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As you wish / ACT5

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ACT5~君の、仰せのままに。~




「どういうことです」


冴え冴えとした瞳が、まっすぐに臨也を射抜く。
この、心を突き刺すような鋭さ。冷たさを感じるほど饒舌な視線。まっすぐに向かい合って座っているこの少年の、この華やかな冷徹ほど臨也の好きな表情はない。
背筋をゾクゾクと駆け巡る、叫びだしたいほどの愛おしさが臨也の口元を自然と緩めた。この少年を美しいと思う。その瞳に宿る冷たい炎が、この上もなく美しいと、疑いもなく思う。愛する人間たちの中にありながら、平凡という単語がこの上もなく似合う人間でありながら、彼は一つも平凡なんかではありえなかった。
味も含めて、と臨也は笑う。
笑顔もいい、素敵だ。けれども彼にはこういう顔をしていてほしい。誰かの上に立ち、誰かを使う人間の顔をしていてほしい。
「臨也さん。あなたの間抜けな顔を見たいんじゃないんですよ。説明しろとはっきり言われなきゃ分かりませんか?」
「とんでもない、ただ、帝人君のその顔に見とれてただけだよ」
「寝言はいらないって言ってるんです」
すうっとその冷たい瞳を細める、その顔はまさに『ご主人様』だ。臨也は思う。自分はこの顔に、この目に、この少年に、焦げ付くほどの情熱を感じるのだと。
しかしこれ以上機嫌を損ねるのはよくないな、と臨也は肩をすくめた。蔑む目、もう少し見ていたかったけれど。
「黄色と青が、水面下でこそこそと復活しようとしていたらしくてね」
自分のものではないソファに寄りかかって、臨也は足を組む。
「黄色は力のシンボルが欲しくて、青はそれを阻止したかった。まあ良くある話だよねえ。けれども紀田正臣にはもう戻るつもりはなく、交渉は決裂。結果、力づくという方法に出た黄色と、黄色に引き込まれる前につぶせばいいという青の両方に追われたと」
「最初からなんでそう言えないんですかねあなたは」
「おしゃべりが大好きなんですぅ☆」
「ウザイ黙れ」
眉間にしわを寄せた帝人が、出されたコーヒーを一口飲んだ。タイミングを見計らったかのように、PDAが突き出される。
『いい加減、こちらにも説明をくれないか?君たちはどういう関係なんだ?』
振り向けば都市伝説。その文字を読み、臨也は軽く笑ったが、帝人はそうですね、とまじめな顔で頷いた。
ここは、新羅とセルティの自宅である。
死にかけの正臣を拾った臨也は、そのまま沙樹と正臣をここに運び込み、新羅が今縫合手術をしているところだ。もちろん彼女は付き添っていて、ここには運び屋と臨也と帝人が残ることになる。
帝人のことは、正臣をここへ運んだあとすぐに臨也がマンションへ取って返して連れてきた。有無を言わせず「必要なものだけ持って出るよ。避難するんだ、意味は分かるよね?」と言った臨也に、その場でぐだぐだ問いただすような真似は帝人もしなかった。財布と通帳とはんこ、そしてPCにつながっていた外付けのハードディスクだけを持って、行きましょう、と毅然と臨也を見返した帝人は、本当に人間であることが不思議なくらいに美しかったと臨也は思う。
本当に、なんて美しい子だろう。
臨也は何度も思ったことをもう一度思い、運び屋の質問にどう答えるのかと帝人を見つめる。
ここに連れてきたとき、都市伝説との遭遇に、帝人は目を輝かせて笑った。そしてごく普通に、本当に当たり前だとでも言うように自己紹介をし、正臣がお世話になっています、とまで言ってみせたのだから、本当に帝人という人間は底がしれない。
一切の説明をしなかったけれど、すでに帝人は推測がついているのだ。おそらく正臣が襲われたということ、その彼の携帯か何かが敵の手に渡っていて、正臣にとって特別なメモリーである『竜ヶ峰帝人』と言う人間に、敵がすぐに目を付けるであろうこと。そしてあの家が見つかるまでにはそう時間がかからないだろうこと。荒らされるから見られたくないものは持って出ろという意味だった臨也の言葉も、言われた瞬間理解したに違いない。つまり彼は、大切なデータはPC本体には何も残していないのだ。
本当、そういう用意周到なところ、たまんない。
「ええと・・・。セルティさんが聞きたいのは、僕と臨也さんの関係でしょうか。それとも僕と正臣でしょうか?」
『両方教えてくれると嬉しいんだが』
「はい、そうですね・・・。僕と正臣は幼馴染で親友、そして臨也さんは僕の飼い猫です」
沈黙。
『それはあの・・・どういう意味だ?』
恐る恐ると言うようにセルティがたずねる。それに至極真面目に頷いて、帝人は繰り返した。


「僕は、要するに臨也さんの飼い主です、1年前から」


言いなおしたけれど、あんまり言いなおしになっていない。それに気付いていないくらいには天然な帝人に、もうたまらなくなって臨也は声をあげて笑った。これだから帝人君はたまらない!たまらない!たまらない!
困惑したように体を臨也に向けたセルティに、だが、臨也から何らかの言葉を付け足す必要性はあまりなかった。だってその通りだ。臨也はこの少年に、1年前から飼い馴らされている。それがすべてだ。
彼のために、彼の健やかな学校生活を阻むであろうカラーギャングをつぶした。彼のために、彼が思いつきで作ろうとした組織を管理した。彼のために、臨也はありとあらゆる情報を得た。彼のために彼のために彼のために!そうして今日もまた、彼のために彼の親友を助けた。見返りは彼の与えるその芳醇な血、ただそれだけ。少年の体に流れる赤い血液を、こののどに流し込むためだけに臨也は少年に傅く。従順な獣のように、そうして献身的なまでに尽くすのだ。滑稽だ。以前の自分が今の自分を見たなら、どうしてそうなった、と爆笑すること請け合いだ。けれども臨也は後悔など欠片もしていない。
「臨也さんは、えーと。なんでしょうね、僕のためにいろいろしてくれる人・・・?」
「ニュアンスが微妙だよ帝人君」
「手足のように働いてくれる人というか」
「それは近いかもねえ。できればもうワンランク上がりたいところだけど」
「ワンランク上がったらどうなるんですか?」
「恋人?」
「寝言はよせと、二回も言わせないでくれません?」
つれないなあとぼやきながら、臨也は目を細めて帝人を見つめる。体の相性は、絶対にいいと思うんだけどな。からめ合った舌先の感覚を思い出す。うん、絶対に気持ち良くしてあげられるはずだ。血を吸うときにいつだってそんなことを思っている。その華奢な体の中に、自分をねじ込んで泣かせて喘がせて溶かして絡んで求めさせたい。純粋なる征服欲は、恋をしたら誰でも抱くものじゃないの?
けれどもそれをこの場で口にするほど馬鹿でもない。臨也はにっこりとほほ笑むにとどめて、頬杖をついた。無理やり押し倒すことは、契約をした今ではできないことだ。帝人がやめろと命令したら、それだけで臨也はやめざるを得なくなる。そんなふうになると分かっていて、それでも契約をしたのは、彼を手放さないため。
臨也には自信がある。
絶対に合意でそういう関係になる、という、根拠のない自信が。
「とりあえず俺は帝人君には逆らわないんだよ、それだけ分かっていればいいと思わないかい?」
作品名:As you wish / ACT5 作家名:夏野