My lover is selfish
彼は女性に対してはどこまでも甘い。
俺に対するように邪険な扱いは一切しない。
それこそ全ての女性を王女様か何かのように扱う彼は、伊達男の面目躍如といったところ。フランスではないが、美しい女性には声をかけるのが男の義務、それを厳かにすることは罪悪だとでも思っているようである。
洒落た服に身を包み、颯爽とした身のこなしで女性に頬笑みかけ、そして歯の浮くような口説き文句のオンパレード。
勝率もそこそこを誇っているらしい。
彼のパートナーである自分としては、そんなことをされて面白いはずがない。
だが、それはヴェネチアーノがヴェーと鳴かずにおれないように、また、俺が万事に対してキチンとしていなければ気が済まないように、日本が二次元を愛することをやめられないように、イギリスがマズイスコーンをどうしても作ってしまうように、アメリカがファストフードを愛してやまないように・・・つまり、彼が彼であるためにどうしても必要なものであるらしく、俺は黙認せざる得ない。
だが、最初の頃こそ随分と胃がキリキリとするような思いをしていたものの・・・彼のそれが二度・三度と続くことは絶対になく、また彼の誘いというのもダンスを一曲だとか、お茶を一杯だとかいうものに限られ、決して家に上げたり、褥をともにするということにはつながらないということが分かってからは、随分と気が楽になった。
彼は、当初俺が思っていたよりも軽い男ではなく(別の意味ではとても軽いともいえるが)、かなり貞操に関しては堅い男であるらしい。
だから、彼がこのフォーマルなパーティの席で女性に声をかけていたとしても、俺はさほど気にしていない。
パーティがお開きになるころには、彼は女性の元から離れ自分の元に帰ってくるだろうとほぼ確信を持っている。
それに・・・久しぶりにあったのだ。そうでなくては困る。
俺はロマーノの方に時折視線を向けながらも、外交・社交へといそしんでいた。
久しぶりに会う各国やその上司たちと旧交を温め、うちに出資を考えているという他国の企業家と談笑し、旧東側諸国・社会主義国家諸国と少々シニカルな会話を交わし、また新興国の起業家の話はとても興味深くきかせてもらった。
そして、次に我が国の実業家、昔は攻撃的な経営スタイルで知られ広く嫉妬され、また今は老いて好々爺となった男を見つけそちらに足を向けた時・・・
「あの、失礼ですが・・・」
声をかけられ振り返ると、フランス系と思われる美しい女性が立っていた。
薄い金髪に可愛らしいピンク色のふんわりとしたドレスに身を包んだ女性だ。一目みれば忘れないような印象的な灰褐色の瞳の持ち主だが・・・どうも覚えがない。
「何かごようですか?」
このような場に慣れていないのか、彼女はひどく緊張した様子で、俺の顔をちらりと見上げた後すぐに恥ずかしそうに視線をそらした・・・が、それが失礼になると感じたのか、顔を真っ赤にしながらすぐにまた視線を戻してきた。
その健気とも思える仕草にはとても好感が持てる。
「私、あの、カルヴェ家のロズリーヌと言います。あの・・・すみません、初対面なのにぶしつけに・・・」
見覚えが無いとは思ったが、やはり初対面のようだ。
「いえ。あぁ、私はルートヴィヒと言います。何かお困りですか?」
国であることは口にせず人間として名乗り、また怖がらせないように細心の注意を払って頬笑みかけると、ロゼリーヌと名乗った美しい婦人は少し肩の力を抜いたようだった。
「実は先程から貴方の事を見ていたのですが・・・・」
彼女との会話を始めてからしばらく・・・そう15分ほどたったころだろうか。
“ヴェー”という聞きなれた・・情けのない声に振りかえると、今日はフォーマルを着たヴェネチアーノが幾分情けない顔をして立っていた。
俺が女性に一言断って、彼の方を振り返ると、
「ヴェー、兄ちゃんが怒ってかえっちゃったよぉ」
と、前置きも無しに言った。
「何?」
なぜかメソメソとしているヴェネチアーノから目を離して会場に目をやると・・・先程(といっても、女性に話しかける前のことだ)は確かにいたはずのロマーノの姿が見当たらない。まさか女性と・・・と思ったが、
「怒って?」
という言葉に、その可能性を消した。
「そうだよ。兄ちゃんすげー怒ってた」
「なんでだ?」
「そんなの、お前が女の人と楽しそうにしゃべってるからじゃないかぁ~」
その言葉に俺は絶句した。
「な・・・ち・・・何を言っている!」
とんだ誤解だと言いかけて・・・相手が違うことに気付いた。俺は舌打ちをし、
「・・・すまんが、彼女を頼む」
と、ヴェネチアーノに彼女を頼むと急いで俺はパーティ会場を後にした。
しまった。ロマーノの居場所を聞くのを忘れていた・・・と気付いたが、ヴェネチアーノはロマーノが出て行ってすぐに俺に教えてくれていたらしく、運よく俺は廊下で彼を捕まえることができた。
