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POPO

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 …まったく類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。これでは彼の親友であるところのヒューズ中佐がもうひとり増殖したようではないか。まあ、まだエドの写真を撮りまくって誰彼なく「うちの鋼のがー」と自慢して歩かないだけましだろうか。だがそれも時間の問題のように思えない事もない。
「…いいよっ、別に…」
 ぺしぺしと髪を直しながら、エドは口を尖らせた。先ほどのデコ事件が尾を引いているのか、白い頬が微かに朱に染まっていた。なんとも可愛らしい事ではある。ガキ大将みたいな印象が拭えないエドだが、一応、恥じらいは若干育ってきているのかもしれない。
 …まあ、成長しても恥じらいのない人間も世の中に入るわけだが。
 ―――例えばロイ・マスタング大佐とか。
「中尉はまだ来ていないようだな」
 笑いながら、ロイは話題を変えた。先に食べていいと言ってはいたが、恐らくエドが承知すまい。待っていると言い出しそうだ。
「ええ。…っと、来たみたいですよ」
 答えたハボックが、途中で意見を変えた。手に何かを持ってこちらにやってくる女性を視界に捉えたからだ。
 彼女はちょうどロイの背後の方向からこちらに向かってくる。つまり、ロイ達の後ろを歩いていたのだろう。
 ということは甘ったるい顔をしていたのも当然見られていただろう、という事に思い至り、ロイはひとり苦笑を浮かべた。どうにも日に日に甘くなっているのは自覚していた。とはいえ、可愛いものを可愛いと思うのは人間として当然の事だから、しょうがない、と開き直ってもいるが。
「中尉!」
 エドが嬉しそうに女性を振り返った。そんなエドに中尉は微笑を浮かべて、軽く片手を振った。
「はやくはやく!」
「兄さん、ちょっと落ち着いたら。それ下ろしてさ、切り分けておこう?」
 落ち着きのないエドに、弟の苦笑まじりの提案がなされる。それには大きな目を見開いて、そっか、とエドも照れくさそうに笑った。確かにちょっと子供っぽいな、とでも思ったのだろう。
 そしてエドは皿をきちんと置いて、そっとナイフを入れた。それを見、ロイもコップをわけ出す。そうすれば「俺やりますよ」とハボックがコップを引き取り、ブレダが茶を注ぎだす。一応、彼らも上官へそれなりの敬意を払っているのだ。
 …たまに、疑わしく思えるときもあるけれど。
「あ、ボクは…」
 と、ロイはアルの前に茶の注がれたコップを置いた。それに幾分慌てた様子で手を振るアルに、ロイは何でもない事のように笑って言った。
「何を言っている。皆で作ったんだから、皆で食べたらいい。…気分だけでもいいじゃないか」
「……、ありがとうございます」
「何がだい?おかしなことを言うな、君は」
 ロイは、アルの感謝をさらりと流してしまう。ごく自然なそういう気遣いが、アルには少し眩しいものに映った。
「あら、すっかり準備万端ね」
 そうこうしている間に中尉がやってきて、シートに腰を落ち着ける。
「うん、ちょうどよかった!」
 そんな女性にエドは笑い、そして、彼女が持ってきた小さなケースに目を留める。
「それなに?中尉」
「ああ、これ?」
 四角い布のケースには長い紐がついていて、それがくるくると巻かれて口が留められていた。紐の先についた小さなチャームが留め金の代わりになっているらしい。
「可愛いでしょう?」
 ふ、と悪戯っぽく中尉は笑う。彼女にしては珍しい表情だった。
「…うん」
 エドは照れくさそうにはにかんで、小さく答える。その髪をそっと撫でて、中尉は言った。
「後であなたにあげる。…でも今は、ケーキをいただきたいわ?」
「え? …あ、うん!食べよ!」
 はいこれ中尉の、とコップと紙皿を渡しながら、エドは朗らかに言うのだった。




 オレンジの夕陽に照らされる金髪を、書類から上げた目を細め、ふっと見遣る。
 突発的なピクニックにか、大規模な料理にか、…普段の疲労のためか。ケーキを食べ、茶を飲み、追加とばかりブレダが持ってきた菓子も食べ、そして片付けを始めた時には、既にエドは半分眠りに落ちかけていた。
 どこかで休んだら、と勧めたが、眠いせいだろうか、「眠くない」とごねて執務室の来客用のソファで本を読み出したエドである。しかし読み出して十分もしないうちに船をこぎ始め、…今ではすっかり寝息を立てている。
 せめてと横にしてやり、上着をかけてやった。そうするとふにゃり、とまるで幼い子供の顔をして笑ったものだ。
 ―――ただ甘やかしたい、可愛くてしょうがない。
 そんな気持ちを自分が持っていることが不思議だったが、…可愛いものは可愛いと割り切ってしまう。そんなところで葛藤しても不毛だろうから。
「…なるほど、確かにずっと可愛い」
 エドを見守る目に、中尉が持ってきたピンが留まった。ふっとロイは笑って言った。なるほど中尉の言う通りだった、と。
 いぶし銀のピンの尻には、色とりどりのガラスを使った細工が付いている。それは蝶をモチーフにした飾りだ。今陽射しにはそれらのガラスと金髪が反射していた。
 ロイは嘘のように平和な空気を壊さないようそっと息を吐いて、それから背後の窓を振り返った。そして、暮れていく空をただ眺める。夕陽を根源としたグラデーションが美しかった。
「…明日も晴れそうだな」
 ぽつりと落ちた言葉は、とても幸せそうな響きを持っていた。


作品名:POPO 作家名:スサ