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POPO

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 そして数秒。たった数秒で、彼は黒いタンクトップを探し当てた。きちんと畳まれたものを。
「あ」
「あ、じゃないでしょ?どうしてこう探し物とかへたかな。ていうか、自分できちんとしまえないからこうなるんだよ。だから整理整頓を日々心がけてだね…」
 アルは口をすっぱく(ならないが)して、腰に手を当ててこんこんと姉を諭し始めた。
 しかしエドはといえば、探してもらったタンクトップをかぶりつつ生返事を返すだけ。

「…弟くん、おちびさんを甘やかしすぎ…」

 見ているだけのエンヴィーから思わずのツッコミが入っても、致し方あるまい。
 しかし、そこで予想外の展開が。

「ゴルァ誰だ今チビとか言った奴!!!」

 カッといきなり目を見開いたエドはくるりと振り向いて、どちらかといえば可愛い顔を般若の面相にゆがませると、首にタンクトップを引っ掛けたまま(つまりまだ上半身ヌード)エドは窓辺に駆け寄った。…相変わらず一部言語に対する脅威の聴覚は健在のようだ。
「あっ、ちょっと兄さん!」
 それまではあまりこだわらないでいたアルも、さすがに窓辺にそんな破廉恥な格好で寄って行くのはいただけなかったのだろう、慌ててとめるが、エドは急には止まれない。アルの手をすりぬけるようにして窓辺に駆け寄ったエドは、結局そんな格好のまま外に向かって怒鳴るのだった。仁王立ちで。
 胸のふくらみはなくたって乳首までないわけではないので、朝日に、その、なんだ…ピンクの小粒の…可愛いのが…。
「出てきやがれコラー!」
 しかしエドは頭に血が上っているし、上っていなかったとしても気に掛けたかどうかわからないような、まあそういう子なのである。未だに。 

「………………………………はがねの……?」

 そして呆然とした、というか、愕然としたような声が窓の下、宿の入口あたりから聞こえてきた。
「え?」
 その、聞き覚えのある声に、エドは下を向いた。
 そこでは目を皿のようにかっぴろげた年若い男が、呆然と立ち尽くしていた…。
「あ、大佐だ。オハヨー」
 凝然と固まる男の態度になど毛ほどの気を払う事もなく、どころか人懐こくすらある調子でエドは手を振った。
 …餌付けの効果がばっちり出ているのだろう。
 ロイ=役に立つ情報くれる人、文献探してくれる人、美味しいごはん食べに連れてってくれる人、である。先日も美味しいハンバーグを食べにつれていってもらったばかりだ。
「…っ、君はっ、なにしてるんだねっ」
「………?あいさつ?」
「違う! 〜〜〜っ、いい、今から行くから部屋の中に入ってなさい!」
 滅多にない怒った態度で、ロイは断言すると急いで宿の玄関に消えた。
「……?」
 エドはといえば、あまりにロイが普段彼女の行動を咎めないので、恐れ入る事もなく首を傾げた。
 まいったな、と天を仰いだのはアルの方だ。
 アルには、ロイの態度も怒鳴ったわけもなんでもかんでもお見通しだったので。
 こんなことならもっと注意しておくんだった…、と未だに首にタンクトップを引っ掛けたままのエドを見ながら、アルは溜息をついたのだった。
「―――兄さん」
「ん?」
「それ、着ちゃったら?」
 とりあえず彼に出来たのは、せめても最低限の布をエドに装着させる事だけであった。

 そして血相変えてやってきたロイは、軍服ではなく私服だった。
 とりあえず青くないから私服なんだろう、程度の感想をエドは抱いた。
「どしたんだよ大佐、そんな息切らして」
 やってきたロイに、エドは小首を捻った。
 あどけない仕種が本当に幼い。勘弁してくれ、とロイは天を仰ぎたくなった。
 タンクトップを着ているだけさっきよりはましなのかもしれない。しかし未だに下はパンツ一丁というのはどうしたらいいのか。自覚がないにも程がある。
「…どうしたもこうしたもっ…」
 ロイは自分の上着を脱ぎながらエドに近づくと、それを思いきり肩にかけた。ほとんど包みこむように、だ。
 背丈、体格の違いのおかげで、エドの腿のあたりまでロイの上着が覆って隠す。
「なんだよ、暑い…」
「―――この馬鹿者!」
 嫌がって上着を脱ごうとするエドを上着ごと押さえつけながら、ロイは怒鳴った。
「…っ」
 最初に会った時を除けば初めてに近いロイの怒鳴り声に、エドはびくっと肩を揺らして目を見開いた。
「…なんて格好をしている…っ」
「…え?」
「君はもっと自分を大事にしなければ駄目だ」
 ぽかんとするエドに、ロイはそれこそ慈父がごとき態度で目を細め、噛んで含めるようにそう言った。
「…とにかく…着替えてきなさい」
 上着は後でいい、そう言い置いて、ロイはエドから離れた。そしてアルに目配せすると、続き部屋へと消えた。
「じゃ、ボクもあっちにいるから。兄さんちゃんと着替えてきてね」
 そんなロイの後を追う格好で、しかしごく自然な調子で言い、アルもまた続き部屋へと消える。
「………………」
 釈然としない表情で、エドは眉間に皺を寄せた。

 続き部屋の椅子に勝手に腰を下ろすと、どっかと脚を組み、そしてもって額を押さえながらロイは重苦しい溜息をついた。
「…あの…すいません」
 そんなロイに、アルはとりあえず一応謝ってみる。
 アルが謝ることなど本当はないのだが、…気分の問題である。
 するとロイは顔を上げ、アルを見た。
「…………アルフォンス」
「…はい」
「…、いつでもああなのかね?」
 朝っぱらから疲れた顔をして聞いてくるロイに、ええと、とアルは少し困って見せたが、…しかし結局は頷いた。
「……ハァ…、そうか…」
 その答えに、がっくりとロイは肩を落とす。
 そして再び、しばしの沈黙。
「―――アルフォンス」
 今度はロイが自発的にその沈黙を破った。
「はい?」
「…、余計な事かもしれないんだが」
 ロイは難しい顔をして顎を押さえると、一度言いよどんだ。
「はい…?」
 だがロイは意を決した様子で顔を上げると、真剣そうな面持ちで口を開いたのである。
「鋼のは十五になるんだったな?」
「え?え、ええ…」
 今度の誕生日で、とアルは答える。
 ―――ちなみにウロボロス組の方では、「あら、じゃあ今は十四なのね」「ていうかなんであいつそんなの詳しいんだよ」「…今度はあぶらっこくて筋張っておいしくなさそゥ…」とかいった会話が繰り広げられている。
 脂っこいはともかく、筋張っているのは…まあ確かに顎は発達しているかもしれない。
「…、そろそろもう少し自覚を持ってもらわなければ、…良くない傾向だろうな」
 はぁ、と難しい顔のままロイは溜息一つ。
「まあ…そうですね」
 ロイが何を言いたいのかはわからなかったが、言っていること自体はその通り、と頷ける物だった。なのでアルも特に逆らわず相槌を打つ。しかし。
「…。何日か…そう、長いことじゃないんだが…何日か鋼のを借りられないかな」
 ロイが唐突に妙な事を言い出したので、アルも今度は反応し損ねた。
「―――は?」
「うん…どうしようかと思ったのだがね…。やはり今のままでは良くないだろう」
 アルは首を捻った。
作品名:POPO 作家名:スサ