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CherieRose ...1

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 準備を終えて、さあ行きましょうか……と声を掛けようとした時だった。耳慣れない声がしたのは。
「お、いたいた。アルお前、何やってんだよ――って本当に何してんだお前!?」
「どうしているんだい、君は……」
「いやーいきなりお前が走り出すからさ。気になって追い掛けたくもなるだろー?」
 深く溜息を吐く彼と、突然の闖入者を見比べる。一体二人は、どんな繋がりがあるのだろう。少なくとも今までは、こんな人は見たことがない。
「あの……この方は?」
「ギルベルト・バイルシュミットだよ。高等部の三年。フランシスから聞いたことないかい?」
「いえ、あの人とは有益な会話なんて殆どしませんから」
 もしかしたら名前くらいは何度も出たのかも知れないが、此方が覚えようとしなければ頭に残る筈も無い。
「あーでも丁度良かった。悪いけどギルベルト、君、ちょっと彼女を頼まれてくれないかい?」
「……お前、本当に何があったんだ? 彼奴の耳に入ったらただじゃ済まねぇぞ」
「俺は何もしてないぞ、こっちのキクもね。彼女がそれを証明してくれると思うけど、そこは上手くバッシュに伝えといてくれよ。あんまり事を大きくしたくないからさ」
「まぁ……お前の頼みなら良いけどよー」
「本当かい!? 君って良い奴だなっ」
 その一言で途端に気を良くしたらしいバイルシュミットさんとやらは、やけに恭しくクラリスさんを受け取って保健室に向かってくれた。本当に、人を使うのが上手い人だと感心する。彼こそ、人の上に立つべき人なのだと、そう思わせるくらいに。
「…………あなたが今、こんなことをしているのは、あの人の為なのでしょう?」
「うん。……勿論、それだけじゃないけどね」
「でもあなたは、それを伝えようとはしないのですね」
 言葉にして、伝えようとは。それだけで救われることだって、あるだろうに。
「伝えたところで何も変わらない。俺の願いはたった一つだし、それを叶えるにはこの状況がベストなんだよ」
 その結果、あの人を泣かせることになってもですか……なんて質問は、無粋なだけだろう。彼は全て分かった上で、この道を選択したに違いないのだから。
 それにしても……もどかしくて、不器用で、でも一生懸命で。なんて甘酸っぱいんだろう。フランシスさんの作る苺のタルトのようだ。惜しむらくは、これがノンフィクションだということ。これが小説ならば、きっと二人の結末は、違っていた筈だろうから。
作品名:CherieRose ...1 作家名:yupo