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雪の溶ける音

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伊達殿との二度目の再会から、三月が経とうとしていた。
 その間、伊達殿はまめにも俺のところに文を寄越してきた。内容はと言えば、日々の他愛もないことで、木々が紅く染まり始めたとか、初雪が降ったとか、そういうことだった。
 返事を求められていたわけではないと思ったが、一応、こちらの様子をしたためた文とともに、土地の物を数品、献上した。
 そのことに対して、またお礼の文が返ってくるため、それにまた返事をし、ということを繰り返しているために、気づいたら伊達殿からの文が箱一杯に溜まっていた。
 あの時、俺に言った『惚れてしまった』ということについては一切触れておらず、結局、本気だったのかどうかはわからずにいた。
 正月もすみ、頬に当たる風が肌を切り裂きそうなぐらい冷え込んでいるころ、また、伊達殿から文が届いた。

「アニキ、伊達殿からですぜ」
「……わかった……。墨と筆を用意しろ」

 文を受け取って、端から目を通す。今回の用件は、正月のお祝いをするというので、伊達殿の屋敷まで来るようにというお誘いだった。
 お誘いとはいえ、俺より身分が上の伊達殿の誘いを断れるわけがない。
 文が届いてから七日ほど後に着くようにと書かれてあったので、早速返事を書いた。
 丁寧なことに、屋敷近くの港の場所も書かれてあったため、船で向かうと言うこと、港から屋敷までの道案内をしてくれる人を一人欲しいということ、海の状況によっては、数日遅れる可能性があることを書き添えておいた。



「申し訳ありません、片倉殿」

 迎えに来ていただいた片倉殿に頭を下げる。
 天候は不安定だったが、期日当日に船を寄せることができた。
 船から下りてみると、一面白く塗られたような世界になっていて、俺が今まで見たことのない景色だった。

「片倉殿がわざわざお越し下さるとは思っておりませんでした」
「政宗様は長曾我部様のお迎えに使いの物などやれるかと言って、自ら行こうとなさるのを無理やり宥めたのです。それより、政宗様のわがままにお付き合い下さり、ありがたく存じます」
「わがままだとは思うておりません。ただ、伊達殿は何を思い私のようなものを…」
「夕べから今朝まで降っておりましたので、積もってしまいました」

 片倉殿は俺の問いをはぐらかすように、辺り一面の雪景色について説明を述べた。片倉殿でも伊達殿の気持ちが読みきれずにいるのか、もしくはわかっているのにあえて言わないのか。

「足元が悪くなっておりますので、お気をつけ下さいますよう」

 俺は頷いて、片倉殿の後をついて行った。
 雪の中を歩く感覚も俺にとっては初めてのことで、きゅっ、きゅっという音が心地よかった。

「長曾我部殿は、雪は初めてでございますか?」

 雪を踏みしめる音に心奪われていた俺は、片倉殿の声にすぐに返事ができなかった。

「え、あ、あの…」
「西海の方では雪は降らないのですか?」
「雪が降らないということはないのですが…」

 こんなに真白になり、張り詰めたような空気に包まれることはない。まるで音のない世界のようだった。目を閉じれば、自分以外何も無い錯覚に陥ってしまいそうだった。

「では、長曾我部殿は雪だるまを作ったこともないのですね?」
「作ったことはありません。あ、片倉殿…」
「何でございますか?」
「長曾我部は言い難いと思われます。元親でかまいません」

 伊達殿は苗字が長いと文句を言って、すでに長曾我部とは呼んでくれていない。元親と呼び捨てならまだしも、「チカちゃん」である。

「いえ。政宗様のお客様である方を、お名前でお呼びすることなどできません」
「そうお気になさらず。お好きに呼んでいただいてかまいません」
「政宗様がご立腹なさるので」

 片倉殿はそう言って軽く笑った。
 やはり、片倉殿は伊達殿から知らされているに違いない。
 伊達殿が俺のことをどう思っているのか。

「屋敷が見えてまいりました。あと少しでございます。足の方は大丈夫でございますか?」
「…大丈夫です。お心遣い傷み入ります」

 と言ったものの、足先の感覚はもうほとんど無い。
 初めての積雪で歩き慣れていないのに、その雪の上をしばらく歩いていたのだから、悴んでしまっている。伊達殿はこんな中で毎日生活を送っているから、人を気遣うのに長けているのだろうか。
 その後は黙ったまま片倉殿着いていき、屋敷の門をくぐった。
 政宗様はきっと庭に、と片倉殿は言い、屋敷の脇の方へ歩みを進めた。かすかに聞こえてきた笑い声がだんだん近くなってくる。

「政宗様。お連れしました」

 頭を下げる片倉殿の後ろで、俺も深く頭を下げた。
 どんな表情で伊達殿と顔を合わせたらいいのかわからなかったのと、最初の一言として何を申し上げればいいのかわからなかったからである。

「チカちゃん!」

 と俺の名前を呼ぶ声に続いて、雪の上を軽やかに駆ける足音がする。雪に慣れている証拠だ。

「ひっさしぶりだなぁ!」

 伊達殿は俺がどういう思いでいたのかおかまいなしで、抱きついてきた。
作品名:雪の溶ける音 作家名:藤沢 尊