俺に対するように邪険な扱いは一切しない。
それこそ全ての女性を王女様か何かのように扱う彼は、伊達男の面目躍如といったところ。フランスではないが、美しい女性には声をかけるのが男の義務、それを厳かにすることは罪悪だとでも思っているようである。
洒落た服に身を包み、颯爽とした身のこなしで女性に頬笑みかけ、そして歯の浮くような口説き文句のオンパレード。
勝率もそこそこを誇っているらしい。
彼のパートナーである自分としては、そんなことをされて面白いはずがない。
だが、それはヴェネチアーノがヴェーと鳴かずにおれないように、また、俺が万事に対してキチンとしていなければ気が済まないように、日本が二次元を愛することをやめられないように、イギリスがマズイスコーンをどうしても作ってしまうように、アメリカがファストフードを愛してやまないように・・・つまり、彼が彼であるためにどうしても必要なものであるらしく、俺は黙認せざる得ない。
だが、最初の頃こそ随分と胃がキリキリとするような思いをしていたものの・・・彼のそれが二度・三度と続くことは絶対になく、また彼の誘いというのもダンスを一曲だとか、お茶を一杯だとかいうものに限られ、決して家に上げたり、褥をともにするということにはつながらないということが分かってからは、随分と気が楽になった。
彼は、当初俺が思っていたよりも軽い男ではなく(別の意味ではとても軽いともいえるが)、かなり貞操に関しては堅い男であるらしい。
だから、彼がこのフォーマルなパーティの席で女性に声をかけていたとしても、俺はさほど気にしていない。
パーティがお開きになるころには、彼は女性の元から離れ自分の元に帰ってくるだろうとほぼ確信を持っている。
それに・・・久しぶりにあったのだ。そうでなくては困る。
俺はロマーノの方に時折視線を向けながらも、外交・社交へといそしんでいた。
久しぶりに会う各国やその上司たちと旧交を温め、うちに出資を考えているという他国の企業家と談笑し、旧東側諸国・社会主義国家諸国と少々シニカルな会話を交わし、また新興国の起業家の話はとても興味深くきかせてもらった。
そして、次に我が国の実業家、昔は攻撃的な経営スタイルで知られ広く嫉妬され、また今は老いて好々爺となった男を見つけそちらに足を向けた時・・・
「あの、失礼ですが・・・」
声をかけられ振り返ると、フランス系と思われる美しい女性が立っていた。
薄い金髪に可愛らしいピンク色のふんわりとしたドレスに身を包んだ女性だ。一目みれば忘れないような印象的な灰褐色の瞳の持ち主だが・・・どうも覚えがない。
「何かごようですか?」
このような場に慣れていないのか、彼女はひどく緊張した様子で、俺の顔をちらりと見上げた後すぐに恥ずかしそうに視線をそらした・・・が、それが失礼になると感じたのか、顔を真っ赤にしながらすぐにまた視線を戻してきた。
その健気とも思える仕草にはとても好感が持てる。
「私、あの、カルヴェ家のロズリーヌと言います。あの・・・すみません、初対面なのにぶしつけに・・・」
見覚えが無いとは思ったが、やはり初対面のようだ。
「いえ。あぁ、私はルートヴィヒと言います。何かお困りですか?」
国であることは口にせず人間として名乗り、また怖がらせないように細心の注意を払って頬笑みかけると、ロゼリーヌと名乗った美しい婦人は少し肩の力を抜いたようだった。
「実は先程から貴方の事を見ていたのですが・・・・」
彼女との会話を始めてからしばらく・・・そう15分ほどたったころだろうか。
“ヴェー”という聞きなれた・・情けのない声に振りかえると、今日はフォーマルを着たヴェネチアーノが幾分情けない顔をして立っていた。
俺が女性に一言断って、彼の方を振り返ると、
「ヴェー、兄ちゃんが怒ってかえっちゃったよぉ」
と、前置きも無しに言った。
「何?」
なぜかメソメソとしているヴェネチアーノから目を離して会場に目をやると・・・先程(といっても、女性に話しかける前のことだ)は確かにいたはずのロマーノの姿が見当たらない。まさか女性と・・・と思ったが、
「怒って?」
という言葉に、その可能性を消した。
「そうだよ。兄ちゃんすげー怒ってた」
「なんでだ?」
「そんなの、お前が女の人と楽しそうにしゃべってるからじゃないかぁ~」
その言葉に俺は絶句した。
「な・・・ち・・・何を言っている!」
とんだ誤解だと言いかけて・・・相手が違うことに気付いた。俺は舌打ちをし、
「・・・すまんが、彼女を頼む」
と、ヴェネチアーノに彼女を頼むと急いで俺はパーティ会場を後にした。
しまった。ロマーノの居場所を聞くのを忘れていた・・・と気付いたが、ヴェネチアーノはロマーノが出て行ってすぐに俺に教えてくれていたらしく、運よく俺は廊下で彼を捕まえることができた。
作品名:My lover is selfish 作家名:あみれもん