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【リリなの】Nameless Ghost

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(それが出来たのがクロノなんだ。僕じゃなくて)

 薄暗い感情。おそらく嫉妬ともいえるような感情が意識を支配していくことをユーノは確かに感じていた。

--PiPi--

 その感情に引きずられるように陥っていく寸前、ユーノの携帯電話が音を立てた。

(なのは?)

 それがメールの着信音ではなく、通話受信音であることに少し首をかしげながらもユーノはそれを取り上げた。
 その先にあるのは『非通知発信』という文字であり、相手側が誰なのかをうかがい知ることは出来ない。
 セキュリティーの問題もあり、それに出ようかどうか一瞬迷ったユーノだが、結局通話ボタンを押すことにした。

「もしもし?」

 相手側には失礼かもしれないが、ユーノは自分の名前を名乗らずに相手を促した。

『ああ、私だよ、私。分かる?』

 耳に当てたスピーカーから聞こえる声はどこかで聞いたことのあるような声だったが、ユーノはため息をつき、

「申し訳ないけど、僕は『私』なんて言う人を知らないんだけど……振り込め詐欺なら他を当たってくれないかな?」

 最近テレビでよくやっている【オレオレ詐欺】への対応マニュアルに沿って言葉を返した。

『振り込め詐欺? 何それ? ともかくアリシアだけど、ユーノだよね?』

 アリシアと名乗った相手は耳慣れない言葉に怪訝な声を上げるが、果たして彼女がそれを知らなかったのか、知っていて惚けているのかはユーノには判断が出来なかった。

「そういう新手の詐欺が地球では流行っているんだよ。こんばんは、アリシア。どうしたのこんな時間に」

 ユーノはそういって改めて時計に目を向けた。時計の短針と長針はすでに良い子は寝る時間を指し示していた。
 まあ、アリシアが良い子とは鳥肌が立つようなお世辞でも言えないが、一般的な感覚では電話をするには少し躊躇するような時間ではある。

『ちょっとお腹が空いたからこっちに戻って来たんだけど。どうも、食べ損ねたみたいでね。良い子のフェイトは眠ってしまったし、クロノとリンディ提督は本局で、エイミィも電算室から出てこないから外で済ませようと思ったんだけど……』

「フェイトはアリシアと違って規則正しい生活だからね。それにしてもこんな時間まで何も食べなくて大丈夫だったの?」

『無重力空間では食欲が減衰するからね。時間感覚も崩壊してしまうようなところだから』

 アリシアは苦笑混じりにそう答えた。ユーノは無限書庫が無重力空間の広がる非常に薄暗い場所と言うことは知っていたが、それが具体的にどのような場所なのかを知らず、アリシアの言葉にも『そういうこともあるのか』と実に軽く考えた。

「なるほどね。それで、僕に何のよう? 僕の部屋には食べられるものなんてほとんどないよ?」

 正確にはインスタント類の非常食的なものはそろっているのだが、身体的に5歳児であるアリシアにそれを食べさせるのは少し気が引ける。それに、ユーノ自身も今日の夕食は本局で済ませてきたため食材の買い出しなどは行っていなかったのだ。
 何せ、いくらその精神や知能が圧倒的な老成を誇るとはいえ、その身体はまだおやつやお昼寝が必要になるような年齢に違いないのだ。

 この時期に偏った食生活を送れば確実に成長に障害が生じるだろう。

『さすがに年下の男にたかろうなんて思わないさ。外に出るにしても何がどこにあるかが分からないから、安くて美味しい店があれば教えてもらえないかなって思って』

「年下って、アリシアの方が小さいじゃないか。それに、こんな時間に出歩いたら補導されるよ?」

 僕でも危ないんだからさというユーノの言葉にアリシアは少し声を飲み込んだ。

『うーん、そうか。何とかならないかなぁ』

 アリシアの声から類推するかぎり、随分辛そうに思えた。これは、カップ麺でもいいから何か食べさせた方がいいかなとユーノは思うが、その脳裏に妙案がひらめいた。

「そうだ、ちょっと待ってて。後で念話でかけ直すよ」

『ん? 分かった』

 ユーノは「それじゃ、後で」と言い残し一度携帯電話の電源を切った。アリシアからかけられてきた通信先はおそらくプレシードだろうと予測が付くが、携帯電話からデバイスに対しては通信回線が開かれていないため、ユーノからアリシアに連絡を送るためには直接念話で通信する必要がある。アリシアの念話が可能な距離はそれほど長くはないが、スクライア邸からハラオウン邸程度の距離なら問題はないだろう。
 そう思いながらユーノは携帯電話の電話帳を開きその二番目にある連絡先へと回線を開いた


『はい、高町です』

 通話音が暫く程の時間もなくとぎれ、その代わり人なつっこい女性の声がスピーカーから響いた。いつものことなのだが、電話越しの声とは少し音の質が変化してしまうようでユーノにはまだその感触がどうも慣れられずにいる。

「あ、こんばんは。夜分に申し訳ありません、スクライアです。美由希さんですか?」

『あ、ユーノ? どうしたのこんな時間に。なのははもう寝ちゃったけど?』

 対話口に出たのは、高町家の長女、なのはの義理の姉である高町美由希だった。
 ユーノとしてはフェレットとして高町家に逗留していた時に何かと弄り倒された相手であるので、若干の苦手意識があるのだが関係は良好だ。

 今話している彼女は少しよく聞くと声に若干の疲れが混じっているように感じられ、どうやら彼女の兄との夜の鍛錬から戻ったばかりのようだった。

「あ、いえ。なのはじゃなくて、ちょっと桃子さんにお願いがありまして……」

『んー、なに?』

「えーっと。なんて言えばいいのかな。フェイトの姉妹でアリシアって子がいるんですけど」

『うん、知ってるよ?』

「そのアリシアにちょっとご飯を食べさせていただけないかなと……」

『あー、いいと思うよ? ちょっとかーさんに聞いてくるから待っててくれない?』

 美由希はそう言い残して電話を一度保留にする。ユーノは保留を示す軽快なメロディーを聞きながらぼんやりと待つことにする。

 思えば、こういったやり取りにも慣れたとユーノは思った。放浪の民であるスクライアの性質上、異なる文化や環境に対する適応能力は高いと感じていたが、それまで異文化とここまで深く付き合う事はなかったことを彼は気がついたものだった。

 スクライアの人間関係とは基本的に一期一会。特定の世界、文化に依らずむしろそう言った異なるものを単なる研究対象として位置づけ、自らは特定の神をあがめることもしない。
 スクライア族の源流は未だ不明であり、彼等は自分たちがどこから発生しそして、何処へ向かおうとしているのかその源泉ともなるものが存在しないのだ。故に部族全体を一つの個としてまとめ上げるしか他がなかった。スクライアが過去を発掘し始めたのは、自分たちがやがて帰るべき故郷を探すためだとも言われてる。

 この世界、この国の人達とはまるで逆だとユーノは感じた。