One Wish
自然とこぼれた問いに、僅かに滲んだ視界の中で、彼は僅かに首を傾げた。
もう一度、今度は自分から半身の手をとって強く握り締めた。
「キミのイヤな夢はどうするの?しんどくてどうしようもない時、どうするの?」
たぶん、思いつめたような顔をしているんだろう。もう一人の自分が一瞬困ったように目を伏せたから。
重くなるのは嫌なのに、声が硬くなる。
いつもそうだ。
いつも、彼は護ってくれる。
心も、身体も、魂すら、絶えず忍び寄ってくる数々の悪意からずっと助けてくれている。
・・・だけど、彼は?
自分は、自分たちは彼に何か返せるか?
問われれば、きっと、どう答えていいか判らない。
ことあるごとに伝えてくれる、自分たちが必要だ、という彼の言葉を疑うということじゃない。
ただ、足りない気がするのだ、いつも。
僅かに落ちた沈黙が少しずつ空気を張り詰めたものに変えていく。
やがて、落ちた闇を取り払うように、彼は何を言い出すかと思ったら、と。
小さく吹きだした。
「ちょ・・・っ!・・・もー!笑うことないじゃないかー!」
「ハハ、悪い。――――だが相棒がカワイイこと言ってくれるから」
つい、照れ隠しで。
のほん、と。まったく照れてないどころか、ニヤリとお得意の笑顔すら浮かべて繋いだ手を引いて、毛布から引っ張り出した相棒の額に、ちょんとキスを落とす。
「か、かわいいって・・・、酷いよー!」
対して、マジメに聞いていたはずの遊戯はさらに真っ赤になった。
もう、色々言いたいことも聞きたいこともあったのに、何がなんだか。
だが、ワケが判らないなりにもう一度抗議すべく、きっと顔を上げると。
酷く強い緋と、真正面から目が合った。
「・・・そんなの決まってる」
変わらない、柔らかい声音に凍りついたように身動きが取れなかった。
そうして、僅かに口元に弧を刻んだもう一人の遊戯の緋色の瞳がゆっくりと細められる。
「お前を呼ぶよ」
浮かぶ笑顔は酷くキレイで、透明で。
・・・どうしようもなく切なくなって。
遊戯はゆっくりと彼の手を引き寄せて、強く抱きしめた。
離れないように。
離さないように。
――――だから、この声が聞こえたら、相棒も返事をしてくれ。
今までは風邪なんて、後ろ向きで、嫌なものでしかなかったはずなのに。
今日は少しだけ良かったと思った。
小さく遊戯はそう呟いて、
声にできなかった想いと一緒に、抱きしめた腕に力と願いを込めて、頷いた。