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【リリなの】Nameless Ghost

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 今でも、本当ならただ労いの言葉をかけ、次は頑張れとか、今は身体を休めた方が良いとか、そんな杓子定規のような言葉を贈っておけば済む話だったはずだ。

「私は、なのはの話が聞きたい」

 アリシアは立ち上がり、未だ膝をついて惚けるなのはの肩をそっとなでた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 バタンと扉の閉まる音が廊下に鳴り響き、硬質な靴のかかとが踏みならされる音が静寂な病棟の壁に反響する。

 アリシアは今は静かになっていく胸の振動を身体に感じながら、その病室でふるえる少女が口にした言葉を何度も何度も反芻していた。

 行き交う人の波が徐々に増えていき、病棟から出る頃にはこれより仕事仕上げのスパートをかけるべく肩に力を入れる者、すでに深夜までの残業が決まっており陰鬱に吐息を吐く者、それに入れ替わるように休憩に入る者など、様々な人々の往来が増え始めていく。

 その中でも異質であると自覚しているアリシアは時折向けられるいささか無粋な視線に愛嬌のある笑みを返しながらその脳裏には薄暗い歓喜を感じ取っていた。

(やっぱり、君は戦うことから逃れられないんだねなのは)

 行き交う人々の中、アリシアの視線からはとても広く感じられる回廊の中央において彼女は立ち止まり、薄い空色に染められた天井を仰ぎ見て目を細めた。

(そう、君には力がある)

 人の波は小さなアリシアを物ともせず、その流れを淀ませることなくすり抜けていく。
 まるで世界が自分を認識せず、停止する自分を無価値なものと定義するようだ。

(力があるからこそ君は迷わないのか。その力を持って何かを助けようとするのだろうか)

 時の流れより見放され、常に同じ所にとどまり続けるその感触は、今まさに感じている感覚と同質のものだとアリシアは認識していた。

(私は、君が羨ましい)

 アリシアは再び歩みを進めた。

(君には力がある)

 自身の歩みの速度は流れる人々の歩みに比べれば酷く散漫でたまらなく遅々としたものだ。

(私に君ほどの力があれば、ともすれば私も悩むことなく戦うことを選択できたんだろうね)

 体感覚の整わないこの身はともすればわずかな外乱に翻弄され地に膝をつくだろう。

(だけど、私にはその力がない)

 しかし、見上げればそれを見守る瞳がある。

(だから、私は……戦わない道を選ぶよ)

 自分を見ていてくれる視線がある。

(ありがとう。君のおかげで私も決心が付いた)

 時にはそれは手をさしのべ、柔らかな笑みとともに側を支えて歩いてくれるだろう。

(私は、私の道を行く!)

 道は決して平坦ではない。それでも、共に歩むものがあれば、その道は決して険しいものではない。

 彼女の物語はここにおいてようやく産声を上げた。