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Killertune

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 それが体調をくずしてふらついているときに、誰より頼って欲しいその時に、とんびに油揚げとばかり目の前でその東上を掻っ攫われた二人にとってみたら、これは本当に由々しき問題なのだ。
 越生なら、まだいい。しょうがないと諦めがつく部分もある。だが、
(八高はそりゃ昔からつながってたんだろうけど…!)
(秩鉄に出てこられたらそれこそ反則じゃねーか…!初期装備でラスボスに挑むくらい無謀じゃねーか…!)
 だん、とふたりは同じタイミングでコップを置いた。
「…飲むぞ」
 とことん、と据わってきた目で武蔵野が言えば、
「飲むぜ」
 こちらももはや理性の消えかかった目で有楽町がきっぱりと受け答えた。
 明日の運行なんて知ったことか!



 むっつりと腕を組んだ不機嫌顔で、どうやらすっかり全快したらしい東上は、目の前の屍ふたりをきつい目で睨みつけた。
「おまえら、馬鹿じゃないのか?ていうか鉄道としての責任感とかないのか?通勤ラッシュってわかってるのか?!」
「うう…」
「おねがい東上…静かに…怒って…」
 頭を抑えて呻く有楽町の隣で、怒られるの自体は構わないらしい武蔵野が「ギブギブ」と片手をあげる。それに溜息をついて、東上は組んだ腕を体の脇に置いてしみじみとふたりを見おろす。ベンチに座り込む、二日酔いという名の急病にかかったふたりの役立たずを。
「…ていうかおまえらふたりで飲みに行くほど仲良かったっけ?」
 もしかしたら仲間はずれにされた?という感じに東上の口が尖るのを見つけ、役立たずのはずの二日酔いどもは慌ててベンチから立ち上がり、両側から口々に弁解する。
「や、そんなんじゃない!ほんとは東上と行きたかったんだ!」
「そうだって、オレだってそうだっての!ほんとマジで!」
「…おれ別に酒飲まないし。べつに。おもしろくないし」
 うじうじと何かいつものネガティブ病を催したらしい東上に、あわわ、と血の気を失いながら有楽町と武蔵野はだから、とかそうじゃなくて、とか弁解に忙しい。
「いいんだ、別に…」
「東上!」
 瞬発力は有楽町の方が上だったらしい。がば、と有楽町は強い勢いでもって東上の両肩を掴むと、真っ直ぐに見つめて宣言した。
「東上はオレにとって一生モノなんだから!そんなこというな!」
「…は?」
 ぽかんとした東上を、背後から出遅れた武蔵野が腕を回して捕まえる。腰の辺りを撫でられてひゃあ、と変な声を上げた東上の頬が一瞬で赤くなる。
「そんなんオレだってそうだ」
 自分より(数値的には若干、のはずだが、体格か骨格かどちらかの問題で若干ではないように見えるときもある)背の高いふたりに前後からがっちり固められて、東上は固まった。なんだこれは。どういう事態なんだ。
 戦前派な東上は、戦後派のふたりの行動が理解できずがっつり固まる。
 が…。
「おまえらなにやってんだ!」
「ぐふっ!」
「いっっ!」
 威勢の良い声と共に、有楽町は背中に思い切り頭突きを受けてそのまま蹴り倒され、それにより視界が開けたことにより武蔵野は東上の体に回した手に思い切り噛みつかれ悲鳴を上げて東上から離れた。
 緊張の糸が切れたのか、病み上がりの東上がへなへなと座り込むと、ふん、と荒々しく息を吐いた越生がそんな東上に抱きつくように支える。
「もう、ばか東上!だから無理すんなっつってんだろ?!」
「でも、そんなに休めないよ越生」
「いいんだよそんなの!おれがいるじゃねーか!」
 甲斐性と男らしさに満ち溢れた台詞を口にして、越生はこつんと額を東上の額にぶつけた。
「ばか。…こんな奴らに振り回されて」
「え…」
「なんでもねー!ほら、帰るぞ東上!」
「え、でも、」
「いいんだよ!こんなのただの酔っ払いだろ?!二日酔いは病気じゃねー!」
 ただのジコカンリフユキトドキだ!
 と朗々と宣言した越生のまっすぐすぎる言葉がぐさぐさと転がる二日酔い患者共に突き刺さる。
「大体そんだけ元気ならどうってことねー。有楽町、しっかりやれよな!東上はつれてかえっからな!武蔵野、おまえ今日運休とかいったらほんと容赦しねーかんな!」
 ふんっと鼻息荒く言いつけて、越生は東上の手をぎゅっと握って歩き出す。少しだけ急いだ歩調に東上が前のめりになって、それに気づいた越生が立ち止まる。立ち止まった越生に、困ったように東上が笑って。
 それから、未だに転がっている屍ふたりをちらりと振り返る。
「…一生はよくわからないけど、おれ、つながってんのがおまえらなのは、そんなにやじゃないと思ってる」
 困ったように、照れたように早口で言って、すぐに前を向いて越生について歩いていってしまった東上を、ふたりは呆然と見つめる。
「東上はあいつらを甘やかしすぎだ!あんなやつらちょっとほっといたほうがいい!」
 前からは相変わらずお冠らしい越生の声と、なんと答えているのかはわからない東上の微かな笑い声のようなものが聞こえてくる。
「…やられた」
 有楽町は完全にホームに転がった。大の字で転がって、頭を抑えて、くつくつと笑いながら呟く。
 その横でこちらも結局ごろんと横になって、武蔵野は空を見上げながら口を尖らせた。
「あれって、反則じゃねー?」
 もしかしてとんでもない性悪に捕まっちまったんじゃねえの、オレ、とぼやく武蔵野の声に、有楽町は東上の弱った姿とか照れた姿であるとかを思い出した。朱を散らしたような頬を、濡れた睫を、尖らせた唇を。
「…いえてる」
 思わず同意して、あー、ちくしょー、と笑いながら投げ捨てた。
 多分勝負はまだまだこれからだ。

 とりあえず当面の敵は、秩鉄でも八高でも、隣で転がっているヤツでもなく、あの手ごわい子供に違いない。
作品名:Killertune 作家名:スサ