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POPO

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「はっ?なんだ、いきなり」
 やがて考えるのをやめたエドが、幾分悲しげな顔をして見上げてきた。よくあることだが、エドの思考についていけず、ロイは眉間に皺を寄せた。
「だって。…大佐、かっこいいのに。…オレのことパフェ食いに連れてってくれたりして。時間ないのに。…勿体無いよな。もっと大人のキレーな女の人とかと、しかもパフェとかじゃなくてさ、もっと違うの…」
「あのな、鋼の」
 エドの言わんとすることが何となくわかったロイは、途中で止めるべく口を挟んだが、車とエドは急には止まれない。
「大佐もうそんなに若くないのに、婚期逃しちゃうよな…ごめんな。今度はオレひとりでパフェ食いに行くからさ…」
 ロイは、ここまで聞かされて思わずしゃがみこみそうになってしまった。
 ―――なんだ、それは。
「鋼の…」
 あまりの脱力加減に、ロイは本当に疲れてしまう。しかし、しゅんとした顔をしている子供が、…この態度が計算でないのだから本当に困ってしまうのだ。
「…余計な心配をするんじゃない。それに、私だって楽しいのだからいいんだ」
「…じゃあ大佐はロリコンなのか?」
「…怒るよ?鋼の…」
 だって、と口を尖らせるエドだが、特に考えての発言ではなかったのだろう。続きは出てこなかった。
「…。ではね、私がかわいそうだというのなら」
「………?」
 エドは不思議そうに首を傾げた。そんな子供を、躊躇なく膝をついて下から覗き込みながら、ロイはかすかに笑う。
「…君が大人になった時、私がまだひとりでいて。君がその時も私をかわいそうだと思い、また、私を格好いいと言ってくれるなら。その時は、」
 笑いながら、ロイはエドの左手を取った。そしてその薬指をそっと摘み上げる。
「この指に、指環を受取ってくれ」
 左手の薬指。
 そこにつけるのは、互いに愛を誓う指環。
「…どの条件が揃わなくても、君はいまの言葉を破棄できる。どうだい」
 ひたすらにやさしげに問う男に、エドは困ったように首を傾げた。
 そして―――
「オレ、大佐には銀はもらったから、次は金がいいな」
 そう無邪気に言って、笑ったのだった。


 年の離れた兄妹のように、仲良く手を繋いだふたりが帰ってきた時、ハボックの顔には困惑混じりのニヤニヤ笑い、ホークアイの顔には…青筋がかすかに浮いた。
「…エドワード君」
 彼女はやさしげな笑みを浮かべると、膝を折ってエドの顔を覗き込んだ。ロイに手を引かれたまま、エドは不思議そうに小首を捻る。そんなエドの頬にそっと片手を添え、そしてさりげなく上官と繋いだ手を放させる。
「こういういけない大人の人と手を繋いで歩くなんてダメ、絶対」
「……大佐はいけない大人の人なの?」
 凍りつくハボックに毛ほども気を払うことなく、エドはロイを見上げ、不思議そうに問う。
「…私でも傷つく事はあるのだが」
「男性が心の傷などと随分軟弱な事」
 エドを守るように立ち上がりながら、ホークアイは譲らない。エドだけがわけがわからない顔をしていた。
「中尉?ねぇ、なぁに?」
「なんでもないわよ?ああ、そうだ、アルフォンス君が中で待っているわよ」
「え!そっか、アルも買物終わったんだ!」
 ぱあっとエドの顔が輝いて、オレ行ってくるね、と司令部の待合室へと走っていく。
「……中尉。色々と誤解があるようなのだが」
 そんな元気の良い後姿を笑顔で見送りながら、ロイはぼそりと口にした。
「私は大佐のことはこの世でヒューズ中佐の次に正しく理解していると自負しておりますが」
 副官もまた、急ぐと転ぶわよ、とやさしい声をかけながら、冷たい態度で応じる。
 …たまたま居合わせてしまったハボックこそ不幸であったといえる。



 …その後もエドを巡る大佐とその副官の陰険な攻防はことあるごとに繰り広げられるのだが、それはまた別のお話。
 そしてそういう事態に、一番の身内であるアルがのほほんとした顔をして「兄さんの将来が安泰みたいでよかった」と呟いたのこそ、実は周囲の大人達にとっては脅威だったりしたとか、しないとか―――。

作品名:POPO 作家名:スサ