憧れの存在
俺が知る兄さんは優しくて、格好よくて、厳しく、そしてとても強かった。
何時も戦争に勝って帰ってくる兄さんが誇らしかった。
自分と同じ髪と瞳だったから余計嬉しくて、何でも真似をしようとした。
少しでも兄さんの隣に立てるよう厳しい訓練も進んで受けた。
兄さんは仕事で留守にしていることか多かったが、帰ってきた時は俺に甘くもあったが、とても厳しい訓練をつけてくれることもあった。
あの厳しさは凄かった。スパルタ。飴と鞭の差が激しかった。
それでも俺は乗りきった。何より兄さんが誉めてくれるのが嬉しかったからだ。
俺が兄さんに連れられ初めて戦場に行った時、とても興奮したのを覚えている。それと同時に兄さんの本性も、怖さも知った。
とても怖かったが、それが兄なのだと理解した。
血の臭いと硝煙の臭い。
俺がいる戦場から離れた位置にまで風に運ばれてきた臭いに吐き気がして思わず口許を手で覆ってしまった。
「大丈夫ですか?」
「……大丈夫だ」
近くにいた、俺を守るための騎士が訊いてきた。本当は兄さんと共に戦いたかったがまだ早い、と言われてしまった。悔しいが今この場に来て納得してしまった。
そんなことより俺は、戦場で先陣を斬って駆ける兄を見たかった。
やはり兄さんはとても強かった。
最早戦場は敵味方の区別がつきにくいほど入り乱れていた。だから当然背後からの死角を突いた攻撃もあった。なのに兄さんはそれを軽々とかわし、敵を地面に、血の海へとほふっていった。本気で背中に目が付いているのかと思った。
「ルッツ、大丈夫か」
「兄さん……大丈夫だ」
「そうか」
会話が続かない。何時もはこんなことはない。
兄さんには時々表情がなかった。戦況を見極めるとき。
まるで知らないヒトみたいだ。
それと兄さんはここではよく笑っていた。何時もの笑顔じゃなくて、言葉では表しにくい……、愉しんだ笑い。口許と目を歪めてにやりと笑ってる。
周りは血の臭いと硝煙の臭いとで俺は吐き気がしてなら無いのに、兄さんはこれに満足しているようだった。
突如、茂みが揺れた。俺のいた位置から遠く離れた位置だったが、敵が侵入してきたことは解った。
敵は俺と兄さんのいる方へ突撃してきた。兄さんは逃げろ、と言ってきたが出来なかった。