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【リリなの】Nameless Ghost

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 しかし、なのはが心根を砕いている事が先ほど述べた全く何気ない風を装って言われた言葉だと知っていればもう少し対応が違ったかもしれない。

 結局の所、この時のクロノはなのはを甘く見ていたと言うことだ。

 何を言われたのかを聞かれたなのはは少し逡巡して、それを言うべきかどうかを迷った。

『なのはは戦うことが好きなんだね』

 言ってしまえばそれだけの言葉なのだ。しかし、もしもそれがアリシアだけではない自身の周囲の共通見解だったらと考えるとなのははやはり怖く感じる。
 なにぶんクロノはなのはにとって二人目の指導教官のようなもので、その彼から見た自分というものがいったいどういうものなのか。実直な彼の事だ、おそらく嘘偽りなく客観的な事実を持ってそれを告げるだろう。一人目であるユーノが飴の役目なら彼は鞭の役目を担っているといえばいいのか。
 故に、なのははそれには答えず、問いを返すことにした。

「クロノ君は、どうして執務官になったの?」

 クロノは、それがアリシアから言われたことかと疑問に思うが、どうやら違うようであると察した。そして、その問いかけがアリシアの言葉とどう関わるのか、推測は出来ないがなのはがこうして面と向かって自分に聞いてくることなのだから、何か重要な意味があるのだろうと察し、真剣に答えることとした。

「そうだな。一番最初の理由はたぶん……強くなりたかったから……弱い自分を否定したかったらだろうな」

 こうやって改めて自分のことを話すのは照れくさいと感じながら、クロノはまだ誰にも話したことのない自身のルーツを語り始めた。

 淡々と語られる言葉になのはは引き込まれるようにただ黙り込み、時折相づちを槌ながら耳を傾けた。

 クロノの父親がかつて、アースラの同型艦の艦長を務める有能な提督だったこと。その指導員がつい先日顔を合わせることとなった老提督グレアムだったこと。
 そして、父の指揮する艦が任務中にロストロギア関連の事故に遭い轟沈し、ただ一人残された父のみがその犠牲となったということ。

 その葬儀で涙を見せず気丈に振る舞う母リンディを見て。この人を守れるように、二度と悲しい思いをさせないことを心に誓ったこと。
 そのために力を欲したこと。

 話し終えてクロノが思ったことは、自分はどうしてこんな事を出会ってまだ間もない年下の少女に話しているのだろうかと言うことだった。

 ただ一つ、父の殉職の原因となったロストロギアが今自分たちが追っている闇の書だったということをクロノは隠した。

「ありがとう、クロノ君」

 昔を思い出したのか、少し感情が少しセンチメンタルに沈むクロノの横顔を見ながら、なのははいつの間にか浮かび上がっていた涙をそっとぬぐい、朗らかな笑顔で彼に礼を述べた。

「いや、少し話しすぎた。とにかく、僕の事情は特殊すぎてあまり参考にはなら無かっただろうけど」

 なのはが何を悩んでいるのか分からないクロノは、この話が彼女にとってどういった影響を与えるのかは推測しきれない。
 自分に執務官になった理由を聞いてきたと言うことは、おそらく、自分の将来に関する悩みなのだろうと当たりを付け、クロノは言外に「自分を参考にするな」とほのめかすだけで済ませた。

「ううん。とってもためになったよ。ありがとう、クロノ君」

 なのははそんなクロノの思惑をカケラも理解せず、ただ自身の悩みの解決の参考になりそうな予感に喜び、ペコリと彼に頭を下げた。

 自分の言ったことを真摯に受け止めようとする少女にクロノは少し肩をすくめ、改めて「参考にはするな」と言おうとしたが、彼の鍛えられた聴覚があわただしくこちらに近づいてくる足音を感知した。
 クロノは面を上げ、その間の悪い足音の主を視界の捕らえた。

「なのは!」

 突然背後から響いた高い声になのはは一瞬肩をビクッと震わせ、名前を呼ばれた方向へとおそるおそる首を向ける。

「ユーノ、くん?」

 そこには息を荒くして、何故か自分たちに鋭い視線を向けるユーノの姿があった。

*****

 その光景を目にしたとたん、いい知れない不快感が胸に襲いかかってきたことをユーノははっきりと自覚していた。
 なのはがラウンジを飛び出して行った折りに一瞬だけ確認できたその表情にユーノは見覚えがあった。
 あれは、悩みがあるにもかかわらずそれを自己の内面に押しとどめて平気なフリをする時の顔だった。

 ユーノが一番見たくない彼女の笑顔。それを見せられては居ても立ってもいられず、気がついたときには困惑するフェイトを置いてラウンジを飛び出していたのだ。

 なのはの支えになりたい、悩みがあるのなら分かち合いたい。それは、命の恩人でありずっとパートナーで居続けると誓ったユーノの心からの望みだった。

 そして、がむしゃらになのはを求めて走るその視界の端に映った求める彼女の姿に彼は想わず声を上げた。

 そして振り向いた彼女の表情には先ほどの憂いの籠もった笑みは既に無く、何かを吹っ切ったような朗らかな暖かみのある笑顔だった。

 これは、どういう事だろうか。ユーノは愕然として彼女の側にいた人物に目をやった。

「ユーノか。どうかしたか?」

 その声を聞いたとき、ユーノはビシリと胸の中で何かが割れる音が聞こえた。

「あ、ユーノ君。どうしたの?」

 なのはの笑顔はユーノが好きな笑顔に違いはなかった。ならば、この笑顔を取り戻させたのは一体誰なのかとユーノは少し困惑してたたずむ少年、クロノを睨むような視線を送った。

「何があったのかは知らんが、いきなり人を睨むな。不躾だぞ」

 半年前の彼なら、ここで一言二言なり嫌味を言って来ていただろうが、久しくあった彼はそんなトゲが取れて随分丸く柔らかくなっていた。

「別に、たいした理由はないよ。なのはがいきなり居なくなったから心肺になっただけ。僕は、なのはの……パートナー、だからね」

「ゆ、ゆーのくん。恥ずかしいよ……」

「だったら、恋敵を見るような目をするな。僕となのはは難でもないんだからな」

「こ、恋敵って。クロノ君!」

「僕はまだ仕事中で忙しいからな。まだ上への報告書と始末書が仕上がってないんだ」

「あ、そ、それは……ごめん」

 その始末書を書く原因の一端となったユーノとしてはそう言われてしまえば申し訳なさしか生まれない。
 なのはと一緒にいたクロノは気にくわないと思うが、彼も自分の仕事を裂いてなのはの話を聞いてくれていたことには感謝するべきだと思い直す。
 見るとユーノの手を取るなのはも少し申し訳なさそうにしているのが分かった。

「君たちが気にすることではないさ。責任者は責任を取るために居るんだからな。それじゃあ、僕は仕事に戻るよ。君たちはもう少しゆっくりしていくといい」

 クロノは年上ならではの余裕を持って手を振り、そのまま書類の束を抱えながら廊下を後にした。

「ゴメンね、ユーノ君。わざわざ探しに来てくれたんだ」

「ううん。あまりたいしたことがなさそうだったから安心した。クロノから……何か言われた?」

「えっと、うん。だけど、恥ずかしいから内緒」

「………そう」