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「い、いや。…すまない、私はてっきり…」
 ぎゅうぎゅうと抱きつく子供の、子供だからというにしてもなお細くやわらかい体に首を捻ったのも束の間、ロイは、とんでもない事実に直面してしまったのである。
「―――え、でも待ってエドワード君!アルフォンス君は『兄さん』て…」
 同じく硬直していた外野の中から、それでもはっとして質問の声を上げたのはフュリーである。しかしエドは、ロイにしがみついたまま顔だけ動かし、不思議そうに首を傾げた。
「だって、兄さんて呼ばないと口きかない、って言ったから」
「………………」
「…なんだってそんなこと」
 絶句する部下にかわり、ロイもまた困りきった声で呟いた。
「だって。…ただでさえオレ…ガキっぽくて馬鹿にされ易いのに。女だってなったら、もっと舐められる」
 ―――いや、舐められるとかそういうことでなく。
 喉元までその言葉が出かかったロイだが、口にする事は結局出来なかった。言う気力がなかったというのもある。
「…それに。…だって。オレ、一番上の子だもん」
「…は?」
「兄弟の上は下を守ってあげるの!ジョーシキだろ!それにオレが一番上だから、…だから…家族とか皆守らなきゃ駄目なんだ。それなら女より男の方がいいじゃん」
 どうも口調から察するにエドは本気でそう信じているらしく、ロイはもう、なんと言ったらいいのかわからなかった。何というか、柄ではないが、あんまりにもいじらしく思えて可愛くなった。
「…鋼の。…君の言うこともわからないではないが(正直に言うとあんまりわからんが)、…無理に男のフリをすることはないんだよ」
 なので、抱きついている子供の頭をそっとやさしく撫でて、そう言ってやる。しかし。
「や、無理とかは全然してないんだけど」
 すっぱり否定され、ロイは口ごもる。…もう少し空気を読んでくれてもいいと思うのだが、それは贅沢なのだろうか。
「だってオレ、スカートとか苦手なんだもん。それに女らしくとかそういうの全然駄目。アルの方が女の子っぽいくらいだもん」
「…あのね、鋼の。…確かに今はまだ、女とか男とか、そんなにはっきりわかるわけではないが」
「…誰が幼児体型のドチビだよ!!」
 ぽかり、とエドは容赦なくロイの頭を殴りつけた。
「聞きなさいというのに…」
 そんな手をやんわりと押さえつけ、ロイは溜息ひとつ。
「せめて私や…彼らくらいには教えてくれてもよかったと思うよ。少なくとも、気にしてはいられる」
「…気にするって、…何を?」
「…。あのね、………中尉、なんと言えばいいと思うかね?」
 ロイは弱りきって、頼りになる右腕に助けを求めた。すると、かなり驚愕に陥っていたらしいホークアイ中尉も、さすがに立ち直って近づいてきた。彼女は膝を折ると、ロイにしがみついたままのエドの顔を覗き込むようにする。あどけない顔が、不思議そうに女性を見つめていた。
「いいかしら、エドワード君。…君、というのもおかしいかもしれないけれど。…軍は、見ての通り男社会だわ」
「中尉もいるじゃん」
「女性軍人がいないわけじゃないけど、…けして多いとは言えないわね」
「………?」
 きょとんとした顔で首を傾げるエドは本当に幼げで可愛くて、鉄の女も思わず口元をほころばせる。
「はっきり言って、狼の群れに羊を放り込むようなものなの。わかる?」
「…?羊?」
 どうやらわかっていないらしいエドに、ホークアイ中尉も溜息。
「…あなたがそういう風だから、私達は心配にもなるの。…でも、早いうちにわかってよかった。…大佐、ヒューズ中佐にもご相談なさってはいかがでしょう?」
「ああ。私もそうしようと思っていた。早い方がいい、戻ったらすぐ電話しよう」
「はい」
 もはやエドが話にならないとわかると、中尉はさっさと上司と話を進めてしまう。
「ちょっと! …全然話わかんないよ?」
 眉をぎゅっと寄せてせがむエドは、そうやって気をつけてみれば、ただ子供だからというのではなく可愛いように見えた。ロイは、何度目かわからないため息をつく。
「…だから、わからない子だね。君は。…確かに君の腕が立つ事は知っているが、いいかい?たとえば何十人と男しかいない場所に君みたいな子が放り込まれたらと考えるとぞっとするよ、私は」
「なんでぞっとするんだ?」
 ロイは―――、もはや本当に弱りきった風情で目を伏せた。
「頼むからこれ以上私に言わせないでくれ…」
「? 意味わかんねぇ」
 彼らを遠巻きに取り囲む男達は、上司に同情の視線を送った。
 ―――無垢とは時に罪である。
 彼らはその時、そう思った。
「…とにかく! …君が女の子だということは、今ここにいる面々だけの秘密にするから。君は今まで通りの鋼のとして振舞ってくれればいい。…だが頼むから、女だとは言わないでおくれ…我々の精神衛生のために」
「??? …別にオレは女っぽいの苦手だし、全然いいんだけど。…なーんか、引っかかるなあ…」
 しきりと首を傾げるエドに、ロイの疲労が増したことは言うまでもない。



 …と、いうようなことがあって。
 まあそんなわけで、女の子だと思えば無意識に手加減が出てしまうのは致し方なく、ゆえにパフェなんかご馳走してあげるのも当然男の甲斐性というか何というかなわけで。
 からんからん、とレストランのドアにつけられたカウベルを鳴らして店を後にしたエドの満足そうな、あどけない顔を見ていると、なんだかよくわからないがまあ楽しいからいいか、とロイはあっさり片付けてしまう。
 判明した事実は確かに驚愕に値するものだったが、…事実は事実として認めるしかないし、受け入れるしかないではないか。
「大佐大佐、ゴチソーサマ!美味しかった!」
 エドは至極満足げな様子でロイを見上げた。
 …妹か、もしくはうんと若いうちに結婚して子供を設けていたらこんな感じだろうか、とロイは不意に思った。そうやって考えるとなんだか本当に目の前の子供が可愛く思えてきて、ロイは、作り笑いではない心からの笑みを返した。
「それはよかった」
 が、そんな笑顔に、エドは目を丸くして言葉を失ってしまう。
「…鋼の?」
 まじまじと見上げてくる金色した大きな目に、ロイは困惑を隠しきれない。まったく、一緒にいると驚かされる事ばかりである。
「大佐って」
「………?私が、どうか?」
 エドはぽつりとこぼした。
「―――知らなかった、大佐ってかっこいいんだ…」
「……は?」
 今度は言葉を失うのはロイの番だった。
 自慢ではあるが、確かにどちらかといえば女性にはもてる方だと思う。だが、こんな風にてらいなく言われたのは初めてであった。しかもエドの調子といったら、妙に感心している風であって、けしてロイに異性としての魅力を感じて、ということではないように思える。
「そうか…かっこよかったんだ…」
 しかしエドはもう一度しみじみとそう呟くと、今度は一転、難しそうな顔をして腕組みをした。
「…鋼の?一体…」
 いつかふたりは立ち止まり、ロイは困った顔をして膝と腰を軽く折り、エドはエドでうんうんとうなっていたりした。道を行く人はまばらなのが救いだが、さぞかし奇妙な二人組に見えたことだろう。
「…大佐ぁ。ごめんな…」
作品名:POPO 作家名:スサ