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【リリなの】Nameless Ghost

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 自分の出生を知ってもなお、フェイトにとってその夢は幸せなものに映るのだろうか。

 とりとめのない考えだった。それをフェイトに確認するのは怖いと感じる。ともすれば自分は恨まれても仕方のない位置にいる。にもかかわらず、フェイトはアリシアを姉と呼び、ともに歩いていこうと約束を持ちかけた。

 アースラに拘留されていたときも、怖い夢を見たときにはアリシアの布団に潜り込み、人寂しいときはアリシアについて回り、面白いかどうか分からないアリシアの話を頷きながら熱心に聞いていた。

「だけど、ごめん、フェイト。まだしばらくは君に会えないと思う。見つけたんだ、ひょっとすれば闇の書をどうにか出来るかも知れない方法が。だけど、それはとても怖い。やらない方がましだって思うぐらい勝算が低いんだ。ひょっとすれば、クロノやリンディ提督、君や君の親友達を裏切ることになるかも知れない」

 無限書庫で検索するにつれ、闇の書に関する情報とは別に確信できないある法則をアリシアは知った。
 それが果たして何を意味するのか。その答えは殆どでかかっている。
 そして、その結果がもたらす未来をアリシアは何となく想像することが出来る。

「だけど私は、もう繰り返したくないんだ。今度こそ、今度こそは繰り返さないって誓ったんだ。ごめん、フェイト。君には辛い思いをさせるかも知れない。今のうちにさよならを言っておくよ」

 アリシアはそう言って軽く息を付き立ち上がる。

 窓の外に映し出された擬似的な夕焼けの風景が二人に柔らかな陽光をさしのべ、その光の中でアリシアはフェイトの額に小さな唇をそっと重ねた。

「お休みフェイト。今は良い夢をね」

 アリシアはそう言い残し、生けられた造花の花瓶のそばに置いておいたもう片方の花束を手に取り、そっと静かにフェイトのベッドを後にした。

 この病室は元々一室を二つに仕切ることが前提にされた物であるらしく、仕切り壁の代わりに設えられたカーテンはきわめて高い遮光性を持つため、その向こう側のシルエットが映ることはない。
 また、その長さも床に届くほどの長さが確保されているため足下が見えることもない。
 アリシアはユーノが眠る区画に足を踏み入れたとき、その静けさを感じるとともにそこにいるのが一人ではなかったことに驚きを感じられなかった。

「居たんだ、なのは」

 フェイトが眠る壁際の反対側に設えられたユーノのベッドは両区画が鏡写しの間取りになっている事を示す。
 そのベッドのそば、先ほどアリシアが腰を下ろしていた物と同様の丸椅子に腰掛ける人物が居た。

 なのははアリシアの問いかけに答えず、ただじっと管によって酸素供給されているユーノの寝顔を見つめているだけだった。

「いつから?」

 アリシアはなのはのそばに歩み寄り、その近くのダッシュボードの上に見舞いの花束をのせた。
 ユーノもフェイトと同様、搬入されてから今まで目を覚ましていない。しかし、その表情に浮かんでいる物はフェイトのような安息ではなく、何の感情も乗せられていない空虚なものだとアリシアには感じられた。

 なのははただ黙っている。アリシアの声も聞こえていないように押し黙り、辛そうに唇を噛みしめ膝におかれた両の手は血の気が引くほどに硬く握りしめられている。

 さもありなん、とアリシアは思う。
 詳しい状況はアリシアには分からない。しかし、クロノ達の言葉によればユーノはなのはをかばって敵の蒐集にあったのだ。
 そして、ユーノはフェイトや自分と違いかなり重い損傷を受けた。本来なら自分が見に受けるはずだったそれを被ったユーノを見て、なのはが心穏やかに居られるはずはないのだ。

 だが、とアリシアは思う。

「不幸中の幸いだったね」

 その言葉を聞いてなのはが初めて反応を返した。
 きつく握りしめられた両の手がさらに力を増し、その口元からは歯と歯がこすりあわされる不快な音まで漂ってきそうに思えた。

 アリシアはその幻聴を隅に禁煙パイポの端を折り口にくわえた。

「何が……何が、幸いだって言うの……」

 呪詛のように漂う幼い少女の声にアリシアは煙のように白んだ水蒸気を口から吐き出した。
 アリシアは少しだけ目を閉じ心を落ち着かせた。
 今から自分は、まだ二桁の年にも到達していないような少女に自分自身の傲慢な思想をたたきつけなければならない。その上で彼女が何を思い、何を考え、何を判断するのか。アリシアはそれを知るために、きわめて冷徹な表情を顔に浮かべ、パイポを加えたまま振り向き壁に背を預けた。

「幸いだよ、少なくとも君たちは生きて戻ってこれた。それ以上の幸運なんてない。生きていれば次がある、もう一度戦うことが出来るんだから、それを喜ばないで何をしようって言うの?」

 最悪の思想だと言うことはアリシアは理解している。しかし、ベルディナの感覚を用いればこそ、それはアリシアにとって揺らぐ事のない真実なのだ。

「っっ!!」

 頬をはじかれる感覚、椅子が床に倒れ込む甲高い音が響き、アリシアは横っ面に状態を崩し床に尻餅をついてしまう。

「……戦えるから嬉しいなんて……最悪だよ、アリシアちゃん」

 振り抜いた掌に痛みを感じるようになのはは自身の左手を押さえ、苦しそうな声を上げた。

「戦いを喜べない? なのは」

 先ほど投与した気付け薬は確かに意識をしっかりと保ってくれる物だが、それは身体的疲労を軽減するものではない。さらには無重力に適応し始めている筋力や骨格が明確な衰えを示すため、アリシアはしばらくそのまま立ち上がることが出来なかった。

「喜べるはずない! 戦うことは辛いし、怖いし、悲しいんだよ。ユーノ君は、私のせいで怪我しちゃった!」

 髪を振り乱し激高するなのは。まるで全身の痛みに耐えるように身体を抱きしめ、そのまま下身の力が抜けるように膝を折った。

「もう嫌! こんな辛いのはもう嫌なの! もう、誰にも傷ついてほしくないのに!」

(……ああ、なんて綺麗なんだ……)

 伏して身体を震わせる彼女を見て、アリシアはそれを美しいと感じた。
 なぜこの少女のシンボルである色彩が無垢なる白と幸福の色彩である桜色なのか。アリシアはその意味にようやくたどり着いた。

「誰にも傷ついてほしくないんだったら、なのははどうして戦うの?」

 自分は彼女を導く立場におらず、その資格もない。

「誰かを傷つけることをよしとしないのに、君はどうして戦ってきたの?」

 しかし、アリシアはどうしようもなくこの少女に関わりたいと思うようになっていた。

「私には貴方の気持ちが分からない。だから、教えてくれないかな?」

 本当なら放っておけばいい。自分は戦う立場にいないのだから、この少女が何を思い何を信じて戦おうとも自分には関係がないはずだった。

 だが、蓋を開けてみればどうだ。確かにそのきっかけはレイジングハートが現状ではアリシアぐらいでしか弄ることが出来ないということだった。そのよしみで、レイジングハートの調子を把握するためになのはの訓練に付き合うようになった。

 そして、今となってはこんなにも彼女が気になってしまう。