偽虜囚
「行け!!」
次々と迫る刃をひたすらに支えながら、背後に向かって叫んだ。
「でも……!」
「馬鹿野郎!! ここでお前が死んだら、何もかも水の泡だろうが!! リオン、カイル! そいつさっさと連れてけ!!」
斬りかかってくる敵の剣を三節棍で叩き落し、さらに横から来る敵を蹴り倒す。だが、そんなことをしていても、次から次に敵は尽きることなく襲い掛かってきて、それに反比例してあちこちで味方の断末魔が増えていく。
ロイ自身、あとどれくらい支えられるか、わからない。それなのに、一番守られなければいけない相手は、未だにぐずぐずとそこに粘っていた。
「今なら間に合います、王子! ここはロイ君に任せて味方との合流を!」
「でも、そしたらロイが……!」
「いいから行けつってんだろうが!」
ロイがファルーシュを突き飛ばす。その途端に、できた隙間に敵と味方の兵士達ががなだれ込んできて、ファルーシュたちとロイの間が隔たった。
雑兵の山の向こうに、カイルとリオンに引きずられるようにして消えていくファルーシュの姿に満足そうにロイは笑みを浮かべ、そして、一つ深く息を吸い込んだ。
「ファルーシュ・ファレナスここにあり!!」
声高にのたまい、毅然として立つ。
むしろ、そのときはもはや立っていることしかできなかったのだ。
だが、その姿に後れを取った兵士達が、ぐるりとロイの周りを囲む。その顔一つ一つには、先ほどの声で我に返った兵士達の、王子に対して刃を向けていいものかという戸惑いの表情がありありと浮かんでいた。
ロイは静かな眼差しでそれらを見渡しながら、その裏でひそかに息を呑む。ここで一歩間違えればたちまちファルーシュが敵にかこまれ、すべてが終わり。しかし、そうでなくてもきっとロイの命数はここで尽きるのだろう。
だが、それでもファルーシュが味方と合流し、すぐさまソルファレナの市街に攻め上れば。自分の覚悟は報われるはずだ。ファルーシュを守りきって、あいつの志す未来を作る手助けとなるなら。
ああでも、せめてソルファレナの街並は一目でいいからいっぺん見てみたかったなぁと、場違いにも程があるにも関わらず、頭の中をよぎっていく。
そんな自分ののんきな頭に一人苦笑しながら、改めて覚悟を決めて前に視線を定めた。
そのときに。
「ギ、ギゼル様のところへ連れて行け……!」
誰かが叫んだ。この期に及んでまだ生かされるのかと、拍子抜けしてまたロイは笑った。いっそ、その場で首を落とされていたなら。すぐ後にそう、ロイは振り返ることになることを、彼はまだ知らない。
それから一刻も二刻も過ぎても、ファルーシュの軍は動かなかった。攻め込むには絶好の好機。のはずだった。
次々と迫る刃をひたすらに支えながら、背後に向かって叫んだ。
「でも……!」
「馬鹿野郎!! ここでお前が死んだら、何もかも水の泡だろうが!! リオン、カイル! そいつさっさと連れてけ!!」
斬りかかってくる敵の剣を三節棍で叩き落し、さらに横から来る敵を蹴り倒す。だが、そんなことをしていても、次から次に敵は尽きることなく襲い掛かってきて、それに反比例してあちこちで味方の断末魔が増えていく。
ロイ自身、あとどれくらい支えられるか、わからない。それなのに、一番守られなければいけない相手は、未だにぐずぐずとそこに粘っていた。
「今なら間に合います、王子! ここはロイ君に任せて味方との合流を!」
「でも、そしたらロイが……!」
「いいから行けつってんだろうが!」
ロイがファルーシュを突き飛ばす。その途端に、できた隙間に敵と味方の兵士達ががなだれ込んできて、ファルーシュたちとロイの間が隔たった。
雑兵の山の向こうに、カイルとリオンに引きずられるようにして消えていくファルーシュの姿に満足そうにロイは笑みを浮かべ、そして、一つ深く息を吸い込んだ。
「ファルーシュ・ファレナスここにあり!!」
声高にのたまい、毅然として立つ。
むしろ、そのときはもはや立っていることしかできなかったのだ。
だが、その姿に後れを取った兵士達が、ぐるりとロイの周りを囲む。その顔一つ一つには、先ほどの声で我に返った兵士達の、王子に対して刃を向けていいものかという戸惑いの表情がありありと浮かんでいた。
ロイは静かな眼差しでそれらを見渡しながら、その裏でひそかに息を呑む。ここで一歩間違えればたちまちファルーシュが敵にかこまれ、すべてが終わり。しかし、そうでなくてもきっとロイの命数はここで尽きるのだろう。
だが、それでもファルーシュが味方と合流し、すぐさまソルファレナの市街に攻め上れば。自分の覚悟は報われるはずだ。ファルーシュを守りきって、あいつの志す未来を作る手助けとなるなら。
ああでも、せめてソルファレナの街並は一目でいいからいっぺん見てみたかったなぁと、場違いにも程があるにも関わらず、頭の中をよぎっていく。
そんな自分ののんきな頭に一人苦笑しながら、改めて覚悟を決めて前に視線を定めた。
そのときに。
「ギ、ギゼル様のところへ連れて行け……!」
誰かが叫んだ。この期に及んでまだ生かされるのかと、拍子抜けしてまたロイは笑った。いっそ、その場で首を落とされていたなら。すぐ後にそう、ロイは振り返ることになることを、彼はまだ知らない。
それから一刻も二刻も過ぎても、ファルーシュの軍は動かなかった。攻め込むには絶好の好機。のはずだった。