二次創作小説やBL小説が読める！投稿できる！二次小説投稿コミュニティ！

伝わらない安らぎ

それはアルの知らない、オレだけの安らぎのとき。

「もう、またこんなところで寝てる！」
　そんなアルの声で、オレはうっすらとしたまどろみの中から意識だけを呼び戻された。
　ちょうど調べ物をしていて、そのまま机の上に臥せってしまった。それをアルが見つけて咎めたのだろう。
　でも意識は目覚めかけてはいるものの、体は全然重たくて動く気がしない。
　それに、ここで起きても母親みたいなアルの小言が待っているだけだ。だからオレは、あえてそのまま眠ったフリをしていた。
「兄さん、こんなとこで寝てたら風邪引くよ！」
　案の定眠ったフリを続けていると、アルがオレを起こそうと体を揺さぶる。おそらく宿屋の女将との会話で聞いてきたのだろう。今日は特に冷え込むんだからと、起きてちゃんとベッドで寝るように促そうとする。
　だがそんなことをしても、普段よほどのことでもない限り起きないオレのことを、アルはよく知っていた。要するに、これはひとつの手順でしかない。
「しょうがないなぁ」
　ぼやきながら、アルはオレの肩に手をかけた。
　どきりと、オレの心臓が跳ね上がる。
　徐々にうるさくなっていく鼓動を聞きながら、オレは待った。
　アルの腕がオレの脇の下に差し込まれる。なるべくオレを起こさないようにそっと。
　やがて、オレの体はアルによって持ち上げられ、抱きかかえられた。心地よい浮遊感がオレを包む。
　オレは身じろぎをしたフリをして、顔をアルの身体の方に向けた。
　アルの鎧が頬に触れて、そのひんやりとした感触が伝わる。かわりに徐々に上がりつつあるオレの熱がアルの鎧を温めた。でも、アルは気付かない。
　オレはその事実に、ほっと安らぎを感じた。
　こうして、アルのそばにいてもこの熱は伝わらない。この早鐘をアルが感じることはない。そう、こんなあってはいけない感情を、アルが受け止めることはない。
　でも、それでいいんだ。この感情は、オレだけがしまっておけばいいもの。そうすれば、この「兄弟」という枠が壊れることは一生ないんだから。
　ガシャガシャと鎧が鳴る音さえも心地よく思いながら、オレは再びまどろみに意識をあけわたす。
　それと同じくして、アルの温まった鎧がオレの体から離れた。
　オレを受け止めたのは、アルではなくて、もっとずっと柔らかいベッド。
　そう、これでいい。
　オレはこれ以上を望みはしない。
　アルは、オレの大事な弟。それ以上に、なってはいけないことなんだ。
　でも願わくば。
　アルがそっとオレの手を握り締める。
　オレは夢うつつのまま、その手を握り返す。
　願わくば、この手が一生、オレの元から離れないように。
　もう二度と、離れ離れになどならないように、と。