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雪の溶ける音

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「……しばらくぶりで……」

 ございました、と言い終える間もなく、伊達殿は俺の手を引いて、屋敷の縁側へと導いていく。

「幸村、チカちゃんが来たぜ!」

 幸村? 幸村と言えば、真田殿のことだろうか?
 伊達殿と刀を合わせる前に、戦った御仁だ。真田殿より、伊達殿の名前を伺ったのだ。

「おお! 長曾我部殿ではござらぬか! いやあ、またお会いすることがあろうとは!」

 真田殿は、人懐っこい笑顔を見せて、俺に近づいてきた。

「…その節は失礼を。武田殿の方へも一度ご挨拶に参らねばと思っていた次第……」
「い、いえ。これはご丁寧に……」

 真田殿はちょっと困ったように頭を下げている。
 きっと、以前の俺を思い出しているのだろう。思い出して比較されるのは全然問題ではない。以前の俺も俺であるし、今の俺も俺なのである。
 ただ、そう思っているのは俺だけであって、真田殿は別人のように感じておられるのかもしれない。
 しかも、今日は正月のお祝いと伺っていたものだから、正装なのである。だから余計に以前とは違う印象をうけておられるのかもしれない。

「寒いし、そろそろ中に入るか?」

 伊達殿の言葉に、真田殿は同意を示した。
 そういえば、俺は屋敷の中に通されずに縁側の方に通された。ここで真田殿と挨拶を交わしたということは、真田殿は元々外にいたということになる。

「長い間、外におられたのですか?」
「いえいえ。少しの間ではないかと。あの雪だるまを作るぐらいの時間ですな」

 真田殿は庭の隅を指差した。そこには丸い雪の塊が積み上げられていた。顔のような細工もされている。高さは自分の肩ぐらいあると思われる。

「目とか鼻は墨を使って作ってるんだぜ」
「なるほど……」

 伊達殿の言葉に頷き、俺は雪だるまへと近づいた。周りをぐるりと回ってみたり、軽く触れてみたりしてみた。
 思ったより丈夫に出来ているらしく、少し触れたぐらいではびくともしなかった。

「チカちゃん! いい加減にしないと、風邪引くぜ!」
「申し訳ございません。すぐ参ります」



 部屋の中は火鉢により暖められていて、勧められた座布団に腰を下ろすと、何だかほっとした。
 通された部屋は屋敷の中でも狭い方の部屋だそうで、あえて、その狭い部屋にしたそうだ。広い部屋だと部屋の中がなかなか暖まらないという理由だからだそうだ。
 そして、正月の祝いと言う割には、呼ばれている人数が少ない。
 真田殿と俺だけではないだろうか。

「わざわざ呼び出して悪いな。せっかくの正月だし、みんなで飲もうかと思ってな」
「文には、大勢の武将方を呼んでいらっしゃるように書かれていたように思われますが?」
「そうなのでござるか? 某に届いた文には長曾我部殿と飲む、というような内容だったはず…。政宗殿、どうしてそのような?」

 伊達殿は簡単なことだと言って、俺に視線をうつした。

「チカちゃんのため。チカちゃんにはそう書かないと来ないだろ?」

 俺は曖昧に「はぁ」と返した。
 確かに「飲もう」というだけの文であったならば俺はきっとここに来ていない。他に真田殿が呼ばれていたとしても、それが文から読み取れないのであれば、俺は間違いなく断っていた。

「ま、その話はいいじゃねぇか。さぁ、飲もうぜ」

 伊達殿は俺の返事を意に介したわけでもなく、自分の盃に手酌で酒を注いだ。

「ああ、伊達殿! 手酌は出世しないとの噂…」
 真田殿が伊達殿の飲み方に気づいて、手酌を止めさせようとしている。誰かに仕えている人ならではの気配りに思えた。

「ああ? そんな噂、関係ねぇ。こんなことぐらいで出世できなくなるわけないだろうが。さ、お前も飲め!」

 真田殿に対してこの口の聞きよう、伊達殿は真田殿より身分が上ということなのか、単に真田殿に一目置かれる存在になっているというだけなのだろうか。
 自分の情報網をもっと広げておくべきだったと、少し後悔の念が押し寄せる。

「ところで、チカちゃん!」

 急に自分の名前を呼ばれて、俺は「はい!」と返事をして、姿勢を正した。
 その姿がおかしかったのか、伊達殿は苦笑しつつ、手を振った。

「改まらなくていいって。気になってたんだけどよ、チカちゃんが大事そうに持ってきたそれ、一体何だ?」

 伊達殿は俺の横に置いてあった、蒼い袋に包まれたものを指差した。
 自分の屋敷から持ってきて、ここに来るまで誰にも触れさせなかったもの。部下にも触れさせなかったし、荷物を持ちましょう、と気を遣っていただいた片倉殿のお気持ちさえも断ったぐらいだ。

「これでございますか…?」

 俺は蒼い袋を持ち上げると、そっと伊達殿の前に差し出した。

「あの時、私が伊達殿より奪いとった宝でございます」
作品名:雪の溶ける音 作家名:藤沢 尊