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【APH】せつないほどに、痛い。

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 長い過酷な戦いのち、訪れた平和。


 大王は青年時代失ったもの与えられなかったもの全てを取り戻すかのように、甥のハインリヒを寵愛し、傍に置いた。それをプロイセンは間近に見つめ、その輪に自分がいることがとても幸せだった。
 かつて自分が父王に与えられなかった愛情を惜しみなく、少年に与え、それに少年は答え、頬を染めて、大王に微笑む。それを満足そうに見つめ、笑みを浮かべる大王に漸く、自分は安寧を与えてやれたと。

…幸せな時間、笑いに満ちた安らかでやさしい日々…。

 それは、余りにも短く儚い時間であった。美しいもの、やさしいものは唐突に奪われ、掴んだ手のひらから容易く逃げていく。




「…プロイセンよ。お前に私は何も残せてやれないようだ…」



子のいない大王が自分の後を託すべく、可愛がっていったハインリヒが連隊演習の帰途、天然痘で急死したと悲報を受けた大王は言葉を失くし、すべてのものに絶望し、書斎に籠もった。慰める言葉など、仲睦まじい親子のようなその様子を間近で見てきたプロイセンはどう声をかけていいのか解らず黙り込み、一際、小さくなった大王の老いた背中をプロイセンは見つめた。

「…親父…」

そう呼びかけて、プロイセンは口を噤む。慰めの言葉はどれも空々しい。プロイセンは赤い目を伏せた。
「…あれはまだ19歳だった。…丁度、私が国外逃亡を計り、捕らえられた歳だ」
掠れた声が呟くように言い。大王は視線を伏せ、顔を覆った。
「…そして、私の為にカッテは死んだ。…ああ、何故、ハインリヒ、お前の為に私が身代わりとなれたなら良かったものを…」
「…親父」
プロイセンは大王を呼ぶことしか出来ない。

 ああ、ずっとこの男は俺の為に生きてきた。…そして、俺の先を案じて嘆いている。

胸が詰まるような暗い喜びがプロイセンの胸の中に広がり、飽和する。
「…お前を列強の一員に加え、やがては纏まりのないドイツ諸邦をひとつにすることが私の夢であり、望みだ。…でも、私はひとだ。もう残された時間は僅かしかない。私の夢を、お前を託すことが出来ることが出来る者が……漸く……何故、老い先短い私ではなかった…ハインリヒよ…」
語尾が掠れて、滲む。プロイセンはそっと孤独な王の背中を抱きしめた。