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【リリなの】Nameless Ghost

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 管理局提督の制服の上からグレーのコートを羽織り、白い手織りのマフラーで襟を包みながら、グレアムは紳士らしい手つきでコートと同じデザインのシャッポを手に持ってアリシアに微笑みを向けていた。

「ああ、座ったままでいいよ。隣、よいかね?」

 いきなりのことで多少気を動転させたアリシアは驚いて立ち上がり提督へ儀礼を送ろうとするが、グレアムはそれを手で制し、その代わりにアリシアの隣に座る許可を求めた。

「ここは私の家ではありませんから。提督の自由にしてもよろしいと思います」

「いや、教会、礼拝堂とは等しく迷える人々の家だと故郷の牧師は言っていたよ。だから、君や私にとってもここは自分の家だと思っても構わないのではないかね? 隣、失礼するよ」

 グレアムは「よいこらせ」と年寄り臭い言葉を吐息とともにつき、ベンチを揺らさないようにゆっくりと席に着いた。

「では、この場では私と提督は家族のようなものと言うことですか……」

 先ほどグレアムが言った言葉を反芻し、アリシアは苦笑するように頬をゆるめるが、彼女自身それも悪くはないと思っていた。

「なるほど、おもしろい考えだね。では、どうかね、アリシア君? 家族である私に君の悩みを聞かせてみるというのは」

 グレアムはアリシアの表情を伺わず、自身も彼女に習うように礼拝堂の中心にそびえる大聖剣十字の象徴を見上げ問いかける。

「……提督は、どうして今日ここに?」

 アリシアはあえてグレアムの問いに答えず、彼がどうしてこの日ここに訪れたのかを問いかけた。

「今日この日に礼拝堂を訪ねる理由など、一つしかないと思うがね」

「祈る故人がいるということですか?」

「この仕事を長く経験していると、それこそ両手に余るほどだよ。特に11年前。私はこの手で友人を一人失った。後悔と懺悔、そして許しを請うために私はここにいる。しかし、君は幼いにもかかわらずたったの一人でここの門を開いたらしい」

 アリシアは少し乾いた吐息をついた。口元から立ち上る白い煙が天井へと舞い上がり、アリシアはそれが消える様を見つめ、口を開く。

「半年前、母を亡くしました」

 その知らせはグレアムの下にも届いているはずだった。それでいてあえて彼がそれを聞いたのは、いったい何の思惑があるのだろうか。
 アリシアはどこか自分がこの人物に対して疑心暗鬼になっているような心持ちを味わう。しかし、それは意味のないことだと思いその感情を打ち払った。

「そうか、君の母は君に何を語りかけるのかね?」

「それは、分かりません。私は聖王陛下を信頼していますが、信仰心というものに恵まれていないようで、死者の言葉を聞くことは出来ないようです」

「なるほど、私も残念ながらその信仰心が足りていないようだ。あの日以来、私はクライド君の声を聞いたことがない」

 信仰心があれば死者の言葉を聞くことが出来るのか。それが出来れば、プレシアももう少しはまともな最後に出会うことが出来ただろうとアリシアは思う。

「クライド……クライド・ハラオウン元提督ですか。クロノの父親の」

 アリシアもその名前を知っていた。リンディやクロノ本人から聞いたことではない、単に無限書庫で闇の書に関する過去の調書を調べていたところ最初に発見したものだ。

「私は彼を殺した。二人は何もかも変わってしまったよ。だからこそ、それに報いるために今度こそ闇の書を何とかしなければならない」

「提督は……リンディ提督はその手段を知っているかもしれません」

「どういうことかね?」

 グレアムは見上げていた表を下げ、初めてアリシアの横顔に目を向けた。
 彼女は、何とも形容しがたい表情をしていると彼には思えた。
 何か口にはしたくないことを腹にため込んでいるとグレアムは感じた。

「無限書庫を探索中に奇妙なことがありました。オカルトやホラーのたぐいではなく、闇の書のことに関して調べていく内に何者かに誘導されているような感覚がしたんです」

 アリシアはそのことに気がついたときのことを詳細に思い出すことが出来た。

「ふむ」

 グレアムはアリシアの言葉を待った。

「私が得たい情報、必要とする書物が妙に近い場所にあった。後々よく調べてみれば、それはまるですでに何者かが同じことを調べて整理していたような配置に並べられていた。間違いなく、私よりも以前に誰かが闇の書に関して長い時間をかけて調べていた。まるで自分はその人物がたどった道筋をトレースしているように感じられ、酷く違和感をもったんです。それだけのことをしているのなら何らかの形で闇の書に対する対策計画なり対策案が発表されているか、現在研究中か。しかし、そのような情報はどこにもなかった。多少違法な手段を用いて深く調べてみても、それは存在しなかった」

「つまり、極秘裏に何者かが独自に闇の書に対して何らかの方策を練っていたということかな」

 グレアムは目を細めた。

「サーバーの使用履歴を復元してみた結果、それはだいたい10年前から地道に行われていました。利用者の履歴を復元することは出来ませんでしたが、誰が調べていたのかはおよそ見当がつく。10年前、闇の書、無限書庫を秘密裏に私的使用が出来る権限者というキーワードを用いれば、浮かび上がる人物はほとんど特定できる」

「それが……リンディ君ということかね」

「最も確率が高い人物がリンディ提督ということです」

 グレアムは言葉にならない息を付き、沈み込むようにベンチの背もたれに寄りかかった。
 リンディが何をしようとしているのか、アリシアには高い確率で推測することが出来る。もしも、それが真実であり、もしもそれを成し遂げるために裏で仮面の男を操っているのであれば。
 身内を疑うことは精神的に負担がかかるとアリシアは思う。

「それで、君はその計画のどこまで知っている?」

 グレアムの問いかけにアリシアは少し逡巡した。
 言うべきか言わざるべきか。実質的にこの件に関するグレアムの権限は低い。本来的に部外者であるグレアムに話しても良いことかとアリシアは思うが、グレアムが現在の無限書庫の管理者であること、彼の使い魔の姉妹が何かと自分に気を遣ってくれたこと、そして何より彼もまた闇の書に関しては部外者ではないということを鑑みれば迷うことはないと彼女は判断した。

「闇の書の永久凍結……いえ、むしろ長期間行動不能にするだけの計画と言うべきでしょうか。闇の書は真の持ち主以外によるシステムへのアクセスを認めない。それでも無理に外部から操作をしようとすると、持ち主を呑み込んで転生してしまうという馬鹿みたいな念の入れようです。だから、完成前ではプログラムの停止や改変ができませんから、完全な封印も不可能になります」

「やはり、そうなのか。では、11年前の事故は何者かが無理矢理それにアクセスしようとして発生したものという説明が付く」