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A sunshiny shower

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「……寒いのかい?」

 雨音に混じって届いた小さな声に、刹那は隣りの男をゆうるりと見上げた。
 外見を裏切って幼く高い声の持ち主は、マイスター仲間であるアレルヤ・ハプティズムだ。二人は今、買い出しの最中雨に降られ、シャッターの閉まった店の軒下で雨宿りをしているところだった。
 11月の雨は思いがけず冷たい。冷気を伴って降りそそぐそれは、刹那の吐く息を次々と白いものに変えていく。素手に抱えた荷の重さが、足元を小刻みに揺らした。
 おそらくそれを見咎められたのだろう。心配そうな瞳がこちらをじっと見下ろしている。
 晒されている瞳は片方だけだが、左目ひとつで充分にその心情が察せられた。気遣うように揺れるアッシュグレイが煩わしい。
 どんな形であれ他人から関心を持たれることを好まない刹那は、ぎこちなく視線を外した。
「――問題ない」
 きちんと否定をしておかないと、彼はいつまでも刹那を見つめ続けるかもしれない。そのことに気が付いてぶっきらぼうに返す。
 実際、生命を脅かすような冷気を幾度も休験した身には、この程度の冷えは何でもない。それは彼も同じだろうと思う。過去を尋ねたことはないが、アレルヤには己と似た気配を感じることがある。
 だからこうして一方的に心配されるのは、彼が自分を子供扱いしている証拠なのだ。初対面の際の会話が脳裡に甦る。悪気はないのだと今では分かるから、かえって質が悪かった。
 だいたい寒いと本音を言ったところで事態が好転するわけではない。自分たちに出来るのは雨が止むのをただじっと待つことくらいだ。
 何故こんな状況に陥ってしまったのだろう。刹那はアレルヤに気付かれないように、こっそりと溜息を飲み込んだ。







 スメラギからマイスター4人での買い出しミッションが提示されたのは、一昨日のブリーフィングでのことだった。
 チームワークを育てるためのミッションと言われ、ティエリアが真向から噛みつく。必要ない、の一言でブリーフィングルームを退出しようとした彼は、いつも以上に冷たい目付きをしていた。
 確かにヴェーダの絡まないこんな馬鹿げたプランではその態度も無理はないだろう。リーダーであるロックオンに執り成されてどうにかその場に留まったが、それでも全身で不満を表していて、まるで毛を逆立てた猫のようだった。
 刹那は内心ティエリアに賛成だった。けれどわざわざ口に出したりはしない。それが命令であるなら素直に従う。けれど、マイスター達のコミュニケーション不足を嘆くより、ガンダムでのシミュレーションを増やした方がよほど建設的だとは思っていた。
 結局ティエリアは、スメラギとロックオンという口の上手い二人に押し切られた。
 アレルヤは黙って事態を見守っていたが、ティエリアが落ちたところで笑って了承を示した。彼がスメラギに逆らう場面は見たことがない。それだけ信頼しているということだろう。
 刹那も最後におまけのように意見を求められ、仕方がなく頷いた。
 幸いチーム編成は、食料品担当のティエリア・ロックオン組、それ以外担当の刹那・アレルヤ組に別れていた。スメラギが懸念しているのは主に刹那とティエリアの関係なのだろうが、このプランで早々に改善されることを望んでいるわけではないようだ。
 CBに参加して以来刹那の世話係はロックオンと決まっていたから、アレルヤと二人きりで行動するのはほとんど初めてと言ってよかった。相手は大人しく、取り立てて問題を起すような人物にも思えない。誰と組もうと態度を変えるつもりはないが、少し安堵したことも事実だった。
 そしてそれを証明するように、アレルヤとの買い出しミッションは迅速かつ正確に進行した。お互い余計な会話を挟むこともなく、リストにあるものを手際よく購入していく。ロックオンのようにあれこれとお節介を焼かれるより余程快適だと刹那は思う。
 だから、雨さえ降らなければ自分たちのミッションは予定時間よりずっと早く終了することができたはずだった。
作品名:A sunshiny shower 作家名:せんり