らぐ。そのままリビングへ向かおうとした久保田の足に、ふとヒヤリとした空気が触れた。ほんの一瞬のそれは寝室の扉の隙間から漏れており、そういえば今日は時任がまだ起きてこないという事実に思い至る。
 思い切って扉を開けるとそこには、クーラーの冷気に包まれ震えながら眠っている愛猫の姿があった。無意識に毛布を探して手がぱたぱたと動いている。けれど自分で蹴ったのだろう、薄いタオルケットは部屋の隅までとばされていた。
 昨夜は、時任は久保田より先に休んだはずだ。久保田はゲームをしている内にソファで眠ってしまったので寝室は一度も開けていない。もしかするとずっとこの温度設定でクーラーがついていたのだろうか。
 毛布と同様に床に落ちていたリモコンを拾い上げ、スイッチをオフにする。傍らで時任がうなり声を上げ、次いでゴホゴホと乾いた咳を連発した。
「時任、起きて」
「あー、ぐぼぢゃ……喉いてえ」
「風邪ひいたみたいね」
「……マジかよ」
 時任は上半身を起こすと、左手でそっと喉を押さえる。久保田はその手を掴んで喉から外させた。
「炎症起こしてると思う抑えない方がいいよ」
「すげーいてえ。久保ちゃん何とかしろ」
「んー、俺にも出来ることと出来ないことがあるかなあ」
 とにかく寝てなさい、とベッドに追い立てる。落ちていたタオルケットを拾い上げ掛けてやると、彼はブルリと身体を震わせた。
 咳き込む時任にコンビニの袋からポカリを取り出して渡す。点滴代わりと異名を取るスポーツ飲料なので、買っておいて正解だった。あとは何をすればいいだろうか。風邪といえば、桃缶……ではなく熱か。額を合わせる。
「あ、やっぱ熱出てるねえ」
「だっせえ……」
「これにこりたらクーラーつけっぱはやめときな。寝てるとこに長時間風当てられて死んだ人もいたみたいだし」
「……はあ!? なんじゃそりゃ。ホントの話?」
「どうだろ。都市伝説かもね」
 久保田は笑いながら冷蔵庫の中身を思い出していた。米はあったからおかゆは作れる気がする。時任の咳き込み方はずいぶん激しいものだし、あまり刺激の強いものを与えると吐くかもしれない。一昨日のカレーは冷蔵庫にしまってあったが、諦めることにしよう。
「時任、おかゆ作ってくるけどいま食べられそ?」
「おかゆぅ!? んな食い応えないもんヤダよ。モスチキンかケンタがいい!」
「なんで今日はおまえ鶏気分なのよ」
「なんでもいいだろ! モスやっぱやめる。ケンタな」
 喉の痛みを抑えぎゃあぎゃあ騒ぐ時任に、仕方がないなと久保田は折れた。吐いたら吐いたで、掃除をすればいいだけのことだ。
 じゃあ買ってくるから、と部屋を出ようとしたとき、時任が勢いよく顔を上げた。
「なに?」
「ケンタどこにあったっけ」
「んーと。一番近いのは駅ひとつ行ったとこかな」
「………………やっぱおかゆでいい」
 ベッドの上で時任は壁側に顔をそむけ、ぽつりとつぶやいた。久保田は目を眇めてその様子を見る。
「お前が前言撤回するなんて珍しいねえ」
「うっせ。いいから久保ちゃんは大人しく家でおかゆ作ってろ」
「ほーい」
 顔が若干赤らんでいるのは熱のせいではないのだろう。ばさりと毛布を被って丸まってしまった時任の背を、久保田はぽんぽんと二回叩いて部屋を後にした。
作品名:KM 作家名:せんり