【APH】せつないほどに、痛い。
自分はどれだけこの孤独な王から色んなものを奪っていったのだろう。そして、奪い続けていくのだろう。疫病神のような俺がいる限り、この王はあらゆる幸福から見放され、決して幸せにはなれない。
それでも、プロイセンは共にいたいと願う。
「…親父、」
許してほしい。そんな言葉を口にすることは驕りだ。自分のエゴに雁字搦めになりながら、プロイセンは王の背中を抱き締める。
俺は、お前さえいてくれれば何もいらない。お前がいなくなるとき、共に自分もこの世界からいなくなりたい。いつまでも、一緒に…。
悲しみに打ちひしがれる大王の背中に小さく呟き、自分亡き後のこの身を案じる王にプロイセンは一滴、涙を零した。
ひとの一生は、一瞬だ。
紺青の空を流れていく星のように、瞬きひとつのうちに終わってしまう。
荘厳な教会の鐘が鳴り響き、プロイセン国王フリードリヒ?世の葬儀に国民、皆が喪に服し、偉大なる王を見送った。
「……フリッツ、フリードリヒ、親父、俺の王、俺の子、俺の……」
倒れたとベルリンの宮廷で知らせを受け、サンスーシにプロイセンは急いだ。あの長い戦争で患った病を抱え、ハインリヒ亡き後、憂いを極力残さぬようプロイセンの為に尽くし続けた王は、とうとうプロイセンを置いて逝ってしまった。遥か遠く、プロイセンの手の届かない場所へと。
『…プロイセン、我が主、我が友、我が子よ。…どうか、悲しまないでくれ』
悲しむなと無理なこと言う。…何人ものひとを自分は見送ってきた。それは仕方のないことであり、割り切っていた。…この王の死も自分はいずれは受け入れ、時間が過ぎてば悲しみも癒えていくのだろう。でも、このぽっかりと自分を穿った喪失感と恐ろしいほどの静寂に身体が震えて、まともに立つことすら出来ない。
…お前がいないと、立てない。見えない。暗い。何も聴こえない。声も出ない。どうやって、呼吸していた?…解らない。…俺は息をしているのか?
「…フリッツ、親父、…どうして…」
執務に使われていた椅子には亡き王が愛用していた裏地の赤い、青いマント。プロイセンは縋るように手繰り寄せ、顔を埋めた。
「…俺も連れて行ってくれ。…置いていかないでくれ…」
叶わぬ望みだと知りながらも、プロイセンは縋り、慟哭する。
ああ、お前のくれた愛が俺を変えてしまった。
作品名:【APH】せつないほどに、痛い。 作家名:冬故